この記事でわかること
- サバティカル休暇とワーク・ライフ・バランスの関係性
- サバティカル休暇の企業と従業員への効果
- サバティカル休暇導入時に気をつけたいこと
この記事でわかること
ヨーロッパで普及している「サバティカル休暇」を導入する企業が増えています。日本でも働き方改革やワーク・ライフ・バランスと併せて導入が進むサバティカル休暇について、解説します。
目次
サバティカル休暇とは、所定の在職期間に達した従業員に対して一定期間の休暇を与える制度で、休暇の期間は1カ月以上1年未満になることが一般的です。近年では日本でも導入する企業が増え、働き方改革の推進につながると注目されています。
サバティカル休暇は、働き方の価値観多様化における選択肢のひとつとして検討する企業が増えています。人材の離職防止、従業員の健康促進と過労防止を大きな目的として作られ、日本でも働き方改革やワーク・ライフ・バランスと関連した取り組みとして認識されています。
サバティカル休暇の取得は企業への一定期間の在籍が条件ですが、長年の勤務において長時間労働が日常化している場合があります。サバティカル休暇は心と体の両面でのリフレッシュ、過労防止と健康促進、ワーク・ライフ・バランスを保つ重要な役割を果たすと期待されています。
サバティカル休暇は新しい福利厚生制度であり、その運用は企業ごとに異なります。有給休暇や特別休暇(慶弔休暇、バースデー休暇など)との併用も可能であるため、メリットデメリットの両面を加味した推進が必要です。
サバティカル休暇には、企業と従業員の双方にメリットがあります。
長期休暇の取得により、自己成長や新たなイノベーションを生み出す機会になります。海外留学やボランティアなど、従業員が休暇中に得た知識や経験を復職後の業務に活かすことで、利益を生みやすくなります。また、従業員の新たな知見や価値観は企業にも大きな財産となり、従業員のモチベーションが高まり、優秀な人材確保につながります。
サバティカル休暇は心身ともにリフレッシュできるため、従業員のメンタルヘルスや過労死といった安全配慮義務違反に基づく阻害賠償等のリスクを下げる効果が期待できます。長期間の休養によるリフレッシュは従業員の健康面を支える重要な要素といえます。
サバティカル休暇は「就職後に長期の休みが取れない」という社会全体の風潮を変える制度です。導入している日本企業は少ないため、企業イメージの向上や優秀な人材確保にもつながります。また、福利厚生の充実により、従業員エンゲージメント向上が期待できます。
一般的にサバティカル休暇取得理由の申告は不要ですが、法律で定められている育児休養や介護休業に加えて、育児や介護を目的として取得する人や、突発的な病気の治療にも役立つため、従業員の離職率低下が期待できます。また、サバティカル休暇の存在により仕事への安心感が生まれます。
サバティカル休暇には、デメリットも存在します。事前に運用ルールを明確化することが重要です。
サバティカル休暇は一定期間勤務した従業員が対象であるため、ほかの社員への情報共有不足や業務量増加によって、業務に混乱が生じる可能性があります。業務量の調整や休暇前に引継期間を設けるなど調整が必要です。
育児・介護休暇と同じく、長期休暇の取得により業務内容や人間関係といった職場環境が変化し、場合によっては復職社員へのフォローアップが必要です。休暇の期間によっては必ずしも休暇前と同じ業務に戻れるとは限らず、昇進・昇給に影響があることも考えられます。
サバティカル休暇の仕組みは企業によって異なります。海外では休暇中に手当が支給される国もありますが、日本の制度普及はこれからであり、無給となる企業も珍しくありません。従業員への事前確認と、休暇中の計画が必要です。
キャリアアップを目的としたサバティカル休暇取得の場合、休職中に従業員の考えが変わり、復職しないことも考えられます。休暇中に給与支払いがあったにもかかわらず復職しない場合トラブルになることも考えられ、事前にルール策定が重要です。
サバティカル休暇はどんな理由でも取得可能であり、運用方法は企業の裁量に任せられています。導入時に確認すべきポイントをお伝えします。
サバティカル休暇後の社員の離職を防ぐべく、休暇の目的を事前に把握することは大切です。また、スキルアップやリフレッシュを目的とした取得を推進すると効果的です。スキルアップを目的とする場合、レポート提出を義務づける企業もあります。
サバティカル休暇は法律上の規定はなく、給与の取り扱いは企業で任意に決定されます。休暇取得の目的に応じて支給の有無を定める、有給休暇との組み合わせにより休暇中の給与受け取りを可能とするなど、最適な運用方法の構築が必要です。
給与の有無に限らず、社会保険は在籍中の加入が必須となるため、休暇が長期に亘る場合は従業員から保険料・住民税を徴収して、市区町村に納めなければなりません。
そのため、社会保険料の本人負担分や住民税については、毎月定められた期日までに、従業員から会社の口座に振りこんでもらうよう取り決めをしておく必要があります。
長期間のサバティカル休暇後、復職予定日に従業員が出社しない可能性があります。休暇中に支払うべき社会保険料等を滞納したまま出社しないなど、人的コストの観点から企業にとっては大きなリスクとなります。
また、復職予定日以降に出社しないという理由のみでの解雇は難しく、場合によっては、「復職後一定期間出社しない場合には、会社とその従業員との労働契約が終了する」旨を就業規則に定める必要があるため、注意が必要です。
他社に先駆けて実際にサバティカル休暇を導入している日本企業をご紹介します。
ヤフー株式会社は「サバティカル制度」と銘打ち2013年に日本でいち早くサバティカル休暇を導入しました。自らのキャリアや働き方を見つめ直し、さらなる成長につなげることが目的です。
10年以上勤続する社員を対象とし、取得可能期間は最短2カ月から最長3カ月、休暇中は休暇支援金として基準給与1カ月分が支給されます。有給休暇との併用による給与支給を推奨しています。
【参考】Yahoo! JAPAN、最長3ヶ月の長期休暇を取得できる 「サバティカル制度」の導入を開始 – プレスリリース┃ヤフー株式会社
株式会社リクルートテクノロジーズは「STEP休暇」として、勤続3年以上の社員を対象にサバティカル休暇制度を設けています。
休暇を取る目的は自由で、勤続3年ごとに最大連続28日の休暇取得が可能、休暇取得の応援を目的として一律30万円が支給されます。ヨーロッパで導入されているサバティカル休暇にとても近い仕組みです。
【参考】休暇・休職|制度・環境┃採用情報-リクルートテクノロジーズ
ソニー株式会社は2015年に「フレキシブルキャリア休職制度」を導入しています。配偶者の海外赴任や留学の同行による語学力と知見の向上によるキャリアの継続を図るための休職(最長5年)や、専門性の追求や私費就学のための休職(最長2年)が可能です。
2017年には「休職キャリアプラス制度」を導入し、休職中の在宅勤務や研修費用の補助など、職場復職がしやすい環境整備を推進しています。
社会保険労務士の中でも、10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛ける特定社会保険労務士/ワークスタイルコーディネーター。なんば社会保険労務士事務所の所長。
詳しいプロフィールはこちら