コロナ禍で多くの企業が苦境に立たされるなか、2021年度の経済政策の目玉としてスタートした「事業再構築補助金」。
総予算1兆1,485億円、中小企業でも最大6,000万円もの補助金を受け取れるという、過去に類を見ない規模の補助金事業として注目を集めています。
今回は事業再生構築補助金の公募概要や指針、申請要件、ポイントなどについて詳しく解説します。
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目次
事業再構築補助金(中小企業等事業再構築促進事業)とは、コロナ禍による経済状況の変化に対応するために中小企業の事業再構築を支援し、日本経済の行動転換を促すことを目的に交付される補助金です。
予算額として2022年度予算は6,123億円に対して、2023年度は5,800億円となっております。「新分野展開」「事業転換」「業種転換」「業態転換」または「事業再編」という思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援する目的で設立された制度です。
「事業再構築補助金」の公募は、2023年度中に計3回おこなわれる予定です。
第1回公募 (公募終了) |
2022年10月3日:開始 2023年1月13日:締め切り |
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第2回公募 (公募受付中) |
2023年2月15日:開始 2023年3月24日:締め切り |
第3回公募 (公募開始予定) |
2023年3月下旬頃:開始予定 |
事業再構築補助金の申請にはかなりの準備期間が必要です。スムーズに申請を終えられるように、以下の準備を進めておきましょう。
「事業再構築補助金」の対象は、新型コロナウイルス感染症の影響で深刻な経営状況にある中小企業・中堅企業・個人事業主(フリーランス)・企業組合です。申請には、新分野展開や業態転換、事業・業種転換といった「思い切った事業再構築」に意欲を持ち、かつ以下の要件をすべて満たす必要があります。
申請前直近6カ月間のうち、任意の3カ月の合計売上高が、コロナ以前の同3カ月の合計売上額と比較して10%以上減少している中小企業等であること。
国が示す事業再構築指針1に沿った新分野展開、業態転換、事業・業種転換をおこなうこと。
本補助金事業に申請するためには「事業再構築」=「新分野展開」「事業転換」「業種転換」「業態転換」または「事業再編」の5つのうち、いずれかの類型に該当する事業計画を認定支援機関とともに策定することが必要となる。
事業計画は補助事業終了後3~5年で付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)の年率平均3.0%(グローバルV字回復枠は5.0%)以上増加、または従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%(同上5.0%)以上増加の達成が見込まれるものであること。
1事業再構築指針とは、事業再構築補助金の支援の対象を明確化するため「事業再構築」の定義等について説明するもので、経済産業省のホームページで確認できます。
2認定経営革新等支援機関(通称:認定支援機関)とは、中小企業を支援できる機関として、経済産業大臣が認定した機関のこと。全国で3万以上の金融機関、支援団体、税理士、中小企業診断士等が認定を受けており、中小企業庁のホームページで確認できます。
事業再構築補助金の申請時には、以上のすべての要件を満たしていることを示す事業計画書や各種書類を提出し、審査員による審査を経て、事業計画が認められれば、予算内で補助金額が決定、交付されます。
「事業再構築補助金」の対象の具体的な活用イメージについては、以下をご確認ください。
業種 | 業態 |
飲食業 | ・喫茶店経営 ・居酒屋経営 ・レストラン経営 ・弁当販売 |
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小売業 | ・衣服販売業 ・ガソリン販売 |
サービス業 | ・ヨガ教室 ・高齢者向けデイサービス |
製造業 | ・半導体製造装置部品製造 ・航空部品製造 ・ロボット関連部品製造 ・医療機器部品の製造 ・伝統工芸製造 |
運輸業 | ・タクシー事業 |
食品製造業 | ・和菓子製造、販売 |
