この記事でわかること・結論
- 役職定年とは役職者が一律で特定の年齢で退任する制度
- 役職定年とする年齢は、50代後半から60歳ぐらいに設定することが一般的
- 導入のメリットは、若手にリーダーとなる機会を提供することで組織を活性化できる
この記事でわかること・結論
役職定年(やくてい)とは、一定の年齢に達した役職者が役職のポジションを退く仕組みです。
しかし年功序列から実力主義への切り替えが進む日本において、経営の実態に合わなくなってきています。メリットとデメリットを理解し、導入を検討することが大切です。
本記事では、役職定年の意味や実態、導入のメリット・デメリット、その後の従業員の対応などについて詳しく解説します。
目次
役職定年とは、役職者が特定の年齢に到達した際に役職を離れることを定める人事制度です。一般的には課長や部長などの上級管理職を対象としており、能力や成績・経験などに関係なく、一律で適用します。
組織内での人事異動や新しいリーダーの就任を円滑におこなうことです。若手社員に役職就任の機会を提供し、新たなアイデアや視点を取り入れることで組織の活性化を図ります。
役職定年は、50代後半から60歳ぐらいに設定することが一般的です。しかし、時代の変化や働き方改革の進展に伴い、年齢の引き上げが見られています。
役職定年の存在を知っている役職者は、それに応じて転職や副業などを計画している可能性があります。役職定年の年齢に達した時点で続投を相談することにならないように、人材の流動リスクを踏まえて年齢を設定しましょう。
役職定年制度は一定の年齢に到達すると特定の職務から解任され、その後は給与や待遇がしばしば悪化することがあります。そのため、離職する人も少なくありません。
一方ポストオフとは、あらかじめ設定した年齢に達した時点で役職から退くことを定める制度です。役職を解任した後に別のポストを用意したり、別の部署に異動したりする機会を与えるため、給与や待遇が大きくは変動しないことが特長です。
また人事異動においては年齢や経験、成績、スキルなど、さまざまな項目が評価対象となります。
役職定年は、長寿命化および少子高齢化に伴う労働人口の減少により、定年制度の見直しが求められるなかで起きた変革のひとつです。
1994年に60歳未満の定年が禁止され、2025年からは65歳までの雇用確保が義務化されることとなりました。これにより企業は従業員の雇用期間を延長せざるを得ない状況となっています。
多くの企業では、役職に就いた社員が原則的に降格しない仕組みを採用しています。しかし、これにより雇用期間が延長されることで、組織の人件費が増加する可能性があります。このため雇用期間を管理し、人件費の負担を抑える必要が生じました。
さらに役職者が同じポジションに長くいると、組織内での世代交代が滞る可能性があります。若手社員が昇進のチャンスを得られない状況では、モチベーションの低下や成長の機会の制約が生まれます。
この課題に対処するため企業は役職定年制度の導入を検討し、組織全体の健全な運営を図っています。
人事院の資料によると、役職定年制度を導入している企業は全体の23.8%を占めています。
また、企業規模が大きくなるほど導入比率が高まっています。これは、大規模な組織ほど組織運営の安定性を図る一環として、役職定年制度を導入する傾向があることを示唆しています。
企業の従業員数規模 | 役職定年制度を導入している割合 |
---|---|
500人以上 | 36.6% |
100~499人 | 25.5% |
50~99人 | 17.1% |
部長級と課長級の双方を対象とする企業が81.3%と高い割合を占め、部長級や課長級のみを対象とする企業はそれぞれ2.4%、6.9%でした。役職定年の年齢は、部長級と課長級ともに55歳が最も多く、次いで57歳が多い結果となりました。
近年、企業における役職定年制度の導入件数は減少しているといわれています。その要因は以下のとおりです。
役職定年制度の導入件数が減少している理由
役職定年の導入には、次のメリットがあります。
役職定年を導入するメリットについて、それぞれ詳しく見ていきましょう。
日本企業では長らく年功序列が一般的で、年齢や勤続年数に応じて昇進や昇給がおこなわれてきました。しかし役職者の交代や降格が難しく、固定化しやすいという弊害がありました。
役職定年によって一定のサイクルで役職者を入れ替えることで、組織の新陳代謝を促進し、新しいアイデアを積極的に取り入れたり活気あふれる雰囲気にしたりできます。
年功序列の企業は、一定以上の年齢にならなければ役職に就くことが難しく、またポストが空くまでに長い時間がかかります。そのため、能力や適性に申し分がない人材が役職に就くまでに時間がかかり、企業の利益損失につながる可能性があります。
また次の世代を担う社員の成長を踏まえると、早期から役職に就任させ、経験を積ませたいところでしょう。能力があるのに役職に就けないストレスは、モチベーションの低下を招き、退職につながるリスクもあります。
役職定年の導入により、次の世代を担う社員が役職に就く機会が増加し、より早い段階から経験を積むことが可能になります。また、能力や意欲に基づいて役職に就任しやすくなり、モチベーションアップにもつながるでしょう。
現代は、労働人口の減少による人手不足が深刻化しており、シニア社員の活躍がますます注目されています。
役職定年によって役職から退任後も、本人の希望や能力に応じて働き続けることができる制度を設けることで、働く機会の提供と企業の人手不足の解消を実現できます。
製造業で、役職定年後も技術コンサルタントとして若手エンジニアに対する指導や技術サポートを担当する方法があります。また、役職を退いた後にプロジェクトマネージャーとして長年の経験を活かして大規模プロジェクトに携わることも可能でしょう。
役職定年の導入には、次のデメリットがあります。
役職定年のデメリットについて、それぞれ詳しく見ていきましょう。
役職定年制度の導入により、退任した元役職者のモチベーションが低下する可能性があります。豊富な経験や専門知識は依然として価値があるにもかかわらず、年齢だけを理由に退任することになれば、モチベーションが低下するのは仕方ないでしょう。
人材不足の会社などにおいては、役職定年を導入できない可能性があります。
人手不足が深刻な場合や企業が急成長している状況では、役職者を年齢だけを理由に退任させることは良い判断とは限りません。後任者が現れないことや、後任者が前任者よりも能力が低いことによる利益損失につながるリスクがあります。
役職定年を導入すると、一定の年齢までに後任者を見つけて育成する必要があります。通常、育成状況に合わせて退任のタイミングを決めるところ、一律で退任するとなれば引き継ぎに失敗するリスクが高まります。
引き継ぎが不十分だと、前任者のノウハウや知識が失われ、組織運営が円滑に進まなくなったり業績が低下したりするおそれがあります。したがって役職定年の導入時には、計画的かつ綿密な人材育成と引き継ぎ策を実施することが大切です。
役職定年した従業員は、給与や待遇が悪化することによってモチベーションが低下する可能性があります。そうなれば業務に支障をきたすほか、他の従業員のモチベーションにも悪影響を与えかねません。
役職定年後の従業員のモチベーションが低下しないように、次のような対応を検討しましょう。
役職定年は、次の世代を担う従業員が役職に早期に就ける仕組みです。その一方で、退任者のモチベーション低下による退職リスクの増加が懸念されます。
定年延長や70歳までの雇用の努力義務などの観点から、役職定年の導入を取りやめる企業も増えています。今回解説した内容を参考に、役職定年の導入を検討しましょう。
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