BCP対策とは
- 災害発生時に重要な業務を中断させない、または、迅速に復旧させるための方針や手順を示したBCPを作成し、BCPが機能するための予算や組織の編成、従業員への教育・訓練、点検をおこなうことです。
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電子契約コロナ禍だけではなく、毎年のように自然災害による被害が発生しています。
災害から自社と従業員を守り、災害によるさまざまなリスクをおさえるためには、BCPマニュアルの作成などのBCP対策が必要です。
BCPマニュアルの作成は、災害拠点病院では既に義務化され、福祉施設における作成義務は、2024年に期限を迎えます。
義務化された業種だけでなく、すべての会社や事業所がBCPマニュアルを作成することが推奨されています。
本記事では、災害時のリスクを最小限におさえるためのBCPマニュアル作成のポイントを解説します。
目次
BCPとは、Business Continuity Plan(事業継続計画)の略語で、BCP計画とも呼ばれます。
BCPは、経営レベルの戦略であるBCM(事業継続マネジメント:Business Continuity Managementの略語)における計画書であり、BCPマニュアルの作成などの災害対策の検討・運用・検証などの全体を指します。
BCP対策とは、一般的にBCM全般を指して用いられています。
BCP対策をわかりやすくまとめると次のとおりです。
BCP対策とは
BCP、BCMなどの単語は、混同されることがあります。
ここ数年で公的な用法が変わっており、現在の公的な意味は、次のとおりとされています。
『大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロなど事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順などを示した計画』と定義されています。
『BCP策定や維持・更新、事業継続を実現するための予算・資源の確保、事前対策の実施、取組を浸透させるための教育・訓練の実施、点検、継続的な改善などをおこなう平常時からのマネジメント活動』、とされています。
BCPにおいて想定されるリスクには、次の災害にわかれます。
災害の種類ごとに、自社にあわせたBCP対策が必要です。
地震、水害、火災、台風などの自然現象による災害への対策例は、次のとおりです。
自然災害へのBCP対策例
バイトテロ(アルバイトによるテロ行為)やインサイダー取引、反社会的勢力との取引など社員の違法行為によるリスクやヒューマンエラーに加え、放火など外部の第三者からの災害を含みます。
人為災害への対策例は次のとおりです。
人為災害へのBCP対策例
通信障害だけでなく、社内情報や個人情報の漏えい、コンピューターウイルスへの感染などへの対策も必要です。
IT災害へのBCP対策例
新型コロナウイルス感染症、新型インフルエンザなどの感染症による災害への対策が重要です。
感染症災害への対策例
BCPマニュアルとよく似ているとされている「災害対策マニュアル」がありますが、この2つは異なります。
災害対策マニュアルは、自然災害による直接的な被害に対して、安全確保や事前の備蓄対応などの行動手順を示します。
なお、災害マニュアルによく似た「事業継続力強化計画」があります。
事業継続力計画とは、BCP作成にコストを割きにくい中小企業向けに、主に自然災害への対応策をまとめた計画書です。
BCPよりもシンプルな内容であり、定型的な項目について作成した事業継続力強化計画を申請し、『中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律』の認定を受けます。認定されると、ものづくり補助金などにおける加点措置、計画対象の設備投資についての特別償却が認められるなどのメリットがあります。
BCPマニュアルは、自然災害による直接的な被害だけでなく、物流や電気、通信回線などのインフラが停止するなどの間接的な被害を含めて、業務を迅速に復旧させるために作成します。
BCPと災害対策との違いから考えるとわかりやすくなります。
BCPと災害対策との違いは、対象としている災害の範囲、対象としている当事者、計画が対象としているタイミング、そして、計画の目的の4つです。
BCP | 災害対策 | |
対象としている災害の種類 | 自然災害 人為災害 IT災害 感染症災害 などすべての非常事態 |
自然災害 |
---|---|---|
