この記事でわかること・結論
- 給与計算には月次および年次の業務があり、正確性が重要
- 年間スケジュールには給与改定、社会保険料決定などが含まれる
- 注意点には賃金支払いの5原則厳守、最低賃金確認などがある
この記事でわかること・結論
給与計算業務は、毎月おこなう定期的な作業のほかにも、年末調整や住民税の更新など、年単位でおこなう作業も発生します。
給与計算は複雑な作業が多く発生しますが、給与は社員のモチベーションや生活に大変大きくかかわるものでもあるため、ミスなく正確におこなうことが大切です。
給与計算の年間スケジュールや、毎月の作業、給与計算における注意点について解説します。
目次
給与計算にかかわる業務を漏れやミスなく正確におこなうためには、「給与計算の年間スケジュール」を理解しておく必要があります。
給与計算の主な年間スケジュールは以下のとおりです。
・給与計算の主な年間スケジュール
月 | 業務 | 業務内容 |
4月 | ・給与改定 ・社会保険料の改定 ・労働保険料の改定 |
・新入社員や異動社員の給与登録および改定、「給与支払報告書・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」の提出 ・3月分の健康保険料、介護保険料の改定 ・雇用保険料の改定(※締め日によって異なる) |
5月 | ・住民税登録 | ・住民税の年度更新 |
6月 | ・賞与計算 ・労働保険 |
・6月支給の場合、賞与計算 ・「労働保険年度更新」の手続き |
7月 | ・社会保険 | ・「算定基礎届」の提出 |
8月 | ・社会保険 | ・4月昇給者の社会保険料改定 |
10月 | ・社会保険 | ・7月に「算定基礎届」を提出した社員の社会保険料改定 |
11月 | ・年末調整 | ・年末調整の準備(書類配付) |
12月 | ・年末調整 ・賞与計算 |
・年末調整の実施および源泉徴収票の発行 ・12月支給の場合、賞与計算 |
1月 | ・税務関係 | ・法定調書の提出 ・「給与支払報告書」の提出 |
給与改定(登録)の業務は主に4月におこなわれます。
4月入社の新入社員について、給与システムに登録をおこなうほか、昇給者に関し、給与改定後の金額を給与システムに反映します。
また、「給与支払報告書」を提出(1月)したあと、4月1日までに退職等をした社員がいるときは、「給与支払報告書・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」の提出が必要です。
住民税の金額は、1月1日時点の居住地において、前年の所得をもとに決定されます。決定された住民税は、毎年6月から翌年5月に12回に分割して、毎月の給与から天引きすることが一般的です。
住民税の更新手続き(登録)に必要な「住民税課税通知書」は、毎年1月末日までに市区町村に提出する「給与支払報告書」にもとづき、毎年5月頃、それぞれの市区町村より順次届きます。各企業は「住民課税通知書」が届き次第、登録作業をおこなう流れです。
社会保険料(健康保険、介護保険、厚生年金保険)は、4月〜6月の3カ月の平均報酬額(標準報酬月額)をもとに決定します。
毎年7月に「算定基礎届」を作成・提出し、標準報酬月額の見直しおよび社会保険料の見直しをおこないます。
社会保険料(標準報酬月額)に変更があった場合、9月から適用となり、保険料控除は前月分が対象となるため、実際に控除される月は10月給与からです。
多くの企業では年に2回賞与支給があります。賞与支給が6月と12月の場合、給与(賞与)計算担当者は、6月と12月の支給日に合わせて賞与計算業務をおこないます。
賞与計算では、基本賞与額(支給額)のほか、社会保険料と所得税(控除額)の計算が必要です。
年末調整は、年間所得を計算し「所得税の差額調整」をおこなうために必要な業務です。
「源泉徴収票」の発行や、「給与支払報告書」を作成します。
12月の年末調整業務をスムーズにおこなうために、11月頃から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」や「給与所得者の保険料控除申告書」などの必要書類を社員に配付し、業務に間に合うように締切日を設けて回収することが一般的です。
毎月の給与計算業務は、企業の締め日によって異なりますが、主な毎月の作業は以下のとおりです。
・給与計算の主な毎月の作業(10日締め、25日払いの場合)
時期 | 業務内容 |
前月給与支払日〜10日 | ・社員基本情報の変更登録 |
10日〜20日 | ・勤怠集計(出退勤、遅刻早退、有給休暇など) ・時間外労働時間(時間外労働手当)計算 |
