夏が近づくにつれ必ず話題にあがる熱中症は、高齢者や子どもはもちろん、働く人にとっても深刻な課題となっています。
企業は、この熱中症から大切な従業員を守らなければなりません。
「安全配慮義務」に則って、企業がすべき熱中症予防対策や労災申請について解説していきます。
目次
安全配慮義務とは、従業員が安全で健康に働けるよう必要な配慮をする義務を企業に課すことを指します。
労働契約法第5条においては「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と記されています。この義務を怠った場合、労働契約法には罰則はありませんが、民法上の損害賠償責任を問われることがあるため注意が必要です。
安全配慮義務を果たすため、常時50人以上の従業員を使用する事業場では、衛生管理者免許など一定の資格を有する者のうちから、下表の従業員数に応じて衛生管理者を選任しなければなりません。同一企業内であっても、支店や支社、店舗ごとに1単位としてカウントします。
事業場の規模(従業員の数) | 衛生管理者の数 |
---|---|
50人以上~200人以下 | 1人 |
201人以上~500人以下 | 2人 |
501人以上~1000人以下 | 3人 |
1001人以上~2000人以下 | 4人 |
2001人以上~3000人以下 | 5人 |
3001人以上 | 6人 |
衛生管理者は、作業環境の管理や従業員の健康管理、労働衛生教育の実施、健康保持増進措置などを行います。
具体的には、少なくとも週に一度作業場を巡視し、設備や作業方法、衛生状態に有害のおそれがないかチェックします。万が一問題が生じたときは、直ちに従業員の健康障害を防止するために必要な措置を講じなければなりません。
また、衛生管理者には2種類あり、第一種衛生管理者免許を有する者は、すべての業種の事業場において衛生管理者となることができます。第二種衛生管理者免許を有する者は、有害業務と関連の少ない情報通信業、金融・保険業、卸売・小売業など一定の業種の事業場においてのみ、衛生管理者となることができます。
熱中症とは、高温多湿な環境下で体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温調節機能がうまく働かなくなったりすることで、めまいや頭痛、吐き気、倦怠感、けいれん、高体温など、さまざまな症状を起こす障害の総称です。
厚生労働省の発表によると、職場における熱中症による死亡者数は毎年10人以上出ており、4日以上休業した人は400人を超えていることがわかりました。
【出典】職場における熱中症による死傷災害の発生状況–厚生労働省
熱中症の症状と重症度分類は、「重症度Ⅰ度」、「重症度Ⅱ度」、「重症度Ⅲ度」の大きく3つに分けることができます。
【出典】熱中症環境保健マニュアル – 環境省熱中症予防情報サイト
熱中症の重症度 | 必要な対応 |
---|---|
I度 | 直ちに涼しい場所へ映して身体を冷やす 改善しない、もしくは悪化した場合は病院へ搬送 |
II度 | 自分で水分を取れない場合は病院へ搬送 |
III度 | 病院へ搬送 |
熱中症の判断が遅れると、最悪の場合死に至る危険性があります。
実際に体育活動中や高齢者の入浴中、工事現場での事故はあとを絶ちません。
工事現場や運動場、体育館、一般の家庭の風呂場、気密性の高いビルやマンションの最上階などは熱中症のリスクが高まります。
また、脱水状態にある人や高齢者、肥満の人、過度の衣服を着ている人、普段から運動をしていない人、暑さに慣れていない人、病気の人、体調の悪い人は熱中症になりやすいため十分注意してください。
【出典】熱中症環境保健マニュアル – 環境省熱中症予防情報サイト
厚生労働省の「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」によると、熱中症予防対策について4月を「準備期間」、5~9月を「実施期間」とし、暑さの厳しい7月は「重点取組期間」に設定されています。春先であっても、暑い日の日中は夏と変わらない気温になることがあります。
下記のチェック項目を参考に、「湿度」「日射・ふくしゃ熱などの周辺熱環境」「気温」の3つを取り入れた「暑さ指数(WBGT値)」を下げるための対策をしっかり取りましょう。
勤務中に従業員に熱中症の疑いがあるときは、すぐに涼しいところで休ませて、衣服を緩めるなどして風通しを良くし、身体を冷やして水分補給をさせます。ただし、自力で涼しいところに退避できないほど容態が悪化しているときは、できるだけ早く医療機関に受診させましょう。
従業員の熱中症を予防するためには、以下の対策を行いましょう。
ちょっとしたコミュニケーションや注意喚起を実施するだけで、熱中症に対する意識改革が可能です。
従業員の安全を確保するためには、作業場所に合わせた対策が必要です。
熱中症を回避するためには、従業員に対する健康管理を徹底する必要があります。
一般的な疾病と同じように、業務中や通勤中の熱中症も「労働災害・通勤災害」の対象となる場合があります。
労働基準法の省令である労働基準法施行規則・別表第1の2第2号には「物理的因子による疾病」に「暑熱な場所における業務による熱中症」と記されています。
「暑熱な場所」と認められるには、職場が生活環境よりも暑かった、あるいは身体負荷が高かったため、熱中症になりやすかったと推定されることが要件になります。
【参考】労働災害としての熱中症
企業の安全配慮義務に違反がなくても、従業員が業務中に熱中症になれば労災認定がなされます。
熱中症の認定要件はおおむね次のとおりです。
一般的認定要件
医学的診断要件
また、夏季における屋外労働者の熱中症が業務上疾病に該当するか否かについては、 「作業環境、労働時間、作業内容、本人の身体の状況および被服の状況その他作業場の 温湿度等の総合的判断により決定されるべきものである。」との通達があります。(昭 26.11.17 基災収第 3196 号)
業務とは関係なく、従業員側の個別的な要因(寝不足など)により熱中症になった場合は労災認定されません。
労働災害によって熱中症を患った場合は、労働基準監督署に備え付けてある請求書を提出し、労働基準監督署において必要な調査を行うことで、保険給付が受けられます。
労災申請の手続きは、熱中症になった本人やその家族が行うことができますが、企業が従業員に代わって申請手続きを進めるのが一般的です。
「労災病院」や「労災指定医療機関」を利用する場合、無料で治療を受けることができます。
ただし、緊急性のある場合は治療を優先する必要があります。
指定病院以外を利用する場合、従業員が治療費を立て替えます。
あとから請求することで治療費は全額支給されますが、一時的に自己負担しなければならない点がデメリットです。
申請に使用する書類は給付の種類によって異なります。
厚生労働省のホームページにて確認のうえ、記入してください。
指定医療機関の場合は治療を行った病院へ、指定医療機関以外の場合は労働基準監督署へ提出します。
ソビア社会保険労務士事務所の創業者兼顧問。税理士事務所勤務時代に社労士事務所を立ち上げ、人事労務設計の改善サポートに取り組む。開業4年で顧問先300社以上、売上2億円超達成。近年では企業の人を軸とした経営改善や働き方改革に取り組んでいる。
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