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スタグフレーションとは?食品2,000品目値上げ・米国・中東情勢が日本企業に迫るリスクと対策

監修者:田畑 啓史 eni-labo社会保険労務士事務所
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この記事でわかること・結論

  • スタグフレーションの意味とインフレ・デフレとの違い
  • 2026年の食品値上げ・物価高の最新データと背景にある3つの構造要因
  • 人事労務担当者が実践できる「物価高時代の従業員エンゲージメント戦略」と企業・個人の具体的対策

「また値上げか」と感じるニュースが日常になった2026年。帝国データバンクの調査によれば、2026年4月単月だけで飲食料品2,798品目が値上げされ、2026年3月31日時点で判明・予定されている2026年1〜7月の値上げ品目数の累計は5,729品目に上ります。

年間では1万品目前後のペースで推移する見通しです。

一方で、実質賃金は伸び悩みが続き、SNSでは「スタグフレーション」という言葉を目にする機会が急増しています。スタグフレーションとは、景気が停滞しているにもかかわらず物価だけが上がり続ける経済状態のこと。米国の関税政策や中東情勢の緊迫化、歴史的な円安など、日本経済を取り巻く外部環境リスクも無視できません。

こうした状況は企業経営にも直接的な影響を及ぼしており、原材料費の高騰や人件費増のジレンマに多くの企業が直面しています。本記事では、スタグフレーションの基礎知識から2026年の物価高の最新データ、そして人事労務の視点から企業・個人がとるべき具体的な対策までを網羅的に解説します。

目次

スタグフレーションとは?インフレ・デフレとの違いを解説

ニュースで見かけることが増えた「スタグフレーション」という言葉。まずはその意味と、インフレ・デフレとの違いを押さえておきましょう。経済用語ではありますが、私たちの暮らしや企業経営に直結するテーマです。

スタグフレーションとは?定義をおさらい!

スタグフレーションとは?定義の解説画像

スタグフレーションとは

景気の停滞を意味する「スタグネーション(Stagnation)」と、物価の持続的な上昇を意味する「インフレーション(Inflation)」を組み合わせた造語です。通常、景気が悪化すると需要が減り、物価は下がる傾向にありますが、スタグフレーションでは景気が停滞しているにもかかわらず物価だけが上がり続けるという「二重苦」の状態が発生します。

一般的なインフレは景気が好調なときに起こりやすく、企業の業績も上向き、賃金も上昇する傾向にあります。一方、スタグフレーション下では企業収益が圧迫される中でも原材料費や物価は上がるため、賃上げの余力が生まれにくいのが特徴です。

スタグフレーションとインフレ・デフレの違い早見表

3つの経済状態は「景気」「物価」「賃金」の組み合わせで性質が大きく異なります。特にスタグフレーションは、景気が悪いにもかかわらず物価が上がるという点で、他の2つとは異なる難しさを持ちます。以下の表で違いを整理しておきましょう。

インフレ デフレ スタグフレーション
景気 好調(拡大傾向) 低迷(縮小傾向) 低迷・停滞
物価 上昇 下落 上昇
賃金 上昇しやすい 横ばい〜下落 横ばい〜実質低下
家計への影響 購買力は
維持されやすい
物価安だが
収入減のリスク
物価高と
収入停滞の二重苦

インフレは賃金も上がりやすいため家計への影響は限定的ですが、スタグフレーションでは「給料は増えないのに物価だけが上がる」状態が続くため、家計の実質的な購買力が継続的に低下していきます。

なぜスタグフレーションが「最悪のシナリオ」と呼ばれるのか

スタグフレーションが「最悪の経済シナリオ」と呼ばれるのは、従来の経済政策が効きにくくなるためです。

POINT
スタグフレーションが「最悪」と呼ばれる理由

通常の景気後退やインフレとは異なり、政策の打ち手が「どちらに動いても副作用が出る」ジレンマに陥ります。

金利を下げると

景気は刺激されますが、物価上昇がさらに加速するリスクがあります。

金利を上げると

物価は抑制されますが、景気がますます冷え込み、失業率が上昇するリスクがあります。

歴史的には、1970年代のオイルショック時に米国がスタグフレーションを経験しました。中東の産油国による原油価格の大幅引き上げが引き金となり、エネルギーコストの高騰が企業収益を圧迫する一方で物価は急上昇。

