雇用保険は将来の離職という不測の事態に備え、あらかじめ保険料を納付することにより、求職期間中の所得や職業訓練に要する費用のみならず、育児休業や介護休業、高齢再雇用による所得の低下をも補償してくれるものです。
そしてその保険給付の中核を成すのが、求職者給付、とりわけ基本手当と呼ばれる失業日ごとの所得補償です。ここでは、離職からこの基本手当の受給に至るまでの経過を、主な手続きとともに解説していきます。
目次
失業保険(失業手当)とは、働いていた人がさまざまな理由により失業した場合に、一定期間給付を受けられる公的保険制度のひとつです。正式には雇用保険の基本手当のことを指します。
失業するとそれまで得られていた収入が途絶えてしまい、生活に支障が出てしまいます。失業保険(失業手当)はそんな失業者の生活を安定させ、スムーズに再就職できるようサポートし、雇用の安定・促進を図るために設けられています。
失業者は退職理由によって以下の3つに分類され、それぞれ失業保険(失業手当)を受給できる条件や給付日数などが異なります。
退職理由 | 分類 |
---|---|
自己都合 | 一般離職者 |
会社都合 | 特定受給資格者 |
特定の理由による 自己都合 |
特定理由離職者 |
それぞれの条件を、ここで詳しく確認しましょう。
一般離職者とは、より待遇のいい会社へ転職することや起業・独立など、自己都合で退職した人を指します。一般離職者の場合、失業保険を受給するためには以下の条件を満たすことが必要です。
上記の条件を満たしていれば、失業保険申請の手続きをおこない、審査を受けます。審査に通れば一定期間、規定された金額が支給される仕組みです。
なお、定年退職する場合は65歳未満であれば上記条件で失業保険を受給できます。65歳以上で定年退職するケースでは失業保険を受給できないものの、条件を満たすことで高年齢求職者給付金を受け取れます。
特定受給資格者とは、企業の倒産や解雇によって失業するなど、再就職の準備ができない状態で失業した人のことです。特定受給資格者の場合、失業保険を受給するためには以下の条件を満たす必要があります。
一般離職者とは異なり、被保険者期間が離職の日以前1年間に通算6カ月と短い点が特徴です。
特定理由離職者とは、自己都合での退職ではあるものの育児や介護など特定の理由で仕事を辞めた場合を指します。特定理由離職者に該当するケースは、以下のとおりです。
引用:特定受給資格者および特定理由離職者の範囲の概要|ハローワークインターネットサービス
特定理由離職者の場合、特定受給資格者と同様に失業保険を受給するためには以下の条件を満たす必要があります。
失業保険は、離職した日の翌日から申請ができます。
受給期間は原則、離職日の翌日から1年間です。ただし、期間中に病気や出産などの理由で30日以上働けなくなった場合は、その日数分、受給期間を最大3年間延長可能です。
失業保険の申請が受理されると基本手当が支給されますが、この基本手当は厚生労働省により定められた所定給付日数にもとづいて支給されます。
基本手当の給付日数は、自己都合退職と会社都合退職で以下表のように異なります。
被保険者期間 | |||||
---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 | |
全年齢 | 90日 | 90日 | 120日 | 150日 |
引用:基本手当の所定給付日数|ハローワークインターネットサービス
被保険者期間 | |||||
---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 | |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ー |
30歳以上35歳未満 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | |
35歳以上45歳未満 | 150日 | 240日 | 270日 | ||
45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
引用:基本手当の所定給付日数|ハローワークインターネットサービス
退職理由や被保険者期間に応じて、該当する給付日数分の基本手当を受けられます。
失業保険の受給額は、以下の計算式で算出できます。
基本手当日額とは失業保険で受給できる1日当たりの金額で、以下の計算式で算出されます。
なお、基本手当・賃金日額には上限額と下限額がされているため、その範囲内で失業保険を算出し支給されます。
基本手当・賃金日額の上限額は、以下表のとおりです。
離職時の年齢 | 賃金日額の上限額(円) | 基本手当日額の上限額(円) |
---|---|---|
29歳以下 | 13,890円 | 6,945円 |
30~44歳 | 15,430円 | 7,715円 |
45~59歳 | 16,980円 | 8,490円 |
60~64歳 | 16,210円 | 7,294円 |