建設業 | ・土木製造、造園 |
情報処理業 | ・画像処理サービス |
事業再構築補助金は、ものづくり補助金※との併用は可能ですが、事業再構築補助金と内容が異なる別の事業でなければ補助金を受けることはできません。
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
他にも補助金を受ける際に注意する点がありますので、詳しくは上記Webサイトにてご確認ください。
事業再構築補助金は、事業の再構築にかかる費用のすべてが補助対象というわけではありません。原則として補助対象の経費は、
が大前提です。
また、広告宣伝費や販促費など事業資産性が低い一過性の経費は、対象外ではないものの、それらが補助対象経費の大半を占める場合は、本補助金事業の対象とされないことにも注意が必要です。
経費 | |
補助対象経費 ① | ・建物費(建物の建築・改修、建物の撤去、賃貸物件等の原状回復) |
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補助対象経費 ② | ・機械装置・システム構築費(設備、専用ソフトの購入やリース等) ・クラウドサービス利用費、運搬費 |
補助対象経費 ③ | ・技術導入費(知的財産権導入に要する経費)・知的財産権等関連経費 |
補助対象経費 ④ | ・外注費(製品開発に要する加工、設計等)・専門家経費 応募申請時の事業計画の作成に要する経費は補助対象外 |
補助対象経費 ⑤ | ・広告宣伝費・販売促進費(広告作成、媒体掲載、展示会出展等) |
補助対象経費 ⑥ | ・研修費(教育訓練費、講座受講等) |
経費 | |
補助対象外経費 ① | ・補助対象企業の従業員の人件費、従業員の旅費 |
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補助対象外経費 ② | ・不動産、株式、公道を走る車両、汎用品(パソコン、スマートフォン、家具等)の購入費 |
補助対象外経費 ③ | ・フランチャイズ加盟料、販売する商品の原材料費、消耗品費、光熱水費、通信費 |
事業再構築補助金の審査に通れば、具体的にどのくらいの補助金がもらえるのでしょうか?
事業再構築補助金では、申請者の事業規模や応募枠ごとに次のように補助金の金額の範囲が定められており、申請時に提出した事業計画に応じた補助金が交付されることになっています。
企業規模 | 補助額 | 補助率 | |
中小企業 | 通常枠 | 100万円~6,000万円 | 2/3 |
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卒業枠 | 6,000万円超~1億円 | 2/3 | |
中堅企業 | 通常枠 | 100万円~8,000万円 | 1/2(4,000万超は1/3) |
グローバルV字回復枠 | 8,000万円~1億円 | 1/2 |
卒業枠:400社限定。中小企業者等から中堅・大企業等へ成長する事業者向けの特別枠
グローバルV字回復枠:100社限定。大きな成長を目指す中堅企業向けの特別枠
ここでいう「中小企業」は、中小企業基本法第2条が定める事業者のことを指し、いわゆる「個人事業主」もこれに含まれます。一方、中堅企業は資本金が10億円未満の会社を指します。
なお、収益事業をおこなう一般社団法人や一般財団法人、NPOも本補助金制度の対象に含まれますが、大企業の子会社などのいわゆる「みなし大企業」は対象外です。
【参考】:
製造業(その他) | 資本金3億円以下の会社または従業員数300人以下の会社及び個人 |
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卸売業 | 資本金1億円以下の会社または従業員数100人以下の会社及び個人資本金1億円以下の会社または従業員数100人以下の会社及び個人 |
小売業 | 資本金5千万円以下の会社または従業員数50人以下の会社及び個人 |
サービス業 | 資本金5千万円以下の会社または従業員数100人以下の会社及び個人 |
事業再構築補助金は原則として後払い、つまり事業者による支出を確認した後に支払われます。設備の購入などをおこなう補助事業期間は12カ月~14カ月です。なお、補助事業期間終了後5年間は、国によるフォローアップがおこなわれ経営状況や設備の管理状況などについて年次報告が求められます。
