「天災事変その他やむを得ない事由」とは
地震や台風、豪雨などの災害による不可抗力によって、経営者がどれだけ努力をしてもどうしようもない状況のことであり、「事業の継続が不可能となった場合」とは、事業の全部または大部分の継続が不可能になった場合と考えることができます。
地震だけではなく、大規模な自然災害により事業の継続が困難な場合、時にはやむを得ず廃業や事業縮小の道を選ぶことも考えられます。しかし、災害の影響により経営環境が悪化したからといって、無条件に解雇が認められるものではありません。
誰もが望まないケースではありますが、地震や台風などの自然災害により事業継続が困難になった場合の解雇の可否について解説していきます。
目次
天災事変とは、天災地変(地震や落雷・暴風・洪水などの自然災害)に人災が加わることを意味します。具体的には地震による火災などです。
労働基準法では従業員の解雇について、19条で「業務上の負傷による怪我や疾病のために休業する期間および仕事に復帰した後の30日間は、原則として解雇することができない」旨が記載されています。
また、同法20条では従業員を解雇する場合、少なくとも30日前には当該従業員に対して解雇することを予告するか、解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払わなければならないと記載されています。
つまり、原則として急に従業員を解雇をすることはできないのです。しかし、同法19条と20条には「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」で、労働基準監督署長の認定を受けたときはその限りではないとも記載されています。
地震や台風、豪雨などの災害による不可抗力によって、経営者がどれだけ努力をしてもどうしようもない状況のことであり、「事業の継続が不可能となった場合」とは、事業の全部または大部分の継続が不可能になった場合と考えることができます。
つまり、地震などによって事業を継続することができなくなったときは、労働基準監督署長の認定を受けることができれば、従業員を解雇することができます。
なお、天災事変が起こったら無条件で解雇をしていいというわけではなく、可能な限り雇用を継続できるように尽力することが望ましいと言えます。
天災事変によって自社の事業が継続不可能になった場合は、従業員を解雇することができると書きましたが、取引先や交通機関が受けた被害の影響によって事業が継続できなくなった場合はどうすればいいのでしょうか。
この場合、事業場の施設や設備が直接的な被害を受けていない場合には、原則として「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」とは認められないため、従業員を解雇することは認められません。
ただし、取引先への依存度や輸送経路の状況、代替案など総合的に考えて事業を継続することが不可能である場合などは、例外的に「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」と判断されるケースもあります。
しかし、あくまでも例外であり、基本的には労働者保護の観点から、解雇はできない可能性が高いと認識しておいてください。
また、同じ理由によって従業員を休業をさせる場合、原則として休業手当を支払う必要があります。これは、会社に直接的な被害はなく、休業をする理由が会社側にあると判断されるためです。
大きな地震が起こった場合、地震を理由として解雇をすることはできるのでしょうか。解雇に関しては労働契約法16条に
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
と記載されています。また、過去の裁判では整理解雇(余剰な人員の解雇)に関してはその有効性の判断基準として、
という4つの要件が存在します。震災を理由に解雇を行う場合は、これらの法律や判例をもとに判断を下していくことになります。
なお、いわゆる契約社員のように期間の定めがある労働契約を結んでいる従業員に関しても、やむを得ない理由がない限りは期間の途中で解雇をすることはできません。また、それまでの契約更新の状況や経緯から雇用継続が期待される場合も、雇い止めをすることはできません。
何度もお伝えしているように、解雇に関しては基本的に震災などの天災事変を理由に無条件に認められるものではありません。
震災の影響で会社を休んでいる従業員や、避難所にいて通勤できない従業員、家族の安否や家の状況等仕事どころではない従業員もなかには存在します。また、震災が起こったときに育児・介護により休業している従業員もいることでしょう。
このような従業員に対して、出社することを要請し出社しなければ解雇としたり、退職願を提出することを求めたりすることはできません。もちろん、表向きでは震災を解雇の理由としながら、実は育児休業、介護休業中の従業員を解雇するといったこともできません。
実際にこれらのことを企業側が行った場合、裁判で違法な行為とみなされ解雇が無効となる可能性があります。
天災事変の影響で事業継続が困難な状態になり、廃業や事業縮小を余儀なくされ、場合によっては解雇や人員削減を行うことは十分にあり得ます。しかし、そのような場合であっても、復興や再建に向けて労使共によく話し合って、労働者の不利益を回避する方策を見出す努力をすることが、何よりも大切です。
今回は、地震などの天災事変の影響による従業員の解雇について解説してきました。災害が起こったことを理由として従業員を解雇することは、場合によってはできるかもしれませんが、法律や過去の判例に基づいた判断をおこなう必要があります。
企業としては各従業員の状況を考慮し、可能な限り従業員の雇用を継続できるように尽力する必要があります。
大学卒業後、地方銀行に勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務の経験あり。在籍中に1級ファイナンシャル・プランニング技能士及び特定社会保険労務士を取得し、退職後にかじ社会保険労務士事務所として独立。
詳しいプロフィールはこちら