引用:雇用保険の基本手当日額が変更になります~令和5年8月1日から|厚生労働省
基本手当・賃金日額の下限額は、以下表のとおりです。
離職時の年齢 | 賃金日額の下限額(円) | 基本手当日額の下限額(円) |
---|---|---|
全年齢 | 2,746円 | 2,196円 |
引用:雇用保険の基本手当日額が変更になります~令和5年8月1日から|厚生労働省
基本手当日額の年齢別計算例として、厚生労働省が以下の数値を公表しています。
賃金日額 | 給付率 | 基本手当日額 |
---|---|---|
◆離職時の年齢が29歳以下 | ||
2,746円以上5,110円未満 | 80% | 2,196円~4,087円 |
5,110円以上12,580円以下 | 80%~50% | 4,088円~6,290円 |
12,580円超13,890円以下 | 50% | 6,290円~6,945円 |
13,890円(上限額)超 | ー | 6,945円(上限額) |
◆離職時の年齢が30~44歳 | ||
2,746円以上5,110円未満 | 80% | 2,196円~4,087円 |
5,110円以上12,580円以下 | 80%~50% | 4,088円~6,290円 |
12,580円超15,430円以下 | 50% | 6,290円~7,715円 |
15,430円(上限額)超 | ー | 7,715円(上限額) |
◆離職時の年齢が45~59歳 | ||
2,746円以上5,110円未満 | 80% | 2,196円~4,087円 |
5,110円以上12,580円以下 | 80%~50% | 4,088円~6,290円 |
12,580円超16,980円以下 | 50% | 6,290円~8,490円 |
16,980円(上限額)超 | ー | 8,490円(上限額) |
◆離職時の年齢が60~64歳 | ||
2,746円以上5,110円未満 | 80% | 2,196円~4,087円 |
5,110円以上11,300円以下 | 80%~45% | 4,088円~5,085円 |
11,300円超16,210円以下 | 45% | 5,085円~7,294円 |
16,210円(上限額)超 | ー | 7,294円(上限額) |
引用:雇用保険の基本手当日額が変更になります~令和5年8月1日から|厚生労働省
失業保険の受給額について、以下のケースを例にシミュレーションをおこないます。
上記の場合、受給額は以下のとおりとなります。
まず、離職後の流れを簡単に説明しておきましょう。離職してから、何度も足を運ぶことになるのがハローワークです。まずはここで「失業の認定」をしてもらわなければなりません。
失業というのは、ただ単に働いていない状態を指すのではなく「働く意思はあるけれど、まだ仕事が見つかっていない」という状況を指します。つまり、離職してから一切の求職活動を行わなければ失業と認定してもらえず、基本手当の給付も受けることができなくなるのです。
まずはハローワークへ行き、
をおこないます。離職票には、
の2種類があります。
「離職票-1」には、どの銀行口座に雇用保険の給付金を振り込んでもらうか、そして「離職票-2」には、退職の理由や離職日以前の賃金支払い状況などが記載されています。これらは会社が発行し、離職日から10日前後で郵送するのが一般的です。
似たような名称の書類である「離職証明書」とは、離職者ではなく会社側がハローワークに提出するものです。こちらは離職日の翌々日から10日以内にハローワークへ提出することが義務付けられています。
ただし、転職先がすでに決まっているなどの事情で離職票が必要ない場合は、この離職証明書を提出する必要はありません。
そしてその後おこなわれる雇用保険受給者初回説明会へ参加し、雇用保険受給資格者証と失業認定申告書を受け取ります。
雇用保険受給資格者証はと、名前の通り雇用保険の受給資格を証明するためのもので、受給者の氏名や年齢、離職日や離職理由、そして失業認定日や受給期間満了予定日などが記載されています。
失業認定申告書も、雇用保険の給付を受けるために必要な書類です。この4週間でどれだけの求職活動を行ったかを記入する欄があり、その活動内容によって失業の認定が行われます。
そしてこのとき、基本的に4週間後にハローワークを再訪するよう指示が出るのですが、それまでの期間は「認定対象期間」といわれ、この期間中に原則2回以上の求職活動を行わなければなりません。もし一切の求職活動を行わなければ、再就職の意思はないとみなされ、失業が認定されないのです。
求職活動の実績となるのは、実際に企業へ応募して面接を受けるだけでなく、ハローワークが実施する職業相談や職業紹介、求職活動セミナーなども含まれ、まじめに取り組めばクリアするのは容易でしょう。
その活動内容を失業認定申告書においてハローワーク再訪時に報告し、働く意思があると認められて初めて「失業の認定」が行われるのです。
