この記事でわかること
- 有給休暇中の賃金支給有無と3つの算出方法
- 有給休暇中の通勤手当の支給
- 就業規則への記載の仕方
- 各計算方法の具体例とケース別の対応
この記事でわかること
年次有給休暇(有休)の取得時、雇用主は一定の計算方法に基づき、賃金を支給しなければなりません。ただし、有給休暇中に支払う金額は選択した計算方法により、その賃金や計算の手間が異なります。
またトラブルを未然に防ぐため、労使間で話し合いのうえ、就業規則に定めるなどの工夫も必要です。この記事では、有給休暇中の賃金計算方法から知っておくべき知識まで幅広く解説します。
目次
有給休暇とは、一定の条件を満たす従業員(アルバイト・パートも有給対象者)に対して付与される休暇です。有給休暇の取得中には賃金が発生します。
賃金の算出方法は有給休暇の法律で決まっています。有給休暇取得中の賃金の算出方法として、以下の3つが挙げられます。(労働基準法第39条第9項)。
有給休暇の賃金の算出方法
具体的な計算方法については後述していますが、今すぐ金額の計算方法が知りたい方はこちらをクリックしてください。
企業は、上記3つから採用している有給休暇の賃金の算出方法を、就業規則に明記しなければなりません(労働基準法第39条第9項)。また、部署や従業員ごとに算出方法を変えることはできません(昭和27年9月20日 基発675号)。
年次有給休暇の賃金
年次有給休暇を取得した場合の賃金は、所定労働時間の労働をしたときに支払われる通常の賃金を支払うこととする。
一般的には、有給休暇中も通常の出勤・勤務として取り扱い、通勤手当も支給賃金に含みます。月給制の従業員に対し前もって定期代を支給している場合、部分的に定期代の払い戻しを鉄道会社から受けることはできないため、通勤手当を削ることは合理的ではありません。
しかし、実際の出勤日に基づき通勤手当を後払いとする場合は、支給の必要はありません。裁判所の判例として、未払賃金請求事件(いわゆる大瀬工業事件)では「労働者が現実に出勤して労働したことの故に支払われる実費補償的性格の手当でない限り、年休制度の趣旨に反する」とされています。
実費補償的性格の手当に該当する場合、有給休暇の賃金から通勤手当の支給を除外しても制度趣旨には反しません。たとえば就業規則で通勤手当を実費または後払いと定めている場合、実費補償的性格の手当に該当するため、有給休暇を除いた実際の出勤日に基づく通勤手当の支給で問題ありません。
こういったポイントを押さえ労使間で話し合い、事前に就業規則に定めておくことが職場でのトラブルを防ぐことにつながります。
有給休暇は、半日・時間単位での取得が可能です※。1時間当たりの賃金は、原則として前述の3つの方法で算出した1日ごとの賃金を、当日の所定労働時間数で割って計算します。
ただし、時間単位で取得できる有給休暇は合算で年5日までとされています。
有給休暇の賃金算出方法のうち企業で一般的に採用されているのが、通常通りの賃金を支払う方法です。企業側は有給休暇の取得日数にかかわらず、通常通りの賃金計算・支給をおこなえるため、簡易に事務処理できることがメリットです。
計算方法は、時給や日給といった期間による賃金の支給方法に基づきます(労働基準法施行規則第25条)。
期間による賃金制度の有給休暇中賃金の算出方法
週3日の勤務で週給3万円の場合、3万円÷3日=1万円を有給休暇1日当たりに支給します。
出来高払制・その他の請負制では、以下の算出方法で計算します(労働基準法施行規則第25条)。
賃金算定期間とは、直近で出来高払制・その他の請負制によって支払われた賃金を算出した際に用いられた期間です。
最後に支払われた賃金が10日間で10万円、この期間の総労働時間が80時間、平均所定労働時間が7時間だった場合、8,750円(10万円÷80時間×7時間)を有給休暇1日当たりに支給します。
有給休暇中の賃金として平均賃金を支給する場合は、以下の方法で賃金を算出します(労働基準法第12条)。
7月に有給休暇を取得する場合、4月~6月の3カ月間の給与を元に算出されます。3カ月の給与が91万円だった場合、91万円÷91日=1万円を1日当たりに支給します。
土日祝の休日を計算に含むため、通常の賃金を支給する方法に比べ、従業員に支払う賃金が少なくなることがあります。企業は平均賃金の計算が負担となりますが、支払う賃金を抑えられます。ただし、従業員にとっては受け取る賃金が少なくなるため、モチベーションの低下を招きかねないことを理解しておきましょう。
基本的には上記の計算方法を選びますが、労働日数が通常に比べて少ないと判断される場合は、以下2つの計算式から高い賃金を選びます。
直近3カ月の労働日数が少ない場合の選択肢(高い方を選択)
直近3カ月間の賃金が30万円・10万円・20万円で、50日間勤務した場合、
となり、この場合は後者の賃金を支給します。
その他、標準報酬日額を支給する方法もあります。標準報酬日額は、標準報酬月額÷30で算出されます(労働基準法施行規則第25条第3項)。
健康保険料の計算を簡易にするための仮の月給です。標準報酬月額は、1等級の5万8千円~50等級の139万円までの全50等級に分けられます。
健康保険に加入している企業の場合、従業員の標準報酬月額を把握しているため、計算は簡単です。ただし上限額が存在するため、レアケースではありますが通常の賃金や平均賃金を支給する場合より有給休暇中の賃金が少なくなる可能性があります。そのため、労使間での協定が求められます。
【参考】令和5年度保険料額表|全国健康保険協会
【参考】年次有給休暇手当の支払いに関する協定書
従業員が有給休暇を取得する際、企業は一定の計算方法に基づき、賃金を支給しなければなりません。また有給休暇の金額については想定できるトラブルを防ぐため、以下の対処をおこないましょう。
想定
トラブル
・有休日数・賃金の計算による工数増加
・従業員の問い合わせ対応
・人的ミスによる金銭トラブル
対処法
・従業員への説明
・労使間での協定や就業規則への記載
・人的ミス防止、業務簡略化のため電子申請システムの導入
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