補助金は原則として返還は不要ですが、万が一、補助金の使途に関する不正行為が認められた場合は補助金返還事由となり、法令に基づく罰則が適用される可能性もあります。
「通常枠」の申請要件を満たし、かつ、2021年の国による緊急事態宣言に伴う飲食店の時短営業や外出自粛などの影響で、2021年1月~3月のいずれかの月の売上が対前年または前々年比で30%以上減少している場合は「緊急事態宣言特別枠」の対象となります。
補助率が中小企業は2/3⇒3/4に、中堅企業は1/2⇒2/3に引き上げられます。ただし、緊急宣言特別枠で申請をしてしまうと、以下の通り、従業員数に応じて補助金の上限額が制限されることに注意が必要です。
従業員数 | 補助額 |
5人以下 | 100万円~500万円 |
6~20人 | 100万円~1,000万円 |
21人以上 | 100万円~1,500万円 |
たとえば、従業員が20人で総額1,200万円の事業計画を申請した場合、自己負担額と補助額は、それぞれ以下のようになり、通常枠よりも特別枠で申請したほうが、自己負担額を低く抑えることができます。
一方、従業員が5人で総額900万円の事業計画を申請した場合の自己負担額と補助金額は次の通り、特別枠で申請した場合の方が、自己負担額が高くなってしまいます。
「事業再構築補助金」の審査は、事業計画をもとにおこなわれます。前述のとおり、事業計画は必ず国の定める「認定経営革新等支援機関」(認定支援機関)とともに策定することとされていますが、具体的にどのような事業計画を策定すれば、審査に通りやすいのでしょうか?
まず、理解しておきたいのが、本補助金事業の趣旨は「新規事業創出の支援」ではなく、あくまでも事業の「再構築の支援」であることです。つまり審査で採択されるためには、現在手掛けている事業で培ったノウハウや技術、自社の既存の強みを活かせる事業計画であることが大前提です。
まったくのゼロからのスタートが必要な事業計画の場合、新市場で勝ち残っていける理由の説明ができないと採択される可能性が低くなります。
事業計画 | |
作成のポイント① | ・現在の企業の事業、強み・弱み、機会・脅威、事業環境、事業再構築の必要性 |
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作成のポイント② | ・事業再構築の具体的内容(提供する製品・サービス、導入する設備、工事等) |
作成のポイント③ | ・事業再構築の市場の状況、自社の優位性、価格設定、課題やリスクとその解決法 |
作成のポイント④ | ・実施体制、スケジュール、資金調達計画、収益計画(付加価値増加を含む) |
なお、具体的な審査項目は事業実施体制・財務の妥当性、市場ニーズの検証、課題解決の妥当性、費用対効果、再構築の必要性、イノベーションへの貢献、経済成長への貢献などで、公募要領で確認することができます。
では、実際にはどのような事業計画が事業の再構築として認められ、補助金交付対象事業として採択されやすいのでしょうか。
先にも述べた通り、本補助金事業の対象となるのは、経済産業省の「事業再構築指針」の中で示されている「新分野展開」「事業転換」「業種転換」「業態転換」または「事業再編」の5つのうち、いずれかの類型に当てはまる事業計画です。それぞれの具体例を、事業再構築指針の中から抜粋して紹介します。
主たる業種や事業を変更することなく、新たな製品やサービスを創り出し、新たな市場に進出する事業であること。
都心部の駅前にビジネス客向けのウィークリーマンションを営業していたが、出張客が激減して稼働率が低下したため、リモートワークの普及を見込んで、客室の一部をテレワークスペースや小会議室に改装するとともにオフィス機器を導入し、3年間の事業計画期間終了時点で、当該レンタルオフィス業の売上高が総売上高の10%以上となる計画を策定。
新たな製品やサービスを創り出すことにより、主たる業種を変更することなく、主たる事業を変更すること。
日本料理店が、換気の徹底をすることからコロナの感染リスクが低いとされ、足元業績が好調な焼肉店を新たに開業し、3年間の事業計画期間終了時点において、焼肉事業の売上高構成比が、標準産業分類の細分類ベースで最も高い事業となる計画を策定。
新たな製品やサービスを創り出すことにより、主な業種を変更する事業計画であること。
