この記事でわかること・結論
- 定年後再雇用制度とは、高齢の従業員が希望すれば定年後も65歳まで同じ企業で働くことができる制度
- 再雇用後の業務内容や給与などの労働条件についても法律の範囲内で企業が取り決めて良い
この記事でわかること・結論
定年後再雇用制度とは、定年を迎えた高齢者を同じ企業に引き続き雇用することができる制度です。65歳までの再雇用を企業は実施することが可能です。
また、高齢者の雇用については「高年齢者雇用安定法」という法律がたびたび改正されており、事業者に対するさまざまな措置や義務が定められています。
そこで本記事では、定年後再雇用制度と関連する法律や措置についての基礎知識や、導入時のメリット・注意点などを解説します。
目次
定年後再雇用制度とは、高齢の従業員が希望すれば定年後も65歳まで同じ企業で働くことができる制度のことです。
この制度は、2013年に改正された高年齢者雇用安定法にて新しく高年齢者雇用確保措置として企業への実施が義務付けられた3つの措置のうちのひとつです。
継続雇用制度には、事業主が、特殊関係事業主(当該事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある事業主その他の当該事業主と特殊の関係のある事業主として厚生労働省令で定める事業主をいう。以下この項及び第十条の二第一項において同じ。)との間で、当該事業主の雇用する高年齢者であつてその定年後に雇用されることを希望するものをその定年後に当該特殊関係事業主が引き続いて雇用することを約する契約を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の雇用を確保する制度が含まれるものとする。
もっと詳細に言えば、高年齢者雇用安定法で定められた以下3つの措置のうち「継続雇用制度」に定年後再雇用が含まれます。
高年齢者雇用安定法では、上記三つのなかから一つを企業が導入する義務が定められているため、おこなわない場合は法令違反となります。その際は指導や勧告、それでも改善されなければ企業名公表の罰則が科されることになっています。
改正高年齢者雇用安定法では、先ほど紹介した三つの措置のうち企業はどれか一つを必ず導入する必要があります。定年後再雇用制度および継続雇用制度は実際どのくらいの導入率なのでしょうか。
厚生労働省が調査した「令和5年 高年齢者雇用状況等報告」では、継続雇用制度を選択している企業は全国の常時雇用する労働者が21人以上の企業235,875社を対象としたうちの70.6%とのことです。
ほかの「定年制の廃止」や「定年の引上げ」などの措置と比べると、かなり多くの企業が継続雇用制度を導入したと言えます。
高年齢者雇用安定法は2021年にも改正されており、そこでこれまでの「高年齢者雇用確保措置」にくわえて「高年齢者就業確保措置」という制度が新しく定められました。
この高年齢者就業確保措置とは、定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主や65歳までの継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く。)を導入している場合は以下の措置を講ずる必要があるというものです。
これまでの高齢者雇用確保措置では65歳までの雇用機会に対する改正でありましたが、2021年の改正では70歳までの就業確保を目的として新たに上記が定められました。
「70歳定年法」「70歳就業法」とも呼ばれることがあり、この高年齢者就業確保措置については高年齢者雇用安定法第10条2項で定められています。
定年(六十五歳以上七十歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主又は継続雇用制度(高年齢者を七十歳以上まで引き続いて雇用する制度を除く。以下この項において同じ。)を導入している事業主は、その雇用する高年齢者(第九条第二項の契約に基づき、当該事業主と当該契約を締結した特殊関係事業主に現に雇用されている者を含み、厚生労働省令で定める者を除く。以下この条において同じ。)について、次に掲げる措置を講ずることにより、六十五歳から七十歳までの安定した雇用を確保するよう努めなければならない。
この高年齢者就業確保措置については、原則として実施は「企業の努力義務」としているため70歳までの定年年齢の引上げや雇用継続を義務付けるという意味ではありません。
定年後再雇用制度との違いは「対象年齢」「導入義務の有無」などがあります。高年齢者就業確保措置を導入する場合は、対象の高齢者従業員などと話し合いなどを設けて決めるのが理想です。
継続雇用制度のなかでも定年後再雇用制度を導入するメリットについて、企業側と従業員側のメリットをそれぞれ解説します。
まずは企業が定年後再雇用制度を導入すると得られるメリットを紹介します。
再雇用により、長年培った専門知識やスキル・ネットワークなどを引き続き活用できます。これは、個人にとっては自己実現の機会を提供します。企業にとっても熟練した人材を確保することができるというメリットがあります。
