2015年12月より、常時使用する労働者数が50人以上の事業場について、当該労働者に対する「心理的な負担の程度を把握するための検査(以下「ストレスチェック」)」の実施・報告等が義務化されました。
このストレスチェックの実施体制については、当該事業場ごとに衛生委員会による調査審議を経るものとされています。いま改めて問われる安全衛生管理体制について、産業保健スタッフの役割とともに見直しておきましょう。
目次
各事業者はその業種や規模に応じて安全に関する管理者や産業医を選ばなければいけません。これらの管理者を統括する立場にあるのが総括安全衛生管理者です。また、総括安全衛生管理者は一定の労働者がいる以下の事業場において、設置することが義務付けられています。
<総括安全衛生管理者を選任しなければならない事業場>
常時使用する労働者の数が100人以上
常時使用する労働者の数が300人以上
常時使用する労働者の数が1,000人以上
<総括安全衛生管理者の役割>
安全管理の担当者や衛生管理の担当者などへ指揮をするという役割のほかに、従業員の健康、安全、衛生に関する取り組みや労働災害を防ぐための取り組みを統括管理することとされています。
<総括安全衛生管理者の選任要件>
この総括安全衛生管理者は誰でもいいというわけではなく、当該事業場の実質的統括管理者であり権限と責任のある人(工場長など)でなければいけません。
<報告の期限と方法>
この総括安全衛生管理者を含む、安全管理者、衛生管理者、産業医の4つは前任者の退職などといった、選任すべき事由が発生してから14日以内に事業場を所轄する労働基準監督署長に報告を行います。
ただし、安全衛生推進者等/衛生推進者は報告の必要がなく、事業場に選任された者の氏名を掲示するなどの周知を行います。その期限は総括安全衛生管理者等と同様です。
続いて、安全管理者・安全衛生推進者等について紹介します。
<安全管理者>
作業における安全教育や作業に使用する器具の点検や整備など、事業所における安全管理のなかでも技術的側面を管理する立場の人です。
<安全衛生推進者等>
施設や設備の点検や使用状況に基づく措置の検討、作業環境や作業方法の点検、見直し、従業員の健康の保持増進に関する取り組みを管理する役割を担います。
この2つの役職は事業場の規模によって選任義務が異なっています。
<安全管理者/安全衛生推進者等を選任しなければならない事業場>
【安全管理者の場合】
常時使用する労働者の数が50人以上
【安全衛生推進者等の場合】
常時使用する労働者の数が10人以上49人以下
選任するための条件にも違いがあります。
<安全管理者/安全衛生推進者等の選任要件>
安全管理者は、職務を遂行するために必要な一定の専門的と技術的知識を備え、作業場の実情をよく知っている者でなければいけません。安全管理者としての資格は、原則として理科系の学歴に加えて、産業安全の実務に従事した経験を有しており、厚生労働大臣が定める研修を修了した者、労働安全コンサルタント、そのほか労働大臣が定める者とされています。
安全衛生の実務経験年数が5年以上の者、安全衛生推進者等養成講習/衛生推進者養成講習を修了している者とされています。
労働者が50人以上の一定の業種の事業場は、安全管理を行う安全管理者のほかに衛生管理を行う衛生管理者を設置しなければいけません。従業員が10名以上49名以下の事業所は、安全衛生推進者等が両方の役割を担います(業種によっては衛生推進者として設置します)。
<衛生管理者の役割>
主な役割は健康に異常のある人を発見し処置を行うことや、作業環境に関して衛生上の調査を行うこと、作業場や施設の衛生上の改善点を見つけることなど、衛生に関する技術的側面に関する管理を行います。また、毎週1回の作業場の巡視が義務付けられています。
<衛生管理者の選任要件>
「第一種衛生管理者免許」または「衛生工学衛生管理者免許」を持つ者、医師、歯科医師、労働衛生コンサルタント等である者としています。
2つの免許に加えて「第二種衛生管理者免許」も認められ、3つの免許のうちいずれかを保有している者、医師、歯科医師、労働衛生コンサルタント等である者としています。
安全面、衛生面の管理に担当者がいるように健康面の医学的な管理にも担当者が存在します。それが産業医です。産業医は従業員が50名以上の事業場において設置しなければいけません。
また、この役職に関しても選任するための条件が決められていて、以下4つのうちいずれかを満たしていなければいけません。
<産業医の選任資格条件>
<産業医の主な役割>
健康診断等の実施など労働者の健康を保持するための取り組みを行うことや、健康管理、労働者に対する健康教育や健康相談の実施、労働衛生教育、健康障害の原因を調査し再発防止の措置を行うといった、労働者が健康に働けるようにすることです。
労働安全衛生法に基づき、一定の基準に該当する事業場では安全委員会、衛生委員会または両委員会を統合した安全衛生委員会を設置しなければいけません。
これは、労働災害防止の取り組みは労使が一体となって行う必要があるという考えのもと、安全委員会や衛生委員会において労働者の危険または健康障害を防止するための基本となるべき対策などの重要事項について、十分な調査審議を行う必要があるからです。
安全衛生委員会は以下の人たちによって構成されます。
<安全衛生委員の構成>
<安全衛生委員の選任方法>
議長以外は事業者が委員を指名し、選任することとされています。なお、このうちの半数については、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の推薦に基づき、指名し選任します。
また、委員会での議事の中でも重要なものは記録し、3年間保存しなければいけないという決まりがあります。そして議事の概要を労働者に知らせることも同時に行わなければいけません。
安全衛生委員会についての詳細は、厚生労働省のホームページ内の資料「安全衛生委員会を設置しましょう」をご参考ください。
ここまで事業場における安全衛生管理について、役職とその役割および選任条件などについて紹介してきました。企業としての活動を問題なく行っていくうえで労働者の存在は欠かせません。労働者を守るためにも、安全衛生に関する管理体制をしっかりと整えておく必要があります。
直接の利益を生み出すことはないかもしれませんが、長い目で見たときにこれらの取り組みは事業場にとって重要なものとなります。ぜひ、今回紹介した管理体制について確認してみてください。
社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー 代表社会保険労務士:
楚山 和司(そやま かずし) 千葉県出身
株式会社日本保育サービス 入社・転籍
株式会社JPホールディングス<東証一部上場> 退職
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