この記事の結論
- 退職代行とは従業員の代わりに第三者が退職の意思を会社に伝えるサービス
- 従業員が退職代行を使って退職を申し出てきたとき、会社側は弁護士資格の有無の確認や本人確認をおこなう必要がある
- 従業員の雇用形態に応じて退職の条件は異なる
この記事の結論
退職の申し出は、対面でおこなうことが一般的です。しかしさまざまな理由により、近年は退職代行サービスを利用して、退職の意思を会社に伝える方が増加傾向にあります。
もし従業員に退職代行を使われた場合、会社側はどのような対応を取るべきなのでしょうか。本記事では、退職代行を使われたときの会社側の適切な対応方法、NG行為などについて詳しく解説します。
目次
そもそも退職代行とは、労働者が自ら退職することが難しい状況下で、第三者が代わりに退職の意思を会社に伝えるサービスです。労働者が直接会社とやり取りすることを避けたい場合や、上司や人事からの圧力や嫌がらせを受ける可能性がある場合などに利用されます。
もし従業員が退職代行を使って退職を申し出てきた場合、会社側は次の対応をしましょう。
退職代行を使われたときの対応方法
従業員が退職代行を使って退職を申し出てきたら、まずはその申し出が本人の意思に基づくものかどうかを確認することが重要です。従業員に対する嫌がらせとして、従業員の知人が退職代行に依頼した可能性もあるからです。
退職代行業者は、従業員から本人確認書類を受け取っています。そのため、本人確認書類のコピーを企業へ提出するよう求めることが可能です。
本人確認書類の提出を拒否された場合は、退職は本人の意思ではない可能性を考えた方がよいでしょう。
退職代行の運営元には、弁護士・労働組合・民間企業があります。どの運営元でも従業員の代わりに退職の意思を伝えることは可能です。しかし、残業代請求やその他の手続きを代行できるのは、弁護士資格を持つ者か労働組合のみです。
なお、弁護士以外が手続きや交渉、請求などを代行することは「非弁行為」に該当し、弁護士法第72条に違反します(今回のケースでは労働組合を除く)。
弁護士資格をもたない人物が弁護士でなければおこなえない業務をおこなうこと。
退職代行業者の身元をはっきりとさせたうえで、対応方法を決めることが重要です。
従業員は、企業に退職の意思を伝えることで雇用契約を解除できます。ただし、無期雇用労働者と有期雇用労働者で扱いが異なります。
それぞれの雇用形態における対応方法は以下のとおりです。
無期雇用労働者の場合は、退職日の2週間前までに企業へ通知することで、雇用契約を解除できます。
有期雇用労働者は、契約期間が満了しない限り雇用契約を解除できないのが原則です。ただし、やむを得ない事由がある場合に限り、契約期間中に雇用契約を解除できます。
有期雇用労働者の雇用契約の解除が認められる「やむを得ない事由」とは、
ケースなどです。しかし、例えやむを得ない事由に該当しなかったとしても、働く意思がない従業員を無理に在籍させると余計な人件費がかかるため、退職を承諾した方がよいとの考えもあるでしょう。
退職代行を使った従業員の退職が確定した後は、会社側は以下の対応をおこないましょう。
従業員が退職代行を使った場合、通常は退職代行業者が手続きまで代行します。そのため企業は従業員本人ではなく、退職代行業者とやり取りをするケースが多いでしょう。
手続きでは、退職したことを明確化するために、まずは退職届の提出を求めることが重要です。退職届の決まったフォーマットがない場合は、こちらの無料テンプレートをご活用ください。
そして貸与している会社の備品、制服などの返還手続きを案内します。その後、退職に関わる以下の書類を退職代行業者または従業員に送付します。
退職代行業者の利用の有無を問わず、送付する書類は同じです。
退職代行を使われたかどうかに問わず、従業員が有給休暇の付与条件を満たしている場合は有休消化について案内する必要があります。
上記2つの条件を満たしている従業員には、10日間の有給休暇を付与する必要があります。有休を消化させない場合、労働基準法第120条に基づき、30万円以下の罰金を科せられる可能性があります。