20日〜22日 | ・支給額、控除額の決定 ・給与明細の発行 |
22日 | ・給与振込手続き |
25日 | ・給与支払日 |
月末 | ・社会保険料の納付 |
翌月10日 | ・住民税の納付 ・所得税の納付 |
毎月の給与計算業務では、一般的に以下のような業務フローでおこないます。
総支給額の計算では、「基本給」、「各種手当」の情報が必要です。
総支給額の計算
総支給額は、「基本給」と「各種手当」を足した金額です。
控除額の計算では、「社会保険料」、「雇用保険料」、「住民税」、「所得税」、「欠勤控除やそのほかの控除」の情報が必要です。
控除額の計算
社会保険料は標準報酬月額によって定められており、算定基礎届の提出後、毎年9月から翌年8月までの保険料が決定します。
課税対象額=総支給額−非課税手当額−社会保険料−雇用保険料 |
※非課税手当とは、一定金額以下の通勤手当など、課税対象とならない手当のことです。
算出された課税対象額を、「源泉徴収税額表」に当てはめて所得税を求めます。
「総支給額」と「控除額」の計算の後、最終支給額を算出します。
給与計算をおこなう際は、いくつかの注意点があります。
賃金支払の5原則」とは、労働基準法第24条で定められている賃金支払にかかわる原則です。
賃金支払は、労働基準法第24条において以下に定められています。
ただし、条件を満たした場合などは「賃金支払の5原則」の例外が認められます。
たとえば、労使協定や本人の同意があれば、通貨以外での支払が認められ、「口座振込」や「小切手による支払」などが可能です。
時間外労働は割増賃金が発生するため、時間外労働手当を計算する際は注意が必要です。
労働基準法第37条では、時間外労働における割増賃金について定められており、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させた場合、「25%以上」の割増賃金を支払うことが義務とされています。
・労働基準法第37条(一部抜粋)
また割増率は、時間外労働の種類によっても異なるため注意しましょう。
種類 | 条件 | 割増率 |
時間外(時間外労働手当) | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき | 25%以上 |
休日(休日手当) | 法定休日(週1日)に労働させたとき | 35%以上 |
深夜(深夜手当) | 22時から5時までの間に労働させたとき | 25%以上 |
給与計算(支払)をおこなう際は、最低賃金以上の給与となっているか注意する必要があります。
最低賃金は、毎年秋に改訂がおこなわれるため、必ず確認し、必要に応じて賃金額の見直しをおこないましょう。
給与計算業務は、締め日から給与振込手続きまでのスケジュールが非常にタイトとなる業務です。
些細なミスが発生するだけでも作業効率が下がってしまうため、滞りなく業務をおこなうためには、支給日に向けて効率よく業務をこなしていく必要があります。
特に時間外労働時間(手当)など、毎月変動がある項目については、早めに着手しなければなりません。支給日に合わせた計算をおこなうためには、社員(営業所など)の協力を得て、できる限り迅速にデータを収集することがポイントです。
給与額は個人情報であり、社員によって金額が異なるため、社員同士がお互いの金額を知ってしまわないように注意する必要があります。
よくあるミスとして、「給与明細が違う人の手元に渡ってしまう」ことが挙げられ、また、「誰でも見られるファイルに給与データを保管する」ことなども発生しやすいミスです。
個人の給与情報が漏れた場合、社員からの不満やトラブルにつながりかねません。
個人情報(給与情報)の取り扱いには十分に気をつけましょう。
給与計算業務は「年間単位でおこなう作業」と「月単位でおこなう作業」が発生し、複雑で業務範囲も多岐にわたります。
給与情報は個人情報であり、労働対価となる重要なものであるため、ミスや漏れが発生しないように業務をおこなわなければなりません。
業務範囲が広く複雑な業務を、正確かつ効率よくおこなうためには、「給与計算ソフト」などのツールを活用し、業務効率化を図ることがおすすめです。
給与計算業務は、毎月の給与計算に加え、社会保険料の決定や、住民税の更新、年末調整など、業務範囲が多岐にわたります。
必要な手続きを滞りなくおこなうためには、給与計算業務にかかわるスケジュールをしっかりと理解し、効率よく進めていくことが大切です。
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