更新日:
アンケート企業の福利厚生は、従業員のワークライフバランスを整えたり、働く意欲を高めたりする効果が期待できます。魅力的な福利厚生は、優秀な人材確保や離職防止にもつながるといわれており、企業の成長を支えるひとつの要素です。
しかし、導入する福利厚生を「多くの企業が導入しているから」「一般的なものであるから」などの理由で選んでしまうと、その効果は発揮できません。時代に伴い従業員の価値観やライフスタイルは変化しているので、企業は従業員のニーズをしっかりと把握し、定期的に福利厚生の内容を見直す必要があります。
今回労務SEARCH編集部では、20代以上の働く男女300名を対象に、福利厚生に関するアンケート調査を実施しました。本記事ではその調査結果をもとに、企業の福利厚生について考察していきます。
目次
まずは、現在勤める企業の福利厚生に対する満足度と充実度について質問してみました。
最初に、あなたは勤務先の福利厚生に満足していますか?と質問してみたところ、「やや満足している」が36.0%と最も多く、次いで「あまり満足していない」が24.3%、「どちらとも言えない」が24.0%という結果になりました。
満足度が高い(「とても満足している」または「やや満足している」)と回答した人が約4割いる一方で、約3割の人は満足度が低い(「全く満足していない」または「あまり満足していない」)と回答しており、企業の福利厚生に対する従業員の評価は二極化していることが伺えます。
次に、勤務先の福利厚生は充実していると思うか聞いてみたところ、「どちらかと言えば充実している」が34.0%、続けて「どちらとも言えない」が28.3%、「どちらかと言えば充実していない」が18.3%という結果になりました。
こちらも満足度同様、充実している(「どちらかと言えば充実している」または「とても充実している」)と回答した人は約4割いる一方で、約3割の人は充実していない(「どちらかと言えば充実していない」または「全く充実していない」)と回答しており、評価は二極化しています。
福利厚生の充実度は、企業規模や業種によって大きく異なる傾向があります。一般的に、大企業ほど福利厚生が充実しているといわれていますが、中小企業でも独自の福利厚生を設け、従業員の満足度向上に取り組んでいる企業も少なくありません。
次に、企業ではどのような福利厚生が導入されているのかを調査してみました。
あなたの勤務先にはどのような福利厚生がありますか?と質問してみたところ、最も回答数が多かった福利厚生は「通勤手当」でした。続けて、2位が「育児・介護休暇」、3位が「慶弔休暇」、4位が「退職金」、5位が「人間ドック・健康診断の補助」となりました。
上位に挙がった福利厚生は、法律で定められているものや、従業員の生活を支えるうえで重要な役割を果たすものなど、企業にとって必須といえる福利厚生が多い印象です。
反対に、この質問で最も回答数が少なかった福利厚生は「託児所・保育施設」で10票でした。2番目に少なかったのは「オフィスコンビニ」、3番目に少なかったのは「社宅・寮」となっています。
第1位となった「通勤手当」は、回答者300名のうち206名が『導入されている』と回答しており、今回の調査対象者が勤める約7割の企業で導入されていることになります。従業員が通勤する際などにかかる交通費は、ほとんどの場合、福利厚生として企業が負担しているようです。
第2位の「育児・介護休暇」は、育児休業や介護休業とは異なる制度であり、育児休暇は従業員の育児を支援するために、企業が独自に定めます。しかし、2022年に育児・介護休業法が改正され、小学校就学の始期に達するまでの子供を養育する労働者に対する育児のための休暇制度の設置が、努力義務となりました。そのため導入している企業が多いのかもしれません。
対して介護休暇は、育児・介護休業法で定められた休暇制度です。働きながら家族の介護を担う人は年々増加しており、将来的には介護をしながら働くことが当たり前となることが予想されます。介護を理由とした離職は企業にとっても大きな損失になるため、企業は従業員に対し、介護休暇のような休暇制度を十分に周知する必要があります。
第3位の「慶弔休暇」は、慶事(お祝い事)や弔事(お悔やみ事)があった際に取得できる休暇制度のことです。取得できるケースの例としては、従業員が結婚したとき・従業員の配偶者が出産したとき・従業員の家族が亡くなったときなどです。ただし、対象となるケースや取得期間、取得期間中の給与の支払い有無については会社の定めによって異なります。
今回の調査で、「慶弔休暇」の導入率は50.7%と約半数の企業で導入されていることがわかりましたが、慶事や弔事があった際に、企業が従業員に一時金を支給する「慶弔・災害見舞金」の導入率は25.3%と低めでした。このことから、多くの企業では慶弔休暇のみがあり、その際に特段お金の支給はおこなっていないようです。