退職代行を使っての退職の場合、従業員は引き継ぎをせずに退職することが多いでしょう。また、人員不足の状況下で急遽退職するケースも少なくありません。そうなると、現場に欠員が出たことでほかの従業員の負担が増大し、会社への不満がつのる可能性もあります。
このような場合、欠員が出た部署にほかの部署から異動させることを検討しましょう。欠員が出た部署の業務に特化した人材を採用するまでの間、ピンチヒッターとして一時的に異動してもらうのも一つの方法です。
退職代行を使われた場合、憤りを感じることで以下のような対応を取る企業もあるでしょう。
しかしこれらは退職代行を使われたときに取るべきではないNG行為です。ここからはそれぞれの行為の問題点について、詳しく見ていきましょう。
従業員より退職代行を使って退職の意思を伝えられた後、その従業員と直接話すために、従業員宅に押しかけてはいけません。退職代行サービスを利用する従業員は、上司や人事などとの対話を望んでいないため、家を訪れても対話を拒否されるでしょう。
また、従業員の精神的な負担がさらに大きくなることで、精神的苦痛を受けたことに対する慰謝料請求を受ける可能性も否定できません。
従業員と対話ができたとしても、途中で気分が悪くなり退去を指示された場合は、それに従わなければなりません。退去を求められたのに退去しなかった場合は不退去罪となり、3年以下の懲役または10万円以下の罰金を課せられる可能性があります。
会社側は、退職代行サービスを利用した従業員を叱責することも避けましょう。退職代行を使わなければ退職できないような状況に陥っていることを理解し、同じ事態を引き起こさないために対策を立てることに目を向けましょう。
暴行や脅迫といった行為はパワハラ(パワーハラスメント)に該当し、企業が安全配慮義務に違反したと見なされる可能性があります。
安全配慮義務とは、企業が従業員の身体の安全を確保して労働できる環境を作るよう配慮する義務のことです。
退職代行を使って退職する従業員が出てきたら、必要に応じて社内体制や各従業員の業務量などを見直すことが大切です。従業員は主に以下のような理由から、退職代行を利用したと考えられます。
退職したい旨を上司に伝えたものの、上司や人事部に引き留められることがあります。引き留められたときの心理状態には個人差がありますが、「意を決して退職の意向を伝えたのに受け入れてもらえなかった」と感じる従業員もいるでしょう。
勇気を出して退職の意向を伝えたにもかかわらず希望が通らなかった場合は、従業員が「自分だけの力では退職できないため退職代行を依頼する」という考えに至った可能性があります。
従業員には労働基準法で認められた「退職の自由」があります。そのため、退職の意向を伝えているのに上司や人事部が退職を拒否する行為は、法律違反にあたります。引き留めの言葉をかけるにしても、脅したり相手が強引だと感じたりするような言葉は避けましょう。
退職を言い出しにくい社風・労働環境の場合、従業員は自分で退職の意思を会社に伝えられず、退職代行を利用する可能性があります。
自社が上記のような社風・労働環境になっていないか確認し、該当する場合は早急に改善することが大切です。
サービス残業が横行している企業では、多額の未払い賃金があります。従業員が「未払い賃金を請求すると会社に居づらくなる」と感じている場合、退職と同時に請求しようと考える方も少なくありません。
この方法であれば、会社に居づらくなることを心配する必要はないうえに、退職代行業者が未払い賃金の請求を代行してくれます。ただし、未払い賃金の請求を代行できるのは弁護士または労働組合に限ります。
退職代行を使われた場合は、退職代行業者の資格の有無、労働組合かどうかや未払い賃金の請求の有無、従業員の雇用形態などを確認したうえで適切に対応する必要があります。
従業員が退職代行を使って退職の意思を申し出てきたとき、会社側はその理由を可能な範囲で確認し、ほかの従業員も退職代行を利用する事態にならないよう対策しましょう。
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