レンタカー事業を営む事業者が、新たにコロナ対策に配慮したファミリー向け貸切ペンションを経営し、レンタカー事業と組み合わせた宿泊プランを提供することで、3年間の事業計画期間終了時点において、貸切ペンション経営を含む業種の売上高構成比が最も高くなる計画を策定。
製品の製造方法や、サービスの提供方法を変更する事業計画であること。
店舗でのヨガ教室を経営していたが、コロナの影響で顧客が激減したため、売上げが低迷。サービスの提供方法を変更すべく、店舗を縮小し、オンライン教室を新たに開始。オンライン教室の売上高が、3年間の事業計画期間終了後、総売上高の10%以上を占める計画を策定。
会社法上の組織再編行為(合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡)等をおこない、新たな事業形態のもとに、新分野展開、事業転換、業種転換又は業態転換のいずれかをおこなうこと。
逆に、次のような事業計画は、原則として採択されない(採択されにくい)と考えたほうが良いでしょう。
事業計画 | |
対象外① | ・そもそも対象事業ではない事業に関する計画 (不動産賃貸業、太陽光発電事業など) |
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対象外② | ・売り上げ増加が見込めない事業に関する計画 (売り上げ増加につながらない設備投資など) |
対象外③ | ・具体的な事業内容や資金調達が未決定な事業計画 (取り組み内容が明確でない、自己負担金が確保できていない場合など) |
対象外④ | ・申請スケジュールに間に合わない事業計画 (補助事業期間である12カ月~14カ月の間に事業完了できない取り組みなど) |
申請要件を満たしておらず、不採択となる可能性が高い理由
採択されにくい理由
「事業再構築補助金」の申請には事業計画書のほかに、主に次のような書類を提出する必要があります。
必要書類① | ・事業計画書 |
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必要書類② | ・認定経営革新等支援機関・金融機関による確認書 |
必要書類③ | ・コロナ以前に比べて売上高が減ったことを示す書類(確定申告の控えなど) |
必要書類④ | ・決算書等 |
必要書類⑤ | ・経済産業省ミラサポ plus「電子申請サポート」により作成した事業財務情報 |
必要書類⑥ | ・労働者名簿など |
詳しくは公募要領のP30~31で確認できます。事業計画書の作成に加え、必要書類を整えるには、かなりの手間と時間がかかるため、事業再構築補助金の申請は、思いついたらすぐにできる類のものではありません。公募申請の少なくとも2カ月、できれば3カ前には準備に着手しておきたいものです。
なお、事業計画の策定は金融機関やコンサルティング業者などの認定支援機関とともにおこなうことができ、専門業者に申請手続きのサポートを依頼することもできますが、申請そのものの代行は認められておらず、事業者自身がおこなう必要があることにも留意してください。
事業再構築補助金の受付や申込みに関しての相談窓口やお問い合わせ先は、以下のとおりです。
<事業再構築補助金事務局コールセンター(経済産業省)>
受付時間: 9:00~18:00(日曜・祝日を除く)
電話番号:<ナビダイヤル>0570-012-088
<IP電話用> 03-4216-4080
<事業再構築補助金事務局システムサポートセンター(経済産業省)>
受付時間:9:00~18:00(土日祝日を除く)
電話番号:050-8881-6942
https://mm-enquete-cnt.meti.go.jp/form/pub/keieisien02/saikouchiku
また「事業再構築補助金」の申請時に問い合わせが多い質問事項について、中小企業庁がWebサイトで公表しています。
かつてない予算規模で手厚い補助が受けられる「事業再構築補助金」。その分、事業計画に求められるレベル(難易度)も高く、軽い気持ちでは採択を勝ち取ることはできません。
「補助金をもらえたら、あんな事業をやってみたい」という発想ではなく、「あの事業をやるために、ぜひ補助金を獲得したい」という能動的な姿勢で申請に取り組むことが大切です。
本業が忙しく申請にかかる事務手続きに労力や時間を割けない場合は、外部の専門業者のサポートを上手に活用し、申請受付期間中に確実に申請手続きを終えられるよう、準備を進めておきましょう。