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アンケート近年、会社を辞める際に『退職代行サービス』を利用する人が増えています。特に若年層の利用が多い傾向にあり、サービス自体の認知度も高まっていることから、今後さらに利用者数の増加が予測されます。
一般的に、民間企業が運営する退職代行サービスの料金相場は1~5万円程度です。なぜ利用者(労働者)は、退職代行サービスを利用した退職を選択するのでしょうか。
今回労務SEARCHでは、退職に関するアンケート調査を実施しました。10代以上の男女300名を対象に、前職の退職理由や退職時のトラブル、退職代行サービスに対する意識について聞いてみました。
目次
従業員が退職するとき、企業として気になるのはその「退職理由」です。そこでまずは回答者300名に対し、前職を退職した理由について聞いてみました。
最初に、あなたが前職を退職した理由は何ですか?という質問をしてみたところ、第1位は「別の業界・職種にチャレンジしたかった」で21.3%、第2位は「キャリアアップ・スキルアップのため」で18.7%、第3位は「家庭や自身の健康上の事情」で14.0%となりました。
1位と2位の回答数をあわせると約40%に達し、多くの方は自己実現や成長意欲といった前向きな動機が、退職の主なきっかけとなったようです。これらは、会社側も引き止めにくく、応援せざるを得ない円満退職に繋がりやすい理由と言えるでしょう。
4位以降は「給与や待遇に不満があった」が12.7%、「評価・人事制度に不満があった」が10.0%、「職場の人間関係が悪かった」が9.7%と続き、職場の制度や環境などへの不満が、従業員の離職に繋がっていることがわかります。
では、もし従業員が職場になんらかの不満を抱いて退職を選択する場合、その退職理由を正直に会社に伝える方はどのくらいいるのでしょうか。
次に、退職時、会社に本当の退職理由を正直に伝えましたか?と質問してみたところ「一部だけ伝えた」が32.7%と、最も多くの票を集めました。しかし「正直に伝えた」方も31.7%とほぼ変わらず、「本音は伝えず、建前で済ませた」が23.0%、「伝えていない」が12.3%と続いています。
「正直に伝えた」以外の回答をあわせると68.0%となり、半数以上の方は、本当の理由を一部しか伝えなかったり、本当の退職理由とは異なる建前を使ったり、あるいは本当の退職理由をまったく伝えなかったりしているようです。この結果から、”退職”という場において、正直なコミュニケーションがいかに難しいかがわかります。
では、なぜ多くの方は、会社に本当の退職理由を伝えなかったのでしょうか。
前問で「伝えていない」と回答した方にその理由を尋ねてみたところ、第1位は「伝える必要がないと思ったから」で40.6%、第2位は「円満退社したかったから」で24.3%、第3位は「伝えても理解してもらえないと思ったから」で18.9%と、これらの回答が多くの票を集めました。
「伝える必要がない」や「伝えても理解してもらえないと思ったから」という回答からは、「もう辞める会社に何を言っても無駄だ」という諦めや「自分の本音を伝える義務はない」という割り切った考えがうかがえます。
そして「円満退社したかったから」という回答からは、本音(特にネガティブな退職理由)を伝えることで、上司や同僚との関係が悪化したり、退職日までの期間を気まずい雰囲気で過ごしたりすることを避けたいといった考えがうかがえるでしょう。
そこで次に、前職を退職したときに会社に本当の退職理由を「伝えていない」方に対して、会社に伝えなかった本当の退職理由について聞いてみました。
その結果、第1位は「給与や待遇に不満があった」で29.8%、第2位は「職場の人間関係が悪かった」で21.6%、第3位は「労働時間・働き方が合わなかった」で10.8%となりました。
この結果から、会社に本当の退職理由を「伝えていない」方の多くは、職場へのなんらかの不満を抱いて辞めているケースが多く、会社側はそれを把握していない可能性がうかがえます。
円満退職のために本当の退職理由を伝えず、「キャリアアップのため」などのポジティブで差し障りのない理由を建前として使っているケースも多いでしょう。その場合、会社側は組織が抱える本質的な問題(低賃金、ハラスメント、劣悪な人間関係など)を見過ごすことに繋がりかねません。
ここまでの調査結果から、半数以上の方が会社に正直に退職理由を伝えていない実態が明らかになりました。では、その結果として、彼らは本当に満足のいく退職ができたのでしょうか。
あなたは前職を円満に退職できたと感じますか?という質問では「どちらかと言えばそう思う」が47.7%、「そう思う」が26.7%と、7割以上の方が肯定的な回答をしています。
しかし「あまりそう思わない」は17.6%、「まったくそう思わない」は8.0%と、約4人に1人は円満に退職できたとは感じていないようです。
会社に退職の意思表示をしたタイミングをいつでしたか?といった質問で最も多かった回答は、「働くのが難しくなったとき」で32.7%でした。続けて「転職先が決まったとき」が22.3%、「転職や次のキャリアを決意したとき」が18.3%、「転職先の選考を進めているとき」が16.3%の票を集めています。
「働くのが難しくなったとき」とは、心身の健康問題に問題が生じた、職場でのストレスに耐えられなくなったなどのケースが考えられます。一般的に、退職の意思表示をするタイミングと言えば「転職先が決まってから」をイメージしますが、それ以上に「もうこれ以上は働けない」といった追い詰められた状況から、退職の意思を伝える方が多いようです。
