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定年退職は何歳が妥当?退職日の決め方・手続き・退職金について解説

定年退職は何歳が妥当?退職日の決め方・手続き・退職金について解説

監修者:労務SEARCH 編集部
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この記事でわかること・結論

  • 定年退職の年齢は60歳以上に設定しなければならない
  • 定年退職者に支払う退職金の相場は従業員規模によって異なる
  • 定年退職の際も、通常の退職と同じ手続きが必要

定年退職の年齢を何歳に定めるべきか、いつを退職日とすればよいのかなど、定年退職の扱いについて悩む方は多いでしょう。60歳以上を定年年齢とすることが義務づけられており、できない場合は何らかの措置を講じる必要があります。本記事では、定年退職における定年年齢や退職日の決め方、手続き、退職金などについて詳しく解説します。

定年退職の定義

定年退職の定義

定年退職とは

定年退職とは、企業が就業規則で定める一定の年齢への到達を理由に退職することです。たとえば、60歳を定年とする企業の場合は、60歳で定年退職します。

定年退職を定めることは義務ではありませんが、加齢とともに体力が低下することで業務遂行が困難になるため、多くの企業では定年退職について規定しています。

注意点:定年退職の年齢は60歳以上

従業員の定年年齢は60歳以上に設定する必要があります。上限はありません。

定年退職のタイミング

定年退職のタイミングは、通常は定年年齢に到達した時点です。ただし、退職日は企業が任意で決めることができます。

一般的な定年退職のタイミング

  • 定年退職の年齢になった日(誕生日)
  • 定年退職の年齢になった日が属する月の末尾(例:10月10日が誕生日の場合は10月31日に退職)
  • 定年退職の年齢になった日が属する月の給与締日
  • 定年退職の年齢になった日が属する年の末日

給与計算や方針、わかりやすさなどを考慮して決定しましょう。ただし、従業員ごとに異なるタイミングを定めることはできません。定年退職の日については、企業と従業員で認識の従業員が定年退職のタイミングを理解できるようにする必要があります。

定年退職の導入は就業規則への記載が必須

定年退職の導入は就業規則への記載が必須

企業が定年退職を導入する際は、就業規則に明確に規定することが必須です。たとえば、以下のように記載します。

定年退職の就業規則への記載例

従業員の定年を満60歳とし、定年年齢に到達した日が属する年度の末日を退職日とする

記載方法に明確なルールはありませんが、誰が読んでも意味を理解できるようにわかりやすく記載しましょう。また、従業員は就業規則を一般的には読まないため、定年退職の年齢について質問があった際は速やかに回答することが大切です。

定年退職する従業員への退職金の支払いについて

退職金制度がある企業の場合、定年退職する従業員への退職金の支払いが必要です。ただし、退職金の支給に最低勤続年数を設けている場合は、支給が不要となる可能性があります。

退職金額の算定方法は勤続年数や退職理由、学歴などを考慮することが一般的で、企業が自由に決定できます。中小企業退職金共済事業本部によると、定年退職者に支払う退職金の相場は以下のとおりです。

定年退職者に支払う退職金の相場

  • 従業員数10人~49人:約980万円
  • 従業員数50人~99人:約1,140万円
  • 従業員数100人~299人:約1,300万円

定年年齢を65歳未満に定めるときに講じるべき措置

定年年齢を65歳未満に定めるときに講じるべき措置

定年年齢を65歳未満に定めている場合、65歳までの安定した雇用を実現するために、以下のいずれかの措置を講じる必要があります。

定年年齢を65歳未満に定める場合に必要な措置

  • 65歳までの定年の引き上げ
  • 65歳までの継続雇用制度の導入
  • 定年の廃止

それぞれ詳しく解説します。

65歳までの定年の引き上げ

企業が従業員の定年年齢を65歳未満に引き上げる際には、慎重な検討が必要です。業種や職種によっては高年齢を理由に業務品質の低下が懸念されます。だからといって合理的な理由なく給与を下げるような措置は不当とみなされるため、慎重な対応が必要です。

