働き方改革法が2019年4月から施行になり、残業時間の上限規制や有給休暇取得が義務化されています。法案の内容に組み込まれなかったものの方向性として政府は副業・兼業の解禁を奨励しています。副業・兼業とは「収入を得るために本業以外の仕事を行うこと」ですが、これまでは副業・兼業をすることで、情報漏洩のリスクや疲労・睡眠不足等で本業がおろそかになる、競業・利益相反になるとして禁止している企業がほとんどでした。
しかし、働き方改革法のなかで副業・兼業が推進され、これからの企業は副業・兼業への考え方を改めていく必要があります。
こちらの記事では、働き方改革で副業・兼業が推進されることによる、企業側の取るべき対応やメリットについて解説していきます。
目次
2018年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が公表され、同時に「モデル就業規則」が改正されたことにより、国として副業・兼業を促進していくことが明確になりました。
これにより、今まで副業・兼業を諦めていた従業員が副業・兼業を希望する可能性があります。
副業・兼業への法的規制はないが、厚生労働省が2016年3月に示しているモデル就業規則では、労働者の遵守事項に、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」と規定
多くの企業では、情報漏洩のリスクや健康管理面、競業・利益相反の観点から副業・兼業を禁止
働き方改革法で政府は副業・兼業の解禁を奨励
企業は、従業員の希望に応じて、副業・兼業を認める方向で検討
政府が副業・兼業を推進する理由は以下の4つです。
これらの理由から、政府は副業・兼業に対して期待を寄せています。
副業・兼業が推進されていますが、従業員が会社側に何も言わずに始めて良いわけではありません。
企業側は、副業・兼業を希望する従業員に下記2点を提出してもらいましょう。
これらは、副業・兼業を認めることで懸念される「企業秘密等の情報漏洩」や「長時間労働による健康阻害」等のリスクを回避するために必要になります。
また、企業側は、従業員が副業・兼業をする場合、以下の理由により就業時間の把握と健康管理もしなければなりません。
労働基準法第38条では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されています。
つまり、労働基準法で定められた労働時間に関する規定では、副業・兼業先で就業している時間と本業での就業時間を合算しなければなりません。
そのため、従業員から申告により、副業・兼業先での就業時間を把握する必要があります。
副業・兼業を行う従業員の長時間労働による健康阻害を防止する観点から、自社と副業・兼業先の企業で時間外労働(残業)や休日労働の抑制・免除する等の配慮が必要になります。
さらに、従業員の健康状況を把握するために、定期健康診断のほかに産業医との面談もすべきです。
副業・兼業が禁止されている公務員はどうなるのでしょうか?
結論から言うとまだ完全には解禁されていません。
なぜなら、公務員の副業禁止の規定があり、「営利企業への就職を禁止(国家公務員法第103条、地方公務員法第38条)」、「自営を禁止(国家公務員法第103条、地方公務員法第38条)」と定められているためです。
また、公務員には副業禁止の三原則として「信用失墜行為の禁止(国家公務員法第99条、地方公務員法第33条)」、「守秘義務(国家公務員法第100条、地方公務員法第34条)」、「職務専念の義務(国家公務員法第101条、地方公務員法第35条)」と定められています。
しかし、働き方改革で公務員の副業・兼業解禁に向けた動きが広がりつつあります。
先進的事例として、神戸市と生駒市で「職務外で報酬を得る地域活動」として公益活動を副業として認めています。
公益活動を任命権者の許可を得て、副業として行っているのです。
公益活動
公益活動という言葉を広く社会一般の利益のための活動と解すれば、公益活動は3つの主体によって行われている。一つは行政という公的な機構を通して行われる国民全般の福祉を図る公的活動であり、その二は、企業による商品やサービスの提供という営利活動の結果として間接的に図られる福利増進活動である。第三は行政でも企業でもない私的な機構ではあるが、利潤追求を目的としない組織を通して直接に社会福祉や文化の向上を目指す社会的活動である。(引用:Weblio辞書)
つまり、公益活動とは私益や利益の「利己」ではなく、「利他」のために行う活動であり、その活動を必要としている人等に向けた活動のことです。
公益活動の例として、どの地域でも行われている「地域の清掃活動」や「市民祭り」があります。清掃活動に関しては、有志で行うことが多いですが、道路等に落ちているゴミを拾うものです。市民祭りは、地元のお店が出店を出店したり、イベントを行ったりと収益を上げることができます。
法律で厳しく制限されている公務員の副業・兼業が完全に解禁されるのはまだしばらくかかりそうです。
副業・兼業を許可していくにあたって、企業側がどういった対応をしていく必要があるのか、その注意点はどのようなものがあるのかを解説していきます。
まず副業・兼業を解禁するにあたって、企業側が基準を作っておく必要があります。
【検討すべき事項の一例】
「業務内容」、「就業日・時間」、「就業期間」、「就業時間帯等」、「勤務地」等
「事前の承認・承認者」、「届け出の有無」、「提出書類」等
「勤務表の提出」、「産業医面談」、「上司や人事担当との面談・報告」等
【注意点】基準を厳しくしすぎないこと
厳しくしすぎると、従業員の副業・兼業を行う意志がなくなる恐れがあり、副業・兼業を推進していると言えなくなってしまいます。
企業側は、従業員が副業・兼業を行うにあたって問題がないか、決められた基準を元に確認します。
副業・兼業を開始するにあたって必要な手続きや書類の提出について、しっかり説明し漏れのないようにしましょう。
【注意点】従業員に対し必要以上の情報を求めないこと
企業側が副業・兼業先の機密情報まで求めてしまうと、競業・利益相反になってしまい裁判や、企業信用の失墜につながります。
現在の業務に支障がない場合は、積極的に認めていきましょう。
定期的に副業・兼業を開始した従業員とコミュニケーションを取り、健康状態の確認や業務への支障がないか確認しましょう。
業務に支障がないかを確認するために、同じ職場の従業員からヒアリングするのも良いです。
【注意点】副業・兼業による問題が発生していないかチェックすること
副業・兼業を続けたいために、身体が辛くても「大丈夫」と言ってくる可能性もあるため、注意が必要です。
副業・兼業が解禁されることによってどんなメリットがあるでしょうか?
