休業補償請求に必要な要件
- 労働者が業務上の事由による負傷または疾病によって療養していること
- その療養のために労働ができないこと
- 労働することができないために、賃金を受けていないこと
業務上の怪我や病気で会社に出勤できなくなった場合、労働者災害補償保険法(以下:労災保険)の休業補償を受けることができます。
この記事では、労災保険が適用されるとどんな補償が受けられるか、また給付額はいくら受け取れるのか、支給要件と具体的な手続きを解説します。
目次
労災保険(労働者災害補償保険)とは、雇用している労働者が業務中や通勤途中に起きた事故が原因でケガや疾病、また障害が残ったり、死亡した場合に保険給付をおこなう労働保険のひとつです。
治療にかかる費用や治療による休業期間中の補償、遺族への補償などをおこないます。
労働保険とは、労災保険と雇用保険の総称です。
労災保険の休業補償とは、業務上または通勤時が原因となった負傷または疾病により、休業せざるを得ない状況になってしまった場合、休業中の所得を補償するための給付です。休業補償を請求するためには、以下3つの要件を満たす必要があります。
休業補償請求に必要な要件
この3つの要件を満たしている場合、休業期間の4日目から休業補償、および休業特別支給金が支給されます。なお、休業の初日から第3日目までを「待期期間」といいます。
業務災害の場合、待期期間中は事業主(使用者)が労働基準法の規定に基づく休業補償(1日につき平均賃金の60%)をおこないます。一般的には、100%補償している企業が多いです。
休業補償の対象は、正社員・パート・アルバイトを含むすべての労働者です。派遣社員や請負契約で働く労働者(直接契約がない)は休業補償の対象外となります。その他にも以下の労災保険での給付が存在します。
労働者災害補償保険法が改正され、令和2年9月1日より施行されました。複数の会社等で雇用されている労働者の方々への労災保険給付が変わります。改正法の施行日以降に、
が改正事項の対象です。休業をした場合の給付額がすべての勤務先の賃金額をもとに決まります。
【現行制度】
事故が起きた勤務先の賃金額のみを基礎に給付額等が決定
【改正後】
すべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に給付額が決定
すべての勤務先の負荷(労働時間やストレス等)が総合的に評価され、労災認定できるかどうかが判断されます。
【現行制度】
それぞれの勤務先ごとに負荷(労働時間やストレス等)を個別に評価して労災認定できるかどうかを判断
【改正後】
それぞれの勤務先ごとに負荷(労働時間やストレス等)を個別に評価して労災認定できない場合は、すべての勤務先の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して労災認定できるかどうかを判断
支給額は「給付基礎日額」と「休業日数」を基準として、算出されます。
給付基礎日額とは、平均賃金を指します。原則として事故が起きた日や、疾病が確定した日(医師の診断結果が出た日)の直前の3カ月間、労働者に対して支払われた賃金の総額を、日数によって割った金額が給付基礎日額となります。
基本的に残業手当もすべて含みますが、ボーナスや結婚手当のように、臨時的に発生した賃金は考慮されません。これを踏まえて、休業(補償)給付金、休業特別支給金の支給額は、以下のとおりに算出されます。
休業補償=給付基礎日額の60%×休業日数
休業特別支給金=給付基礎日額の20%×休業日数
休業期間であっても、今までの賃金の80%が支給されます。労働者にとって、休暇中の生活費用は大きな不安の種になるため、賃金の80%が給付金で賄われれば、安心して、治療に専念できます。
休業(補償)給付や休業特別支給金を受けるためには、労働者本人が労働基準監督署へ請求書を提出しなければなりません。また、事業主(使用者)も「労働者(社員)の怪我や疾病が労働中に起こった」という証明をおこない、後のトラブルにならないためにもきちんと対応しましょう。
労働災害が業務中におきた場合、「休業補償給付支給請求書」(様式第8号):PDFが必要です。通勤中におきた事故で負傷した場合は「休業給付支給請求書」(様式第16号の6):PDFが必要となります。
記入内容にはどちらも変わらず、給付金額に差があるわけではありません。また、休業が長期間になると予想される場合、1カ月ごとの提出が必要になりますので、その旨を従業員に伝えておきましょう。
「休業補償給付支給請求書(様式第8号)」と「休業給付支給請求書(様式第16号の6)」に記入すべき項目は次のとおりです。
平均賃金は、直近3カ月の賃金を記入する「平均賃金算定内訳」(休業補償給付支給請求書とセットになっている)を参照に記入してもらいます。
事業主(使用者)は、これらの記入された内容が正しいかどうかを確認し、事業所の名称や住所の記入、そして最後に事業主(使用者)の記名・押印をおこないます。
書類は事業所に常備しておくと迅速に対応できます。書類は労働基準監督署へ直接赴いて書類をもらう、または厚生労働省「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」からダウンロード・印刷した用紙を使用しましょう。
また、今回ご紹介した休業補償に関する詳細は、厚生労働省のホームページより「休業(補償)給付 傷病(補償)年金の請求手続」をご参考ください。
大切な従業員(社員)が不慮の事故による怪我や病気で出勤できなくなることは、会社としても損失につながります。労働者災害の被害や影響を最小限に抑えるためにも、受任者払い制度の活用と労災保険の加入がおすすめです。
受任者払い制度とは、従業員が労災保険から受け取る給付金を会社が従業員に立替払いをして、後日、支給される休業補償給付金などを自社の口座に振り込んでもらう制度です。
実際に従業員が休業補償給付金を受け取るまでは、労働基準監督署へ関連書類を提出してから約1カ月の時間を要します。そのため、休業補償給付金が支給されるまでは、従業員の預貯金で生計を立てなければなりません。
しかし会社が受任者払い制度を活用すれば、すぐ従業員にお金が振り込まれるため、従業員が安心して治療に専念できます。
家族がいる従業員にとってもうれしい制度でもあり、会社も従業員を安心させるメリットがあります。受任者払い制度を利用する場合は、管轄する労働基準監督署に問い合わせ、以下の書類を提出します。
1人でも雇用している労働者がいる事業所は労災保険の加入が義務付けられており、保険料の負担は全額事業所が担わなければなりません。また、労災保険の対象は、雇用形態(正社員・パート・アルバイト)に関わらず、すべての労働者が対象となります。
財政基盤がしっかりしていない中小企業にとっては、大きな出費となりますが、労働災害が発生した場合、会社(事業所)が負わなければなりません。しかし、労災保険に加入することで、補償責任を回避できるメリットがあります。そのため、1人以上の労働者がいる場合、必ず労災保険の加入手続きをおこないましょう。
また、労働災害が発生した場合、労働基準監督署への報告が義務付けられています。未報告や虚偽の報告は刑事責任の対象となり、業務上過失致死傷罪などの重い刑罰に問われる可能性があるので、注意しましょう。
万が一、労働者災害が起きてしまった場合は、適切に対応・処理しなければなりません。管轄する労働基準監督署への報告や、今回ご紹介した手続きをしっかりとおこないましょう。同時に労働者災害が起きないような職場の環境作りにも経営者としての責務です。
労働者災害に備えて、迅速に対応・処理できるように、準備・確認をしておきましょう。
大学卒業後、日本通運株式会社にて30年間勤続後、社会保険労務士として独立。えがお社労士オフィスおよび合同会社油原コンサルティングの代表。
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