労災事故が起きたら「労災保険ですべて賄えるから安心」と思っていませんか?実は、会社(事業主)の責任を全て労災保険で賄うことは出来ません。
業務上災害により従業員が被災したら、本来従業員が受け取る予定だった報酬(給与等)を会社が全て負担する必要があります。国がおこなっている労災保険の補償内容範囲を超える範囲も、本来は補償する必要があります。
この記事では、労災保険の上乗せ保険も含めて解説していきます。
目次
労災保険の給付には以下の種類があります。
この他に、保険給付を補足する社会復帰促進等事業である特別支給金も存在します。特別支給金は申請によって支給され、書類は各都道府県の労働局または労働基準監督署に用意されています。申請する際は原則、保険給付と同時におこないましょう。様式は保険給付請求書と同一です。
休業補償給付は業務上の事由による負傷・疾病などにより、
というすべての要件を満たした場合、3日の待機期間を経て支給されます。つまり、支給されるのは4日目からで、休業初日から3日間は待機期間として休業補償給付は支給されないということになります。
待機期間である3日間についてですが、労働基準法の規定があるため、企業側が休業補償を行う決まりになっています。
基本的に労災では、慰謝料請求ができないようになっています。会社に責任がある労働災害や従業員の責任による労働災害などの治療費は出ますが、慰謝料は出ません。
あきらかに会社に「不法行為」または「安全配慮義務違反の債務不履行責任」があると確認された場合は、会社に慰謝料の請求が可能です。会社にこれらの責任がないと認められた場合は、労働者災害補償保険の請求のみとなります。
慰謝料については、主に以下のものがあります。
そして、精神的な面での損害についての慰謝料等は労災では補償されませんが、労災保険で補償されない損害については、民事上の損害賠償請求によって会社に請求することができます。
通勤災害においては、事業主に補償の義務はありません。ただし、労災保険から通勤災害に基づく保険給付は支給されます。
業務災害の場合は、休業の最初の3日間は会社から平均賃金の60%の休業補償をしてもらえます。ただし休業補償は賃金ではないため、雇用保険や社会保険の対象とはなりません。そのため、所得税も非課税となりますので注意しましょう。
通勤災害と考えられがちな例を挙げてみましょう。
出張先など遠方から帰宅する際に怪我をしてしまった場合、これは通勤災害と思われがちなのですが、出張中の場合は自宅を出てから帰宅するまでの間が業務中となります。そのため、業務災害となります。
そのほか、自転車や徒歩などで会社の駐車場内で怪我をした場合も、業務開始時刻前に事業所内で怪我をしているため業務災害となります。
業務中に従業員が事故に見舞われた場合、損害賠償を請求されるケースが増加しています。
不運にも死亡事故になってしまった場合、損害賠償金として何千万単位で支払わなければならない可能性も出てきます。労災保険での死亡時の補償額は約1,000万円となっていますが、遺族から多額の損害賠償を求められた場合、最悪のケースでは経営破綻も考えられます。
このため、現在では労災保険とは別に「労災上乗せ保険」に加入する会社が増えています。特に、事故の多い建設会社は労災上乗せ保険に加入することがほとんどです。
労災上乗せ保険では、労災保険が適用される場合に保険金が支払われます。上乗せ保険は正社員だけでなく、アルバイトやパートで働く従業員にも適用されます。個々の名前などを記入せずとも、従業員の人数を記入するだけでかまいません。
さらに安心して働ける職場作りのためにも、任意保険に加入することも重要です。任意保険は種類も豊富、内容も充実しているものが多くなっています。治療費が高額になったとしても全額負担してもらえるような上限のない任意保険も存在します。
人事労務担当者であっても労災保険の内容を詳しく知っている方は少ないと思います。
また、単純に業務災害が起こった際は「労災保険ですべて賄えるから・・・」と思っている方も多くおられると思います。
労災保険で補償される部分とされない部分を正しく認識して、足りない分は民間の保険で対応し、会社として負担する考え方も必要です。労災を発生させない安全衛生体制の確立も重要です。人事労務管理担当者の腕の見せ所とも言えます。全てのリスクに備えましょう!
社会保険労務士法人|岡佳伸事務所の代表、開業社会保険労務士として活躍。各種講演会の講師および各種WEB記事執筆。日本経済新聞、女性セブン等に取材記事掲載。2020年12月21日、2021年3月10日にあさイチ(NHK)にも出演。
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