次に、それぞれの福利厚生の利用率について調査してみました。
実際に利用したことのある福利厚生を教えてくださいといった質問で、最も回答数が多かった福利厚生は、導入率の結果同様「通勤手当」でした。次いで「人間ドック・健康診断の補助」が第2位、「慶弔休暇」が第3位、「リモートワーク」が第4位、特別休暇(リフレッシュ休暇等)が第5位と続きました。
導入率と比較してみると、以下の表のとおりです。
導入率が高い福利厚生 | 利用率が高い福利厚生 | |
---|---|---|
第1位 | 通勤手当 | 通勤手当 |
第2位 | 育児・介護休暇 | 人間ドック・健康診断の補助 |
第3位 | 慶弔休暇 | 慶弔休暇 |
第4位 | 退職金 | リモートワーク |
第5位 | 人間ドック・健康診断の補助 | 特別休暇 (リフレッシュ休暇等) |
利用率が高い福利厚生の共通点は、利用できる頻度の高さでしょう。従業員にとって身近で利用しやすい福利厚生が上位にランクインしていることがわかります。
なお、導入率は高いものの、従業員の利用率が低い福利厚生としては「退職金」、「レジャー施設等の優待」、「慶弔・災害見舞金」などが挙げられます。
では、従業員はどのような福利厚生を本当は求めているのでしょうか?ここからは、働き方/健康/生活支援/休暇/職場環境/キャリアアップに関する福利厚生について、それぞれ勤務先にあると最も嬉しい福利厚生を調査してみました。
まず、働き方に関する福利厚生については、「リモートワーク」が28.0%と最も多く、次いで「時短勤務」が26.3%、「フレックスタイム制」が24.7%という結果になりました。
上位3つにあまり差はありませんでしたが、残業をせずに定時退社を促す「ノー残業デー」と、国内では2015年頃から広まった「ワーケーション制度」、そして企業の本社などから離れた場所に設置する「サテライトオフィス」の支持率は比較的低めです。
労務SEARCHでは、2024年のリモートワーク実施企業の現状調査も実施しています。現在各企業はどのようにリモートワークを導入しているのか知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
続いて健康に関する福利厚生については、「人間ドック・健康診断の補助」が51.3%で第1位、「運動施設の利用補助」が18.3%で第2位、「予防接種の補助」が18.0%で第3位となりました。
「人間ドック・健康診断の補助」は、今回の調査において、導入率が42%・利用率が27%と比較的人気な福利厚生です。従業員の健康管理をおこなうためにも、導入すると企業と従業員の双方にとって満足度が高い福利厚生になるといえるでしょう。
第2位の「運動施設の利用補助」は、スポーツジムなどの併設や利用料の補助などを指します。こちらも企業の健康経営を実現するために、有効的な福利厚生でしょう。
生活支援に関する福利厚生については、「住宅手当・家賃補助」が48.7%と約半数近い回答を集めました。2位以降はあまり回答数に差がなく、第2位が「退職金」で10.0%、第3位が「通勤手当」で8.7%となりました。
今回の調査における「住宅手当・家賃補助」の導入率をみてみると、24.3%とあまり高くはありません。似たような住まいに関する福利厚生である「社宅・寮」に関しては、導入率は11.4%・支持率は3.0%と、圧倒的に「住宅手当・家賃補助」の方が人気なことがわかります。
ちなみに厚生労働省が令和2年に実施した『就労条件総合調査』によると、住宅手当などの平均額は17,800円でした。導入を検討している企業はこの相場を参考に、手当金額を決めるのがいいでしょう。
続けて休暇に関する福利厚生は、「リフレッシュ休暇」が34.3%で第1位、「夏季・冬季休暇(年末年始休暇)」が27.3%で第2位、「病気休暇」が13.0%で第3位という結果になりました。
リフレッシュ休暇とはその名のとおり、従業員にリフレッシュしてもらうことを目的とした休暇制度です。年次有給休暇は法律で定められている「法定休暇」ですが、リフレッシュ休暇は企業が任意で導入する「法定外休暇」となります。
厚生労働省はリフレッシュ休暇について、心身の疲労回復などのため、勤続3年ごとに5日間の休暇を付与することを例として挙げています。
職場環境に関する福利厚生については、「社員食堂」が37.0%と最も多く、次いで「オフィスコンビニ」が29.7%、「託児所・保育施設」が16.7%となりました。
食事に関する福利厚生の導入率をみてみると、社員食堂・食事手当は20.0%、オフィスコンビニは5.7%と比較的低めでした。しかしこの結果から、従業員からの需要はありそうです。オフィスコンビニはさまざまなサービスがあるので、従業員の満足度が高いオフィスコンビニを知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