従業員だけでなく、企業側にもどういったメリットがあるか解説していきます。
副業・兼業ができることで、収入面での不安が減ります。これにより、より良い収入を求めた転職を防ぐことができます。
また、育児や介護のために一時的に勤務できない従業員が、在籍したまま在宅でできる副業・兼業をすることで、会社を辞めてパートやアルバイトを探すこともなくなり、企業側にとって貴重な戦力を失わずに済むようになります。
あるいは他社から、副業・兼業として、別の企業から優秀な人材が来る可能性もあります。
副業・兼業で得た新たな知識や仕事の進め方を自社で生かすことができます。
同種の企業で副業・兼業をしていた場合、作業導線や備品・原材料の置き場の工夫等で、今までより効率のよい方法を取り入れることができます。
別の業種であっても、パソコンのスキルが向上したり、違う視点で物事をとらえられるようになります。
今まで気が付かなかったことに目が向き、業務改善が促進される場合もあります。
副業・兼業をするのは、経済的な理由が多いです。収入が増えることにより、余裕ができて精神的な不安がなくなります。
心に余裕ができると、仕事に前向きになり、より難しい仕事へ挑戦したり、仕事の質が向上していきます。
従業員のモチベーションが向上するのは、企業側にとっても大きなメリットになります。
すでに副業・兼業を推進している企業の例を見ていきたいと思います。
まずは前例に倣ってみてはいかがでしょうか。
2016年に副業が解禁されるというニュースが話題になりました。
ロート製薬では、優秀な人材を育成することを目的として解禁されました。
企業を成長させるためには、自らが考えて行動する従業員が必要と考えたからです。
「社内チャレンジワーク」として副業を認める制度が実施され、開始直後は60名を超える副業希望者がいたようです。
副業の条件は、「勤続3年以上で国内勤務の正社員」で、上司ではなく、直接人事に申告すれば始めることができます。
大手企業に勤めていながらも、これだけの人数の希望者がいたことから、副業・兼業への関心の高さが伺えます。
日産自動車はかなり早い時期の2009年から副業を一部解禁しています。
副業・兼業が認められているのは「休業日」だけであり、就労時間も「8時間以内」と決められています。
副業・兼業を解禁した目的は、当時の景気悪化にともなった従業員の賃金カットが行われたためで、従業員が生活費を補填するための施策になっています。
人材育成を主目的に副業・兼業が解禁されました。
主な施策としては、「時間と場所の有効活用を目的とした施策」、「従業員の自己成長につながる施策」の2つになります。
これらを実施するために、従来のフレックスタイム制からコアタイムを撤廃し、始業時間・終業時間を日単位で変更ができるようにしたそうです。
これにより、業務状況によってフレキシブルに勤務時間が調整できるため、副業・兼業がしやすい状況になったのです。
働き方改革で副業・兼業が推進されることでの企業側の対応やメリットについて解説しました。働き方改革法の施行により、今まで多くの企業で禁止されていた副業・兼業が解禁されていくでしょう。
副業・兼業は企業側にとって、優秀な人材の確保や従業員のスキルアップ、仕事の質の向上や従業員のモチベーションアップ等のメリットがあります。
しかし、副業・兼業を認めていくにあたって、企業側が対応していかなければならないことは多々あります。
企業側がなすべき対応がどんなことか、副業・兼業を推進することでのメリットやリスクをしっかり理解し、企業側と従業員がお互いにwin-winな関係になれるよう、記事を参考にしていただければ幸いです。
ソビア社会保険労務士事務所の創業者兼顧問。税理士事務所勤務時代に社労士事務所を立ち上げ、人事労務設計の改善サポートに取り組む。開業4年で顧問先300社以上、売上2億円超達成。近年では企業の人を軸とした経営改善や働き方改革に取り組んでいる。
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