失業率も上昇し、国民生活に深刻な打撃を与えました。「給料は上がらないのに、スーパーの値札だけが上がっていく」という構図は、今の日本で感じている方も少なくないのではないでしょうか。

【2026年最新】食品2,000品目超の値上げと物価高の現状

2026年の食品2,000品目超の値上げと物価高の現状解説画像

「値上げラッシュ」は落ち着いたのか、それとも続いているのか。2026年の最新データから、物価高の現状を正確に把握しましょう。

2026年の値上げ品目数は年間1万品目前後の見通し

帝国データバンクが主要食品メーカー195社を対象におこなった調査によると、2026年3月31日時点で判明・予定されている2026年1〜7月の値上げ品目数の累計は5,729品目に上っています。2025年の同時期と比較すると約5割減のペースではあるものの、年間では1万品目前後に到達する可能性が見込まれています。

2025年が年間2万609品目という大規模な値上げラッシュだったことを考えると、ペースは鈍化しているものの、月1,000品目前後の値上げが常態化する見通しです。

4月は単月2,798品目値上げ!調味料・加工食品・酒類飲料が中心

2026年4月の値上げ品目の詳細画像

2026年4月は、単月で2,798品目が値上げされました。単月で2,000品目を超えるのは2025年10月以来6カ月ぶりで、2026年に入ってからは初の値上げラッシュとなりました。食品分野別では、マヨネーズやドレッシング類を中心とした「調味料」(1,514品目)が最多。「加工食品」(609品目)は即席麺やカップスープ、缶詰製品など、「酒類・飲料」(369品目)はウイスキーや焼酎、輸入ワインが対象となっています。

2026年の値上げの主要因トップ5!

2026年の値上げ要因をみると、4年連続で9割超を占める原材料高に加え、物流費・人件費など複合的なコスト増が価格に転嫁されています。

2026年の値上げ主要因
  • 原材料高:99.8%(ほぼすべての値上げに関与)
  • 物流費:72.9%(ドライバー不足・輸送コスト上昇)
  • 包装・資材:68.8%(段ボール・プラスチックフィルム等)
  • エネルギー:60.0%(中東情勢を受けた燃料費上昇)
  • 人件費:52.7%(最低賃金引き上げ・定期昇給の価格転嫁)

特に「人件費」由来の値上げは過去4年で最高水準で推移しており、最低賃金の引き上げや定期昇給など賃上げ分が価格に転嫁されている構図が鮮明になっています。

「実質値上げ(ステルス値上げ)」も拡大中

表面上の価格は据え置いたまま、内容量を減らす「実質値上げ」も広がっています。帝国データバンクの調査でも、こうした実質値上げは品目数のカウントに含まれており、消費者にとっては気づきにくい負担増となっています。パッケージのデザインは変わらないのに、開けてみると中身が少なくなっている。そんな経験がある方も多いでしょう。値上げ品目数だけでなく、こうした「見えない値上げ」にも注意が必要です。

物価高に対応するための賃上げ動向については、春闘と初任給の最新状況をまとめた記事もあわせてご覧ください!

なぜ今スタグフレーションが懸念されるのか?3つの構造要因

値上げの背景には、日本国内の事情だけでなく、世界的な構造変化が存在します。スタグフレーション懸念を強めている3つの外部要因を整理します。

要因①|米国の関税政策と通商摩擦による輸入コスト上昇

米国トランプ政権の関税政策は、日本の輸入コストに直接的な影響を与えています。2026年2月20日の連邦最高裁判決により、IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく相互関税は違憲と判断され、政権は徴収終了を表明したものの、その後、2026年2月24日から全世界への一律10%の追加関税措置(通商法第122条に基づく)が始まりました。特に自動車・電子部品・農産物など日米間の貿易額が大きい分野では、関税政策が企業のサプライチェーン全体に波及するリスクがあります。

2026年時点の米国関税の主な動向

2026年2月20日の連邦最高裁判決によりIEEPA関税(相互関税)は違憲・徴収終了。その後、通商法122条10%関税が代替措置として発動。自動車・同部品には通商拡大法232条に基づく追加関税が継続(日本産については2025年9月16日以降、MFN税率を含めて15%)。2026年7月にはUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の共同見直しが控えており、通商環境の不確実性は引き続き高い状態が続いています。

