この記事でわかること・結論
- 確定拠出年金法改正で加入可能年齢拡大やiDeCo加入条件緩和が実施された
- 改正により受給開始時期の上限延長や企業型DC加入者のiDeCo加入条件緩和などが導入
- 事業主には新制度への対応や従業員からの問い合わせ増加への準備が必要
この記事でわかること・結論
2020年5月に成立した改正確定拠出年金法により、2022年4月から確定拠出年金制度が改正されました。
長期化が予想される高齢労働者の割合増加に備え、今回の改正では、「加入可能年齢の拡大」や「企業型確定拠出年金加入者のiDeCoへの加入条件の緩和」、「受給開始時期の上限の延長」など、高齢者の年金制度の加入範囲と受給開始時期の拡大に焦点があてられています。
新しい確定拠出年金法について解説します。
目次
確定拠出年金法の法改正は、現代の日本が抱える「少子高齢化」に対応すべく、より多くの高齢者が長期にわたって働き続けられるような社会を目指し、法の見直しおよび改正がなされました。
確定拠出年金(DC)は、加入者が自ら掛金を運用し、拠出された掛金と運用収益との合計額をもとに、将来受け取れる給付額が決定される年金制度です。
事業主が、従業員の掛金を拠出し運用する確定拠出年金を企業型確定拠出年金(企業型DC)といい、従業員の給与から毎月定額の掛金を拠出し、積立運用することが一般的です。
日本の高齢化社会にともない、さらなる高齢者の就労機会の拡大が必要とされる中、より多くの人が長期的に働ける社会の実現に向けて、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」など、さまざまな法改正がおこなわれており、確定拠出年金の法改正はそのうちのひとつの施策です。
2020年6月に公布された「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」では、「確定拠出年金の加入要件の見直し等」が発表され、2022年4月より順次施行されます。
2022年5月より、企業型確定拠出年金と、iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入可能年齢がそれぞれ拡大します。
改正前の企業型確定拠出年金の加入可能年齢は、厚生年金被保険者のうち、原則60歳未満(特別な規定の場合65歳未満)とされていましたが、改正により70歳未満まで加入できるようになりました。ただし、規約により加入可能年齢は異なります。
また、企業型確定拠出年金の継続加入の要件として、「同一事業所で継続して使用される者」とされていましたが、改正によりこの要件は撤廃されます。
企業型確定拠出年金の加入可能年齢の変更点 | |
変更前 | 変更後 |
---|---|
厚生年金被保険者のうち、60歳未満(特別な規定の場合65歳未満) | 厚生年金被保険者のうち、70歳未満 |
改正前のiDeCoの加入可能年齢は、国民年金被保険者のうち、60歳未満とされていましたが、改正により、65歳未満まで加入できるようになりました。
また、国民年金に任意加入している人であれば65歳までiDeCoに加入できることとなります。
iDeCoの加入可能年齢の変更点 | |
変更前 | 変更後 |
---|---|
国民年金被保険者のうち、60歳未満 | 国民年金被保険者のうち、65歳未満 |
企業型確定拠出年金およびiDeCoについて、改正前は、60歳から70歳の間で各個人において受給開始時期を選択できるとされていましたが、2022年4月より、年金の受給開始時期の条件が75歳まで延長され、60歳から75歳までの間で自由に選択できるようになりました。
受給開始時期上限の変更点 | |
変更前 | 変更後 |
---|---|
60歳から70歳までの間 | 60歳から75歳までの間 |
改正前、企業型確定拠出年金の加入者がiDeCoへの加入が認められる場合は、iDeCoの加入を認める労使合意に基づく規約の定めがあり、かつ事業主掛金の上限を月額5.5万円から3.5万円に引き下げた企業の従業員に限られていました。そのため、ほとんどの企業で活用されていない状況でしたが、2022年10月より、規約の定めや事業主掛金の上限の引下げがなくても、全体の拠出限度額から事業主掛金を控除した残余の範囲内で、iDeCo(月額2.0万円以内)に加入できることとなります。ただし、掛金の拠出には一定のルールがあるため、どちらも上限いっぱいまで拠出できるわけではありません。
中小企業における企業年金の実施率を向上させるために、設立手続を簡素化した「簡易型DC」や、企業年金の実施が困難な中小企業がiDeCoに加入する従業員の掛金に追加で事業主掛金を拠出することができる「中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)」について、実施可能な従業員規模が、現行の100人以下から300人以下に拡大されることとなりました。(公布日(2020年6月5日)から6カ月を超えない範囲で、政令で定める日より施行)
制度をパッケージ化することにより、「導入時に必要な書類の簡素化」や「規約変更時の承認事項の一部を届出事項に簡素化」など、複雑な手続きが簡素化されます。
確定拠出年金法改定のポイント
年金制度の法改正により、事業主は、随時必要な手続きや管理が増えることが予想され、従業員からも新しい年金制度について問合せが増えるかもしれません。
特に、高齢社員を雇う事業主は、手続きや確認が必要となりそうな社員についてリストアップしておくなど、後から「聞いていない」、「知らなかった」などの問題が起こり、複雑な事態にならないよう、備えておくとよいでしょう。
年金制度法改正では、確定拠出年金制度をはじめ、さまざまな制度が見直されています。
法改正に沿った社内整備を整え、従業員が長期的に働き続けられる職場環境づくりを目指しましょう。
1984年生まれ。社会保険労務士。
都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談(病院側・労働者側双方)や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名以上。独立後は年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。
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