ハローワークを再訪した際に求職活動が認められれば、失業の認定となります。それから1週間ほどで基本手当が振り込まれ、以後失業認定日を迎えるたびにこのサイクルが繰り返されます。
なお、失業手当の受給資格者は再就職した場合、再就職手当を受け取れます。再就職手当は、再就職までの期間が短いほど給付率が高くなります。詳しくは下記の記事を参考にしてみてください。
そして、その後1週間ほどで失業給付の基本手当(失業手当)を受給することができます。
失業手当の給付には「待期期間」というものが存在しています。待期期間は、初めてハローワークに離職票を提出した日から一時就労した日を除き通算7日間。この期間を経過するまでは基本手当の給付は一切ありません。
とはいえ、手当をもらうまでの流れのことを考えると、それほど影響はないでしょう。もっと注意すべきなのは「給付制限」の方です。
待期期間のみが適用されるのは、あくまで会社都合などで退職した場合のみ。自己都合での退職や懲戒解雇の場合、この待期期間の7日間に加えてさらに原則3か月間の「給付制限」が適用されるのです。
この7日間と3か月間の間は、基本的に雇用保険の給付は一切ありませんので、注意してください。
失業保険を受給中に再就職した場合、一定の条件を満たすことで再就職手当がもらえます。再就職が決まった時点で支給されますが、受給条件・受給額・手続き方法について詳しく見ていきましょう。
再就職手当を受給する場合、以下の条件を満たす必要があります。
再就職手当の受給額は、以下のように失業保険の基本手当支給残日数によって計算式が変わります。
基本的には失業保険を受給中に、早期に再就職するほど受給額がアップします。
再就職手当を受けとるためには、再就職が決まった日の翌日から1カ月以内に「再就職手当の支給申請書」をハローワークに提出します。
再就職手当の支給申請書はハローワークで受け取れるため、まずは再就職が決まったことをハローワークに報告しましょう。再就職したことを証明できる書類(採用通知書など)を再就職先から受け取り、支給申請書とともにハローワークへ提出してください。
再就職手当は、申請後約1カ月で指定の口座に振り込まれます。
失業保険を受給する際は、以下の点に注意しましょう。
失業保険を受け取るためには、単に失業しているだけでなく、求職活動を積極的におこなっていることを証明できなければなりません。
具体的には失業保険申請後、4週間に1回失業認定を受ける必要があり、そこで求職活動の実績を証明する必要があります。求職活動の実績として認められる活動は、以下の5つです。
引用:雇用保険の具体的な手続き|ハローワークインターネットサービス
上記の活動実績がない場合、失業認定を受けられず、失業保険も受給できないため注意しましょう。
なお、求職活動をしたふりをして失業認定時に求職活動の実績を申告した場合、不正受給とみなされ支給停止や刑罰が科される可能性があるため、絶対にやめましょう。
失業保険を受け取っている間に仕事を始めた場合、失業保険を受給できなくなる可能性があります。
基本的に失業保険は積極的に求職活動をおこなうも、就職できず失業状態にある人をサポートする制度であり、就労状態にあると判断されれば受給条件の対象外となるからです。
特に、短期間の仕事やアルバイトを受ける際には注意が必要です。受給期間中に週20時間以上、1日4時間以上アルバイトをした場合、就労状態とみなされ失業保険が給付されなくなります。
受給期間中に短期の仕事やアルバイトをおこなう際は、労働時間に注意しましょう。また失業保険申請時に、既に次の仕事が決まっている場合も失業保険は受給できないため注意しましょう。
失業保険を一度もらうと加入期間がリセットされるため、注意が必要です。失業保険を受給するためには以下の加入期間が条件として定められています。
失業保険を一度受けた場合、上記の加入期間がリセットされてしまい、就職後に再度退職して失業保険を受給するためには、改めて上記の期間雇用保険に加入しなければなりません。
もし、加入期間をリセットしたくない場合は、失業保険の受給を控えることも選択肢のひとつです。
基本手当の受給で見落とされがちなのは、受給可能期間は離職日の翌日からただちに進行してしまうという点です。したがって、離職後すぐに求職の申し込みだけでも済ませておかないと、うっかり所定の給付日数を受給し損ねることになりかねませんのでご注意ください。
なお、基本手当にはこのほか金額・日数・期間について、離職の理由や離職者の属性により細かい定めがありますので、実際の受給にあたっては、ご自身の状況と照らし合わせてみてください。
社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー 代表社会保険労務士:
楚山 和司(そやま かずし) 千葉県出身
株式会社日本保育サービス 入社・転籍
株式会社JPホールディングス<東証一部上場> 退職
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