加えて、米中間の通商摩擦が続く中で、中国によるレアアース輸出管理の強化など、貿易環境の不確実性は増しています。ジェトロの分析によれば、2026年には価格転嫁が本格的に進むとみられており、日本企業にとってもコスト増への備えが急務となっています。

要因②|中東情勢と原油価格リスク

2026年2月28日、米国・イスラエルによるイランへの攻撃を発端として中東情勢が急激に緊迫化しました。イランによる報復措置としてホルムズ海峡が事実上封鎖され、海上輸送への懸念が高まりました。

注意点:日本の原油調達への影響

日本は原油輸入の95%以上を中東に依存しており(石油連盟 2024年データで95.9%)、ホルムズ海峡を経由する原油輸入は9割にのぼります(資源エネルギー庁)。政府は2026年3月26日より国家備蓄原油の放出を開始し、米国などからの代替調達を拡大していますが、状況が長期化した場合、食品を含む幅広い分野でコスト上昇圧力が再加速するおそれがあります。

ジェトロの分析によれば、ホルムズ海峡の代替輸送ルートの輸送能力には限界があり、パイプライン迂回による輸出量は平常時の通過量の半分以下にとどまっています。既にプラスチックフィルムやPET原料などの石油由来素材ではコスト上昇圧力が高まっており、今後の動向が日本の物価に与える影響は無視できません。

要因③|歴史的円安と輸入物価の継続的上昇

1ドル160円にせまる水準で推移する円安の長期化も、輸入物価を押し上げる大きな要因です。農林水産省によると、政府による輸入小麦の売り渡し価格は2026年4月1日に5銘柄平均で2.5%引き上げられており、円安の影響が食料コストに直接反映されつつあります。

日本はエネルギーや食料の多くを輸入に依存しているため、円安は企業と家計の双方に幅広く影響します。為替の変動を理由とした値上げも増加傾向にあり、今後も円安基調が続く場合には、さらなるコスト増が見込まれます。

実質賃金の伸び悩みが「スタグフレーション的」状況を強めている

上記の外部要因に加え、国内では実質賃金(=物価変動を加味した、実際の購買力を示す賃金)の伸び悩みが続いています。厚生労働省の毎月勤労統計によると、2025年11月の実質賃金は前年同月比2.8%減と11カ月連続のマイナスを記録しました。2026年1月以降はプラスに転化したものの、中東情勢を受けた原油価格の高騰により、4月以降に再びマイナス転化するリスクも指摘されています。

実質賃金とは

名目賃金(実際に支払われる賃金額)から物価変動の影響を差し引いた値。物価が上昇しても名目賃金がそれ以上に増えなければ実質賃金はマイナスとなり、生活の「購買力」は実質的に低下します。

厳密に言えば、日本が現時点で完全なスタグフレーションに陥っているわけではありません。しかし、物価高と実質賃金の停滞が並行している状況を「スタグフレーション的」と指摘する専門家は増えており、企業経営にとっても無視できないリスクとなっています。

スタグフレーションが日本企業に与える4つのリスク

経済全体の話から、ここでは企業経営への具体的な影響に焦点を当てます。特に中小企業が直面しやすい4つのリスクを整理しました。

企業に与える4つのリスク
  • リスク①|原材料・物流コストの高騰による利益圧迫
  • リスク②|価格転嫁の難しさと中小企業の体力低下
  • リスク③|賃上げ原資の確保と人件費増のジレンマ
  • リスク④|従業員の生活不安・モチベーション低下・離職リスク

リスク①|原材料・物流コストの高騰による利益圧迫

原材料費・エネルギー費・物流費の上昇は、製造業に限らず、あらゆる業種の利益率を圧迫しています。仕入れコストが上がっても、すぐに販売価格へ転嫁できるとは限らず、特に価格競争の激しい業界では利益が目減りする構図が続いています。

リスク②|価格転嫁の難しさと中小企業の体力低下

大企業に比べ、中小企業は取引先との力関係から価格転嫁が難しい立場に置かれがちです。仕入れコストの上昇分を自社で吸収せざるを得ないケースも多く、利益率の低下が経営の体力を徐々に削っていきます。政府は適正な価格転嫁を促進する施策を進めていますが、現場レベルでの交渉は容易ではありません。