注意点:給与の引き下げはモチベーションの低下につながる

60~65歳は賃金制度を別で設けて人件費を削減することも一つの方法ですが、モチベーションの低下につながりかねません。

65歳までの継続雇用制度の導入

継続雇用制度とは

継続雇用制度とは、従業員が希望した際に定年後も雇用を継続する制度のことです。

制度の対象者は、以前は労使協定に基づいていましたが、高年齢者雇用安定法の改正により、平成25年度以降は希望者全員が対象となりました。つまり、この制度を作る以上は、希望者全員を継続雇用することを理解する必要があります。

定年の廃止

そもそも定年を廃止することで、定年年齢の制限やそれに関わる措置などが不要となります。定年の廃止により、労働契約の期限がなくなり、従業員は一定の年齢に到達しても雇用継続が可能となります。ただし、企業は従業員が希望する限り雇用を続けることになるため、能力不足やモチベーションの低下による勤務態度の問題など、さまざまなトラブルが懸念されます。

注意点:定年退職の廃止はリスクが高い

定年退職を廃止すると、企業は従業員が希望する限り継続的に雇用する必要があります。安易な解雇は不当解雇とみなされる恐れがあるため、定年退職の廃止は慎重に検討しましょう。

定年退職の手続き

定年退職の手続き

定年退職の際は、通常の退職と同じく以下のような手続きが必要です。

定年退職の手続き

  • 社会保険の資格喪失の手続き
  • 雇用保険の資格喪失の手続き
  • 住民税の手続き
  • 必要書類の交付
  • 会社関係書類の返還要求

それぞれ詳しく解説します。

社会保険の資格喪失の手続き

定年退職者の社会保険の資格喪失を届け出る必要があります。事業者が「健康保険・厚生年金 保険被保険者資格喪失届」を作成し、協会けんぽの場合は年金事務所、健康保険組合の場合は健康保険組合所定の窓口へ退職日の翌日(資格喪失日)から5日以内に提出します。

資格喪失届には、定年退職者から回収した健康保険被保険者証の添付が必要です。紛失した場合は「健康保険被保険者証減失届」、返却されない場合は「健康保険被保険者証回収不能届」を提出します。「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失確認通知書」が会社へ送付されたら適切に保管し、手続きは完了です。

健康保険の任意継続を希望した場合の対応

従業員に「健康保険任意継続被保険者資格取得届」を渡します。任意継続の要件は、退職日までに継続して2カ月以上の被保険者期間があり、なおかつ退職日の翌日から20日以内に申請することです。他にも、健康保険にまつわる選択肢があるため、あらかじめ定年退職者に確認しておきましょう。

雇用保険の資格喪失の手続き

事業者が「雇用保険被保険者資格喪失届」を作成し、管轄の公共職業安定所(ハローワーク)に提出することで、雇用保険の資格が喪失します。提出期限は、退職日の翌日から10日以内です。雇用保険を取得した際に発行された被保険者ごとの様式で届け出る必要がありますが、様式を紛失した場合は、共通の様式で手続きします。

また、59歳以上の退職においては、「雇用保険被保険者離職証明書(離職票)」の発行手続きも同時に必要です。これらの手続きが完了すると、以下の書類が交付されます。

交付される書類

  • 雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(事業主通知用): 会社が保管する
  • 雇用保険被保険者離職証明書(事業主控): 会社が保管する
  • 雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用): 定年退職者に渡す
  • 雇用保険被保険者離職票-1(本人用): 定年退職者に渡す
  • 雇用保険被保険者離職票-2(本人用): 定年退職者に渡す

住民税の手続き

定年退職時の住民税に関する手続きでは、「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を退職日の翌月の10日までに市区町村に提出します。

住民税の未徴収残額がある場合は、以下のいずれかの方法で徴収・納付する必要があります。

住民税の未徴収残額の納付方法

  • 普通徴収:退職者が市区町村に対して未徴収残額を支払う
  • 一括徴収:事業主が給与や退職金から未徴収税額を一括で徴収し、納付する

ただし、1月1日~4月30日に退職した場合は、一括徴収を選択します。

必要書類の交付

定年退職者には、さまざまな書類の交付に加え、署名・押印などの対応を求める必要があります。

定年退職者に渡す書類リスト

  • 雇用保険被保険者離職証明書(離職票
  • 雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用)
  • 源泉徴収票
  • 雇用保険被保険者離職票-1(本人用)
  • 雇用保険被保険者離職票-2(本人用)
  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失確認通知書(希望者のみ)
  • 退職証明書・在籍期間証明書(希望者のみ)