退職手続きのなかで、不満に感じた点はありましたか?といった質問では「なかった」が61.0%、「あった」が30.7%となりました。
「あった」と回答した方に具体的に不満を感じた点について聞いてみたところ、第1位は「残っていた有給休暇を希望どおりに使えなかった」で30.4%、第2位は「感情的な対応をされた」で28.3%、第3位は「離職票など書類の対応が遅かった」で21.7%といった結果になっています。
有給休暇の取得は、労働者の権利です。これを妨害することや退職者に対して感情的に非難することは、会社として不適切な対応と言わざるを得ないでしょう。
そしてこれらの行為は、退職者の心に大きな不満と不信感を植え付ける可能性があります。こうした経験が「退職時のトラブルを避けたい」という思いを強くさせ、後述する退職代行サービスの需要に繋がっているのかもしれません。
労働者が退職時に労力を使うのを避けるため、近年、急速に利用者数を増やしているのが『退職代行サービス』です。ここからは、この新しいサービスに対する意識調査をしてみました。
まず、退職代行サービスの認知度について聞いてみたところ「知っている」の回答が74.0%と、多くの方が退職代行サービスについて認知していることが明らかになりました。
そのほか、24.7%の方は「名前は聞いたことがあるがサービス内容はよく知らない」と回答しており、程度に差はあるものの、今回のアンケート調査回答者のほぼ全員が、退職代行サービスを認知していることがわかります。
このことから、退職代行はいまや一部の人が知る特殊なサービスではなく、社会的に広く認知された選択肢となっていると言えるでしょう。
一方で、あなたはこれまでに退職代行サービスを利用したことがありますか?といった質問には「利用したことはない」が91.3%と9割以上の票を集めたことから、実際に利用したことがある方はごく一部である現状がうかがえます。
しかし「利用したことがある」の回答数は8.7%で、10人に1人弱が利用経験をもつというのは、サービスの需要が確実に存在することを示していると言えるでしょう。
次に、前問で退職代行を「利用したことがある」と回答した方にその理由を聞いてみました。
その結果、有効な回答のうち最も多かったのは「退職を言い出しにくかったから」で23.1%、続いて「退職を伝えた後トラブルになりそうだから」が19.2%、「退職を引き留められた(引き留められそうだ)から」が15.4%となりました。
この結果から改めて、退職がいかに困難なコミュニケーションであるかがわかります。「上司が高圧的で退職を言い出せない」「退職を伝えたら嫌がらせをされそう」「強い引き止めにあって辞めさせてもらえなさそう」などのケースはすべて、正常なコミュニケーションが機能不全に陥っている職場の典型的な特徴です。
こうした状況で働く従業員にとっては、退職代行サービスを利用すれば「確実に退職できる」「精神的な負担なく辞められる」という点は、大きなメリットに感じられるでしょう。
最後に、今回のアンケート調査の回答者全員に、今後、退職代行サービスを利用したいと思いますか?と聞いてみました。
その結果「状況によっては利用するかもしれない」が69.0%と大多数を占め、多くの方が退職代行の利用を肯定的に、あるいは選択肢の一つとして考えていることがわかりました。
利用経験者は8.7%しかいないにもかかわらず、潜在的な利用希望者(「利用したい」もしくは「状況によっては利用するかもしれない」の回答者)はその9倍近くに達します。
これは、いまや労働者にとって退職代行サービスは、万が一、会社との退職交渉がこじれたり、不当な扱いを受けたりした場合の最終的なセーフティネットであり、安心のためのお守りのような存在として認識されていることの表れでしょう。
なお「利用したいと思わない」と回答した方にその理由を聞いてみたところ、最も多かったのは「退職意向は自分で会社に伝えるべきだと思うから」でした。
今回のアンケート調査で、職場に不満を感じて退職を決意した従業員ほど、その退職理由を会社に正直に伝えていない実態が明らかになりました。伝えない理由としては「伝える必要がないと思ったから」や「円満退社したかったから」が多くの票を集め、なるべく穏便に退職したいと考える労働者が多いことがうかがえます。
退職代行サービスに関しては、実際に利用したことがある方は8.7%と少なかったものの、今後「状況によっては利用するかもしれない」と回答した方は69.0%と、約7割を占めました。
8.7%の方が退職代行サービスを利用した理由としては、「退職を言い出しにくかったから」の回答が最も多く、企業は従業員が恐怖や不安を感じずに退職の相談ができる、風通しの良い職場環境を構築する必要があることがわかります。
従業員が本当の退職理由を言えずに辞めてしまうような職場は、新たに人材を採用しても、今後も同じことが繰り返される可能性があります。本質的な問題を解決するためにもまずは課題を把握し、誰でも利用しやすい相談窓口を設置する、従業員間で積極的にコミュニケーションを図るなどの対策が必要です。
調査名 | 退職・退職代行に関するアンケート |
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調査対象 | 企業などで働き、退職を経験したことがある10代以上の男女300名 |
調査期間 | 2025年5月19日~2025年5月30日 |
調査方法 | インターネット調査 |
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