特に、若手従業員への知識伝承やメンタリングにより、企業の人材育成と業務の質の向上に寄与するでしょう。
多くの国で進行する労働力不足、特に熟練労働者不足は定年後再雇用によって緩和されます。
経験豊富な従業員を保持することで、企業は採用コストを削減して即戦力となる人材を確保することができます。また、定年者の再雇用は新しい世代の育成期間中の業務の継続性を保つのにも役立ちます。
定年後再雇用は、労働市場における柔軟性を高めます。従業員が自らのキャリアと生活の選択肢を広げることができるため仕事と私生活のバランスを取りやすくなります。
また、企業は定年後再雇用制度を導入することによって「柔軟性のある会社だという評価」にも繋がるでしょう。
続いて、定年後再雇用制度を導入することによる高齢者従業員のメリットを紹介します。
定年後に再雇用されることで、従業員は定年後も安定した収入を確保できます。これは、長い間のキャリアによる生活水準を維持し、退職後の金銭的な不安を軽減する上で重要です。
特に、退職金だけでは不十分な場合や長寿化による生活資金の必要期間が延びている現代において、収入源の維持は経済的な安心感を与えます。
定年後も仕事を続けることで、高齢者は社会的なつながりを保てるため精神的な満足感を得ることができます。
仕事は単なる収入源ではなく、社会とのつながりや自己実現、日々の生活にリズムをもたらす重要な要素です。定年後も働くことによって社会から孤立することなく、経済的にも精神的にも充実した生活を送ることができるでしょう。
次に定年後再雇用制度を導入する際の注意点について解説します。企業の担当者は、実際に導入する前に確認しておきましょう。
定年後再雇用制度を利用してまた働くといった際に、これまでのとおり正社員のまま働くことができるのか契約社員やパート・アルバイトなど雇用形態が変わるのか疑問に感じる従業員は多いです。
高齢者雇用安定法のなかには再雇用時の雇用形態について特に明記されていません。そのため、再雇用前の労働条件と同じでなくても問題がなく、雇用形態の変更が可能です。企業のなかには、パートアルバイト、契約社員で再雇用するというところもあるでしょう。
また、雇用形態同様に業務内容や給与などの労働条件についても法律の範囲内(最低賃金など)で企業が取り決めて良いことになっています。
実際に企業で定年後再雇用制度を導入する際は、再雇用後の雇用形態や業務内容などについてちゃんと決めて周知してあげると後々のトラブルになりにくいでしょう。
正社員が与えられている各種手当(通勤手当や住宅手当など)について、再雇用した従業員についても原則として支給が必要です。ただし場合によっては一部支給しないなどの選択をすることも可能です。
また、年次有給休暇など各種休暇についても原則としてこれまでとおりの勤続年数でカウントして付与します。これは再雇用制度が「引き続き雇用している」という位置付けであるためです。
しかし、再雇用後の所定労働日数が変動する場合はそれに応じた年次有給休暇の付与日数を適用することになります。また、年間10日付与する際に年5日は取得しなければならないという義務について再雇用者も適用となるため忘れずに伝えましょう。
実際に定年後再雇用制度を利用するときの流れを解説します。従業員・企業がともに確認して理解しておくことでスムーズに進められるでしょう。
定年後再雇用の流れ
注意点でも触れたとおり、企業はトラブル防止のため再雇用者についての取り決めをする必要があります。決めた内容は就業規則に追記して、労働基準監督署に必ず届け出を提出しましょう。
次に定年後再雇用制度を利用する予定の従業員に意思確認をします。定年を迎えた従業員がもし再雇用を望まない場合は、定年退職の流れになるため個別で通知をするなどして各従業員の意思を確認しておきましょう。
希望する従業員とは必ず面談などで再雇用後の労働条件についての確認をしておきましょう。原則として再雇用時は、雇用形態や給与など労使間での合意が必要です。
対象従業員が提示した内容での再雇用に納得するようであれば「定年退職」「退職金」そして「再雇用契約書」の手続きに進みます。このタイミングで社会保険や標準報酬月額なども確認しておきましょう。
再雇用後の所定労働時間・日数によっては雇用保険・健康保険・厚生年金保険・介護保険からは外れるケースもあります。労災保険は再雇用後も対象者のままです。
定年後再雇用制度は、定年後の従業員を65歳まで同一企業において再雇用できるという制度です。高年齢者雇用安定法が2013年に改正されたタイミングで企業は定年後再雇用制度を含む三つの措置から一つ導入する義務が与えられました。
また、同法律が2021年にも改正されており今度は70歳までの就業確保促進のために新たに「高年齢者就業確保措置」が設けられました。こちらは企業の努力義務となっています。
企業の担当者は定年後再雇用制度や就業確保措置との違いや、実際に導入した場合のメリットや注意点などをよく理解しながら検討することが大切です。本記事を参考にぜひ、自社の高齢者雇用について見直しをしてみてください。
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