最後にキャリアアップに関する福利厚生は、第1位が「資格取得支援・スキルアップ」で62.3%、第2位が「書籍購入補助」で18.0%、第3位が「キャリアカウンセリング」で8.7%という結果になりました。
福利厚生として資格取得支援を設ける場合、一般的には「資格取得にかかる費用の一部または全額を負担する」、「資格取得後に報奨金や手当を支給する」などの方法があります。このような福利厚生を導入することで、従業員の学習意欲が向上し、業績アップにつながることが期待できるでしょう。
一方で、従業員が魅力を感じない福利厚生はなんでしょうか?次に、最も魅力を感じない福利厚生について調査してみました。
調査対象者300名に最も魅力を感じない福利厚生はなんですか?と質問してみたところ、最も多く回答が集まったのは「社員旅行・レクレーション」でした。
労働者が「社員旅行・レクレーション」に魅力を感じない理由としては、『休日にまで会社の人と関わりたくない』『リフレッシュにならない』『気を使うだけで精神的に疲れる』『仕事の延長に感じる』などの意見が多く挙げられました。
この質問では、託児所・保育施設や家族手当など、子供がいる人・結婚している人のみが利用できる福利厚生も選択肢に含めましたが、それらをおさえて約40%の人が「社員旅行・レクレーション」を選んだことから、大半の従業員は社員旅行・レクレーションは不要だと考えていることがわかります。
続けて、第2位は「レジャー施設等の優待」で8.3%、第3位は「オフィスコンビニ」で8.0%、第4位は「託児所・保育施設」で6.3%、第5位は「出産お祝い金・育休手当」で6.0%という結果になりました。
第2位の「レジャー施設等の優待」に関しては、『利用する機会がない』『割引される施設が魅力的でない』『限られた施設しか利用できない』など利用できる施設に対する不満の声が多く集まりました。第3位の「オフィスコンビニ」に関しては、『会社の近所にコンビニがあるから』といった意見が大半を占めていました。
第4位と第5位にランクインした「託児所・保育施設」と「出産お祝い金・育休手当」については、『子供がいる人いない人で不公平感がある』『結婚していないので利用することがなさそう』など、そもそも利用対象者が限られる福利厚生であることに不満を感じている方が多いようです。
これらの結果から、従業員にとって福利厚生は”あれば良い”というものではなく、本当に必要なもの・自分にとって価値のあるものが求められていることがわかります。企業は、従業員のライフスタイルや価値観の変化を捉え、時代に合った福利厚生を導入していく必要があるといえるでしょう。
福利厚生を充実させると、企業のイメージアップになるといった印象がありますが、実際にどれほど人材確保につながっているのでしょうか。最後に、福利厚生と人材確保の相関関係を調査するために、就職活動や転職活動時、企業の福利厚生をどれくらい重視するのかを聞いてみました。
まず、今の勤務先に就職する際、福利厚生の有無や内容を確認しましたか?と質問してみたところ、「確認した」と回答した人が46.3%、「確認していない」が38.0%、「覚えていない」が15.7%という結果になりました。
約半数の方は、企業の福利厚生の内容などを確認してから就職したようです。
次に、今後転職する際、福利厚生の有無や内容を重視しますか?と聞いてみたところ、「まぁまぁ重視する」が58.3%、「かなり重視する」が27.3%と、合わせて8割以上の人が、程度に差はあるものの「福利厚生を重視する」と回答しました。
反対に「あまり気にしない」と回答した方は13.7%、「ほとんど気にしない」と回答した方は0.7%と、企業の福利厚生を気にせずに転職活動をする方は少数であることがわかります。これらの結果から、企業の福利厚生は、就職活動や転職活動において重要な判断材料となっているといえるでしょう。
今回のアンケート調査結果から、多くの企業で導入されている福利厚生は必ずしも従業員が最も求めている福利厚生とは限らないことが明らかとなりました。特に、近年は企業に対し、働き方改革や健康経営の推進が求められているため、今後はリモートワークや時短勤務、健康診断の補助など、従業員のワークライフバランスや健康をサポートする福利厚生の重要性はますます高まっていくと考えられます。
また、企業の福利厚生は、多くの労働者が就職活動・転職活動時に重視するポイントです。企業は、従業員が本当に必要としている福利厚生を導入することで、従業員満足度を高めるだけでなく、人材の確保および定着につなげられるでしょう。
調査名 | 福利厚生に関するアンケート |
---|---|
調査対象 | 20代以上の男女300名 |
調査期間 | 2024年9月24日~2024年10月8日 |
調査方法 | インターネット調査 |
労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
詳しいプロフィールはこちら