対象としている当事者 | 自社(全社的) 取引先などサプライチェーンも含む |
自社(事業所ごと) |
対象としているタイミング | 事前の対策 事後の対策 平時のPDCA |
事前の対策 |
計画の目的 | 自社へのリスクをおさえ、重要な業務から早期に復旧させる | 災害発生時の自社への損害をおさえる |
BCPマニュアルの作成は、既に多くの会社が取り組み済です。
特に、2009年の新型インフルエンザ流行や2011年の東日本大震災を契機に、BCPを作成する企業が急増しました。
最近の調査結果では、BCPを作成済または作成中と回答した企業の割合は大企業で85.1%、中堅企業で51.9%となっています。
BCP対策が実際に機能するためには、地震などの災害が発生したときに、従業員がとまどわずに行動するBCPマニュアルが必要です。
BCPマニュアルを作成することで、従業員はやるべきことが明確となり、従業員への説明や共有も容易です。
また、取引先への説明もでき、自社の災害への強さをPRすることにつながります。BCPマニュアルを作成する理由をまとめると、次のとおりです。
BCPマニュアルを作成する理由
× 現状・・・・・・倉庫内が乱雑で、空きスペースもない 地震で在庫品が崩れると、従業員が負傷する 1日で販売できる在庫がなくなる |
↓ |
◎ 在庫ごとに置く場所を決め、固定したラックに収納する。 在庫を安全かつ見やすく整理すると同時に、スペースを確保する。 空いたスペースを活用して、3日間は販売できる水準の災害用品の在庫をもつ などです。 |
BCPマニュアルには、統一的な様式がありません。はじめてBCPマニュアルを作成するときは、公開されているさまざまなひな形、作成例、テンプレートを活用します。
公的機関が公開しているひな形としては、次のとおりです。
中小企業庁の公式Webサイトでは、BCPマニュアル作成のために必要な時間に応じて、入門・基礎・中級・上級までの4種類が公開されています。BCPマニュアル作成のQ&Aや用語集も掲示されています。
厚生労働省から、介護施設・事業所向けの業務継続計画(BCP)のひな形が公開されています。自然災害編と新型コロナウイルス感染症編の2種類があり、それぞれについて、入所系・通所系・訪問系の3種類があります。
福祉施設を運営する介護事業者はBCP作成が義務化されています。期限である2024年3月31日までに作成が必要です。
さまざまな地方公共団体から、自然災害・感染症・業種別などのひな形が公開されています。一例として、東京商工会議所では、事例が豊富な作成ガイド、様式集が公開されています。
BCPマニュアルを作成する手順は、次のとおりです。作成にあたっては、ガイドラインや解説などを参照すると、理解しやくなります。
BCPマニュアルの作成手順
BCPマニュアルには統一的な様式はありませんが、ガイドラインを参考に、自社にあわせて作成できます。
また、多くの企業がBCPマニュアルを公開しているため、参考にしてみましょう。
製造業や販売業向けなど、業種別のBCPマニュアル作成例が公開されているため、参考にします。
ただし、自社の立地や業務の内容に応じて、自社に合った内容に変更することが大切です。
災害指定病院については、BCP作成が既に義務化されました。
病院などの医療機関では、いかに被害をおさえ、いかに早く復旧させるかに加えて、最も必要とされる医療行為をどのように維持、再開していくかの観点も重要です。
福祉施設を運営する介護事業者についてはBCP作成が義務化され、2024年3月31日までには作成が必要です。
福祉施設については、コロナウイルスなどの感染症や自然災害から利用者と従業員を守りつつ、災害発生時においても必要なサービスを、安定的かつ継続的に提供することが必要です。このため、BCPの作成だけでなく、従業員への研修や訓練なども義務づけられています。
BCP対策とは、防災の観点だけではなく、従業員と自社の資産を守るための、さまざまなリスクをおさえる経営活動です。
BCP対策により、さまざまなリスクから会社を守り、災害時に、迅速に、重要な事業から優先的に復旧させることは、自社の事業の継続と取引先からの評価にもつながります。
また、BCPは最初から大規模に作成する必要はありません。まずは新型コロナウイルス感染症対策をはじめ、災害の種類に限定したBCP計画から作成することも可能であり、業種ごとのひな形も公開されています。他社の作成事例を参考に、今一度、自社の業務を見直してみましょう。
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