この記事でわかること
- 在職定時改定での変更点
- 在職老齢年金制度(低在老)の報酬額と年金額について
- 65歳以上の従業員を雇用する際の企業が心掛けるポイント
この記事でわかること
労働人口の減少と高齢化により、高齢労働者の継続機会の確保が、今後の経済基盤を支えるために必要とされています。
高齢労働者の継続雇用を促進するため、2020年5月に成立した「年金制度改正法」では、新たに「在職定時改定」が創設されました。
高齢労働者の長期的な労働意欲にかかわる「在職定時改定」について解説します。
在職定時改定とは、65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者について、毎年10月に、年金額を改定し、それまでに収めた保険料が、年金額に反映される制度です。
2022年4月より適用されます。
改定前は、在職老齢年金の「退職改定」制度により、働きながら年金を受給する労働者が、会社を退職したときに年金額が改定されていましたが、在職定時改定により、早期に年金額の改定がおこなわれ、在職中に受けられる年金額の増加が見込まれます。
主な変更点 | |
変更前 | 変更後 |
---|---|
65歳以降の被保険者期間は資格喪失時(退職時・70歳到達時)にのみ年金額が改定 | 在職中であっても年金額を毎年10月分から改定 |
毎年9月1日の基準日において、厚生年金に加入している場合、前月8月までの加入実績に応じて、10月から年金額が決定し、改定された10月分の年金額は12月に支給されます。
具体的な年金増加額について、標準報酬月額が20万円で1年間就労した場合、月に約1,100円、年間約13,000円の増加が見込まれるとされています。
在職定時改定と同じく2022年4月から改定される、「在職老齢年金制度の見直し」では、60歳〜64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度(低在老)について、年金の支給が停止される基準が緩和され、現行の報酬と年金月額の合計額28万円から47万円に変更されました。
なお、65歳以上の在職老齢年金(高在老)については、現行の基準47万円で、変更はありません。
在職定時改定は、「長期化する高齢期の経済基盤の充実」を図るために定められた法律のひとつです。
企業は、在職定時改定導入に向けて、より一層65歳以上の従業員への対応に注意しなければなりません。
高年齢者雇用安定法改定により、70歳までの就業機会の確保が努力義務となり、企業は、65歳以上の従業員が70歳まで就業継続できるよう、モチベーションの確保につながるような制度の導入や賃上げなどを検討する必要があります。
また、在職老齢年金の支給限度額(47万円)を越えないように、労働条件の見直しを要求されることもあるかもしれません。
そのような場合に備えて、雇用契約の変更などについては、あらかじめ規則や契約書などで明記しておくようにしましょう。
65歳以上の従業員への配慮
在職定時改定は、従業員が高齢となっても働き続ける意欲を保持するための施策のひとつです。
企業は、従業員の意欲を損なわないよう、働き続けやすい職場環境づくりに努める必要があります。
また、新制度導入にともない、雇用契約変更を求められるなど、従業員とのトラブルが起きやすくもなるため、そのような場合に備え、適切に対応できるように準備しておきましょう。
1984年生まれ。社会保険労務士。
都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談(病院側・労働者側双方)や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名以上。独立後は年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。
詳しいプロフィールはこちら