リスク③|賃上げ原資の確保と人件費増のジレンマ

従業員の生活を守るために賃上げは必要ですが、原材料費の高騰で利益が圧迫されている状況では、賃上げの原資確保が困難です。賃上げをしなければ人材が流出し、賃上げをすれば経営が厳しくなる。このジレンマは、特に中小企業にとって深刻な経営課題となっています。

リスク④|従業員の生活不安・モチベーション低下・離職リスク

物価高は従業員の生活を直撃します。「手取りが増えないのに出費ばかり増える」という実感は、仕事へのモチベーション低下や将来への不安感につながり、結果として離職リスクを高めます。特に生活費の負担感が大きい若手社員や、子育て世帯への影響は深刻です。

人事労務担当者が今こそ知るべき「物価高時代の従業員エンゲージメント戦略」

経済メディアではマクロ経済の解説で終わりがちなスタグフレーションの話題。しかし人事労務の現場では「じゃあ、何をすべきなのか」が問われます。経済問題は人の問題でもある。ここでは、賃上げ一辺倒ではなく、実質可処分所得(=手取りから税・社会保険料を引いた、実際に使えるお金)を多角的に支える戦略を提案します。

賃上げだけではない「実質可処分所得」を増やす3つの打ち手

物価高の中で従業員の生活を支えるには、基本給の引き上げだけでなく、「手元に残るお金」を実質的に増やすアプローチが有効です。

POINT
実質可処分所得を支える3つの打ち手

賃上げだけに頼らず、非課税枠や制度を活用して従業員の「手取り」を実質的に守る方法があります。

①食事補助の非課税枠を活用する

一定の要件(従業員が食事代の半額以上を負担し、企業負担額が月7,500円〔税抜・2026年4月以降。それ以前は3,500円〕以下)を満たす食事補助は、給与として課税されずに従業員へ提供できます。物価高で食費負担が増す中、非課税の食事補助は従業員の実質的な手取りを守る有力な手段です。

②通勤手当・住宅手当の見直し

通勤手当は一定額まで非課税であり、支給基準の見直しで従業員の負担を軽減できます。住宅手当についても、社宅制度の活用など工夫次第で実質的な可処分所得の増加につなげられます。

③福利厚生サービスの再設計

カフェテリアプランや外部の福利厚生サービスを活用し、従業員が日常の支出を抑えられる仕組みを整えることも効果的です。利用率が低い既存の福利厚生を見直し、物価高に即したメニューへ再設計することで、従業員満足度の向上が期待できます。

「物価高手当」を導入する企業が増加中|支給事例と税務上の注意点

物価高への対応として、「物価高手当」「インフレ手当」といった名称で一時金や月額手当を支給する企業が増えています。従業員への直接的なメッセージ性が高く、「会社が自分たちの生活を気にかけてくれている」という心理的な安心感にもつながります。

注意点:物価高手当は原則として課税対象

物価高手当は原則として給与所得に該当し、所得税・住民税の課税対象となります。社会保険料についても、毎月支給する場合は「給与」として標準報酬月額に、年1〜2回など臨時に支給する場合は「賞与」として標準賞与額に、それぞれ算定基礎に含まれます。いずれの形態でも企業側に追加の法定福利費が発生する点は同じですが、保険料の発生タイミング(毎月の社会保険料計算に反映されるか、賞与時に一括で発生するか)が異なるため、導入時は税理士・社会保険労務士への確認をおすすめします。

エンゲージメントサーベイで「生活不安」を見える化するという発想

物価高が従業員のモチベーションにどの程度影響しているかは、表面的な会話だけでは把握しきれません。エンゲージメントサーベイ(=従業員の仕事への愛着や満足度を定量的に測る調査)に「生活面での不安」や「報酬への満足度」を問う項目を加えることで、経営層が見落としがちな従業員の実態を可視化できます。

従業員が本当に求める福利厚生に関するアンケート調査「あなたは勤務先の福利厚生に満足していますか?」の回答

「従業員が本当に求める福利厚生に関するアンケート調査」より抜粋

実際に、労務SEARCHが実施した「従業員が本当に求める福利厚生に関するアンケート調査」では、勤務先の福利厚生に「とても満足している」と回答した人はわずか5.7%にとどまっており、「企業が導入している福利厚生」と「従業員が求める福利厚生」の間に大きなギャップがあることが明らかになっています。まずは自社の従業員が何を求めているかを把握することが、対策の第一歩です。

