この記事でわかること・結論
- サービス残業とは、所定労働時間を超える時間外労働において、賃金の支払いを受けないこと
- サービス残業は、経営者や管理者が社員に強制したかどうかを問わず、労働基準法違反
- 社員が自主的にサービス残業をおこなった場合でも上限時間を超えた場合は会社が処罰を受ける可能性もある
この記事でわかること・結論
日本ではサービス残業が横行しているといわれています。経営者および現場の管理者は、サービス残業がおこなわれることがないよう監督する義務があります。たとえ社員が自主的におこなったとしても、違法性を問われれば適切に対応しなければなりません。
本記事では、サービス残業の意味やおこなわれるパターン、違法性、告発されたときの対処法などについて詳しく解説します。
目次
サービス残業とは、所定労働時間を超える時間外労働において、賃金の支払いを受けないことです。時間外労働をした場合、残業代として割増賃金の支払いが必要です。
サービスには、無償で労働をおこなう意味が含まれることから、賃金なしの時間外労働のことをサービス残業といいます。
サービス残業は、経営者や管理者が社員に強制したかどうかを問わず、労働基準法違反となります。労働基準法では、所定労働時間を超える時間外労働では割増賃金の支払いが必要です。賃金を一切支払わない、割増分を支払わないなど、どのようなパターンでも賃金が不足している場合は違法とみなされます。
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
サービス残業は、次のいずれかのパターンでおこなわれます。
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
自身の能力不足が原因で残業せざるを得ないと感じている場合、賃金を受け取るのが会社に申し訳ないと思い、自主的にサービス残業をするケースがあります。企業は社員が健全な職場で働くことを促す必要があるため、サービス残業を黙認することは違法です。
サービス残業が常態化している企業では、当たり前のことになってしまい、その姿を見た新入社員もサービス残業をおこなうという負の連鎖になりかねません。このケースでは、サービス残業が問題であることを社員に伝え、現場の空気感から変えていく必要があります。
管理者の上司や経営者がサービス残業を強要するケースがあります。このような行為はパワハラの一つで、コンプライアンスの観点からも問題視されます。また、社員の能力不足が残業の原因として賃金を支払わない場合、自主的におこなうケースよりも大きなストレスがかかるでしょう。
経営者や管理者は、労働者の能力を正しく評価し、業務を適切に配分することでサービス残業の発生を予防すべきです。
オフィス外での業務であれば残業扱いにならず、賃金の支払いは不要と考え、自宅に仕事をもち帰らせるケースがあります。自宅にもち帰らせた場合も、割増賃金が支払われなければサービス残業に該当します。
サービス残業を労働基準監督署に告発された場合の流れは次のとおりです。
このような事態を避けるべく、先んじて未払いの残業代を社員へ支払うことが重要です。
サービス残業を告発されたときの流れについて詳しく見ていきましょう。
社員から告発を受けた場合、労働基準監督署が事実確認を目的に「臨検」と呼ばれる調査を実施します。臨検には、以下3つの種類があります。
サービス残業の告発の場合は、申告監督がおこなわれます。
申告監督では、期日を定めたうえで労働基準監督署への帳簿の提出を求められます。必要な帳簿は以下のとおりです。
ただし、帳簿の改ざんの恐れがあるとみなされた場合、会社への通告なく抜き打ち調査がおこなわれる可能性があります。
サービス残業の実態が明らかになれば、是正勧告書が交付されます。これは、サービス残業がおこなわれている事実が認められたため、是正するよう勧告する書面です。
次からサービス残業をさせないのではなく、過去にさかのぼって残業代の支払いが必要です。
未払い残業代請求の時効は3年です。3年前までさかのぼり、残業代を計算して社員に支払う必要があります。さらに、同額の付加金の支払いを求められる可能性があることにも注意が必要です。
未払い残業代の支払いが完了すれば、是正報告書を労働基準監督署に提出します。これは、未払い残業代の支払いが完了し、サービス残業をおこなわせないための対策を講じたことを報告する書類です。
著しい過重労働を課していたり、社会的に大きな問題となったりした場合には、書類送検される恐れがあります。この場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
一 第三条、第四条、第七条、第十六条、第十七条、第十八条第一項、第十九条、第二十条、第二十二条第四項、第三十二条、第三十四条、第三十五条、第三十六条第六項、第三十七条、第三十九条(第七項を除く。)、第六十一条、第六十二条、第六十四条の三から第六十七条まで、第七十二条、第七十五条から第七十七条まで、第七十九条、第八十条、第九十四条第二項、第九十六条又は第百四条第二項の規定に違反した者
サービス残業を課したからといって、必ずしも罰則を受けるとは限りません。社員が労働基準監督署に告発せずに過ごした場合、企業は一切の影響を避けることができます。しかし、未払い残業代の請求の時効は3年のため、退職してから告発される可能性もあります。
サービス残業は社員の生産性やモチベーションの低下につながるうえに、職場の雰囲気にも影響を与えかねません。企業がコンプライアンスを守ったうえで着実に利益を増やしていける体制づくりを目指すことが大切です。
サービス残業を労働基準監督署へ告発されたり、社員から未払い残業代を請求されたりした際は、過去にさかのぼって未払い残業代を計算し、社員に支払う必要があります。
残業代の計算方法は以下のとおりです。
1時間あたりの賃金×残業時間×割増率
1時間あたりの賃金と割増率の確認方法について、詳しく解説します。
月給制の場合、1時間あたりの賃金は以下のように算出します。
基本給与÷月平均所定労働時間数
月平均所定労働時間数の計算式は以下のとおりです。
(365日-年間休日数)×1日の所定労働時間数÷12
割増率は、時間外労働のなかでも月間60時間以上かどうかや休日労働、深夜労働などによって異なります。
労働条件 | 割増率 |
時間外労働 | 25% |
時間外労働(1カ月60時間を超えた部分) | 50% |
深夜労働(午後10時から午前5時までの労働) | 25% |
休日労働(法定休日の労働) | 35% |
時間外労働における深夜労働 | 50% |
時間外労働(1カ月60時間を超えた部分)における深夜労働 | 75% |
休日労働かつ深夜労働 | 60% |
1時間あたりの賃金3,000円×残業20時間×割増率50%
=90,000円
サービス残業は、社員が自主的におこなっているかどうかを問わず、労働基準法の第37条の違反となります。問題が大きくなれば書類送検される恐れもあるため、サービス残業がおこなわれていないかこの機会に確認することが大切です。今回、解説した内容を参考に、サービス残業の問題解決や告発に備えましょう。
労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
詳しいプロフィールはこちら