離職票には、定年退職者の退職理由をはじめとする情報が掲載されており、本人による確認が必要です。確認したことを証明する記名押印、または署名を依頼しましょう。

やむを得ない事情で対応が難しい場合は、その理由を明記のうえで事業者の押印もしくは署名をします。

会社関係書類の返還要求

定年退職者は、会社の重要情報へアクセスするためのキーやパスワードなどを所持している場合があります。情報漏えい防止の観点からも、会社関係書類の返還を求めることが重要です。

返還を求める必要があるもの

  • 健康保険被保険者証(扶養者のものを含む)
  • 社員証
  • 名刺(取引先のものを含む)
  • 社外秘の資料
  • 備品のPCやスマホ
  • 制服
  • ロッカーの鍵
  • 定期券

返還が必要なものは会社によって異なるため、チェックリストを作成して定年退職者に共有しましょう。

定年退職者は失業保険の給付を受けられるのか

定年退職者は失業保険の給付を受けられるのか

定年退職者は、条件を満たせば失業保険の給付を受けることができます。

定年退職者が失業保険の給付を受ける条件

  • 離職前の2年間にわたり雇用保険の被保険者期間が12カ月以上ある
  • 65歳未満
  • ハローワークに登録し、求職の手続きをおこなう
  • 積極的な就職意欲があり、即時に仕事ができる状態である
  • 現在、離職状態である
  • ハローワークに登録し、求職の手続きをおこなう
  • ハローワークに登録し、求職の手続きをおこなう

失業保険の1日あたりの金額を基本手当日額といい、離職前の賃金日額をもとに算出します。賃金日額は、離職前の6カ月に支払われた賃金(賞与を除く)の合計を180で割った金額です。基本手当日額は「賃金日額×給付率(1~80%)」で、給付率は賃金日額に応じて異なります。

また、失業保険の支給期間は離職前の被保険者期間や離職の理由、年齢によって変動します。

定年退職の年齢が段階的に引き上げられていることに注意

少子高齢化の影響により、定年年齢は段階的に引き上げられています。令和3年4月1日施行の法改正により、企業は65歳までの雇用確保が法的な義務となり、高齢者雇用の促進が求めらることになりました。

また、70歳までの就労確保が企業の努力義務とされています。このように、定年退職の年齢は段階的に引き上げられています。

定年年齢の引き上げについて

  • 企業は65歳までの雇用確保が法的な義務
  • 70歳までの就労機会の確保が努力義務
  • 今後も定年年齢が段階的に引き上げられる可能性がある

定年退職についてよくある質問

定年退職についてよくある質問

定年退職の規定は自由に変更できますか?
自由に変更できます。ただし、定年年齢は60歳以上でなければなりません。また、特定の定年退職者だけが不利になるような内容への変更は不可能です。労働問題に発展する恐れがあるため注意しましょう。
継続雇用する従業員の配置転換は可能ですか?
可能です。ただし、権利濫用と捉えられる理由の場合、労働問題に発展する恐れがあります。法務部や弁護士などと相談のうえで、慎重に進めることが大切です。
定年退職者の勤務態度に難があった場合、退職金の減額は可能ですか?
相当な理由がなければ退職金の減額はできません。著しい背信行為と判断される出来事があった場合は可能です。たとえば、横領や窃盗、そのほかの犯罪行為などがあれば、著しい背信行為と判断できるでしょう。

まとめ

定年退職の年齢は60歳以上に定める必要があります。また、65歳未満を定年年齢とする場合は、定年の廃止や65歳への延長、継続雇用制度の策定などの措置が必要です。定年退職時の対応を誤ると労働問題に発展する可能性もあるため、今回解説した内容を参考に適切に進めましょう。

監修者労務SEARCH 編集部

労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
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