サーベイの結果をもとに、手当の見直しや福利厚生の拡充といった具体的な施策につなげることで、「声を聞いてもらえている」という信頼感を醸成し、離職防止にも寄与します。

経営者・人事担当者へ|今こそ問われる「賃金より納得感」の設計思想

物価高時代において、すべての企業が大幅な賃上げを実現できるわけではありません。しかし、賃金の絶対額だけが従業員の満足度を決めるわけでもありません。「なぜこの水準なのか」「会社としてどう向き合っているのか」を丁寧に説明し、報酬以外の面でも生活を支える姿勢を見せることが、納得感と信頼につながります。

報酬制度の透明性を高め、福利厚生の活用方法を周知し、経営者自身の言葉で物価高への姿勢を伝える。こうした地道なコミュニケーションが、物価高という逆風の中でも「この会社で働き続けたい」と思ってもらえる組織づくりの基盤になります。

企業がいま取り組むべき4つの対策【実践編】

ここからは、人事労務担当者や経営者が明日から動けるアクションプランを4つに整理します。

企業が取り組むべき物価高対策の流れ

  1. コスト構造の棚卸しと適正な価格転嫁
  2. 業務効率化・DX推進による生産性向上
  3. 福利厚生・手当制度の再構築で従業員の実質所得を支える
  4. 事業リスク分散(調達先・為替ヘッジ・在庫戦略の見直し)

① コスト構造の棚卸しと適正な価格転嫁

まずは自社のコスト構造を改めて可視化し、どの項目がどの程度上昇しているかを把握するところから始めましょう。原材料費・エネルギー費・物流費・人件費の内訳を整理したうえで、取引先との価格交渉に臨むことが重要です。公正取引委員会や中小企業庁も適正な価格転嫁を推進しており、「発注者側にコスト上昇分の協議に応じる努力義務」を課す法整備も進んでいます。交渉にあたっては、具体的なデータを示すことが説得力を高めるポイントです。

② 業務効率化・DX推進による生産性向上

コスト増をすべて価格に転嫁することが難しい場合、生産性の向上によって利益率を改善する視点が欠かせません。バックオフィス業務のペーパーレス化やクラウドシステムの導入、RPAによる定型業務の自動化など、DX推進による業務効率化は中小企業でも取り組みやすくなっています。人事労務領域では、給与計算や勤怠管理、入退社手続きのデジタル化が、担当者の工数削減に直結します。

③ 福利厚生・手当制度の再構築で従業員の実質所得を支える

前章で解説した食事補助の非課税枠活用や福利厚生の再設計は、この対策に直結します。既存の手当や福利厚生を棚卸しし、利用率の低い制度をスクラップして物価高に即したメニューへ再構築することで、追加コストを抑えながら従業員の満足度を向上させることが可能です。

こうした制度改革には助成金・補助金が活用できるケースも多くあります。中小企業が使える最新の助成金・補助金の記事でも詳しくまとめているのでチェックしておきましょう!

④ 事業リスク分散(調達先・為替ヘッジ・在庫戦略の見直し)

中東情勢や為替変動といった外部リスクに備えるには、調達先の分散が有効です。特定の国や地域に依存した調達体制はリスクが高いため、複数の調達ルートを確保しておくことが推奨されます。また、為替リスクについては、金融機関が提供する為替予約やオプション取引の活用も検討に値します。原材料の価格変動が激しい場合は、適正水準での在庫積み増しも選択肢のひとつです。いずれも経営判断として個別の事情に応じた検討が必要であるため、専門家への相談も活用しましょう。

個人(社会人)ができるスタグフレーション時代の備え

個人でもできるスタグフレーション時代3つの備えまとめ画像

企業の対策だけでなく、働く個人として何ができるかも重要です。家計・資産・キャリアの3つの軸から、物価高時代の備えを考えます。

家計防衛|固定費の見直しとポイント経済圏の活用

物価高への家計防衛の第一歩は、固定費の見直しです。通信費(格安SIMへの乗り換え)、保険料(保障内容の棚卸し)、サブスクリプションサービス(利用頻度の低いものの解約)など、毎月一定額が発生する支出を洗い出してみましょう。また、日常の買い物でポイント還元率の高い決済手段を選ぶことで、支出を実質的に抑える工夫も有効です。

資産形成|NISA・iDeCoを使ったインフレ耐性のある資産設計

インフレ局面では、預貯金だけでは資産の実質的な価値が目減りするリスクがあります。NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)といった税制優遇のある制度を活用し、長期・分散・積立の資産形成に取り組むことは、インフレへの備えとして有効とされています。ただし投資にはリスクが伴うため、ご自身の状況に応じて判断することが大切です。

キャリア戦略|リスキリングで「値上げされない自分」になる

物価が上がる時代に自分の「市場価値」を高めることは、最も確実な経済的防衛策のひとつです。デジタルスキルやデータ分析、マネジメントなど、業界を問わず需要の高いスキルを身につけるリスキリングに取り組むことで、転職市場での交渉力が高まり、賃上げ交渉の材料にもなります。教育訓練給付金などのリスキリングに活用できる助成金・補助金制度も活用しながら、自律的なキャリア形成を意識していきましょう。

FAQ|スタグフレーションと値上げに関するよくある質問

日本は本当にスタグフレーションに入っているのですか?
厳密な定義では「景気停滞+物価上昇」を同時に満たす必要があり、現時点で日本が完全なスタグフレーションにあるとは言い切れません。ただし、実質賃金の伸び悩みと物価高が並行している点で「スタグフレーション的」な状況と指摘する専門家も増えています。
値上げはいつまで続きますか?
帝国データバンクの2026年4月調査によれば、大規模な値上げラッシュは一服傾向にあるものの、月1,000品目前後の価格改定は当面続く見通しです。年間では1万品目前後のペースが予想されており、値上げの「常態化」が進んでいます。
中東情勢は日本の物価にどう影響しますか?
原油価格の上昇を通じて、輸送コスト・包装資材・エネルギーコストに波及します。ホルムズ海峡の通航が制限されている現状では、日本の原油輸入が約94%を依存する中東からの供給が大幅に減少しており、食品を含む幅広い分野でコスト上昇圧力が続いています。
企業が「物価高手当」を支給する場合、税務上の扱いは?
物価高手当は原則として給与所得に該当し、所得税・住民税の課税対象です。社会保険料は毎月支給する場合は「給与」として標準報酬月額に、年1〜2回など臨時に支給する場合は「賞与」として標準賞与額にそれぞれ算定基礎に含まれます。いずれの形態でも企業側に追加の法定福利費が発生する点は同じですが、保険料の発生タイミング(毎月の社会保険料計算に反映されるか、賞与時に一括で発生するか)が異なるため、導入時は税理士・社会保険労務士へ必ず確認しましょう。
中小企業でも取り組める物価高対策はありますか?
助成金・補助金の活用、福利厚生サービスの導入、業務DXによる生産性向上など、コストを抑えながら従業員を支援する方法は複数あります。業務改善助成金やキャリアアップ助成金など、中小企業向けの支援制度を積極的に活用しましょう。

まとめ|「物価高時代」は人事労務の腕の見せどころ

スタグフレーション懸念は、マクロ経済の問題であると同時に「人の問題」でもあります。物価の上昇は従業員の生活を直撃し、モチベーション・定着率・採用競争力に影響を及ぼします。だからこそ、経済の逆風は人事労務の腕の見せどころとも言えるのです。

POINT
物価高時代に人事労務が取り組むべき3つの柱

賃上げ一辺倒ではなく、「可処分所得を実質的に支える施策」を多角的に検討することが重要です。

企業としての対応

非課税枠の活用・福利厚生の再設計・助成金の活用など、コストを抑えながら従業員の実質手取りを守る施策を多角的に検討する。

個人としての備え

家計(固定費見直し)・資産(NISA・iDeCo)・キャリア(リスキリング)の3軸で変化に強い基盤をつくる。

情報収集を継続する

米国関税・中東情勢・為替動向は日々変化している。ジェトロ・資源エネルギー庁・帝国データバンクなどの一次情報を定期的にチェックし、実務への反映漏れを防ぐ。

物価高も為替も中東情勢も、すぐには変わりません。しかし「その中で自社と従業員のために何ができるか」を考え、一つずつ実行に移すことはできます。労務SEARCHでは、物価高時代の企業対応に役立つ情報を今後も発信してまいります。

eni-labo社会保険労務士事務所 監修者田畑 啓史

大学在学中に社労士試験に合格。業界歴約30年のベテランで、ビジネスケアラー対策の第一人者として企業の人材確保・定着支援を得意とする。
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