「心理的な負担の程度を把握するための検査(以下:ストレスチェック)」の実施にあたっては、個々の対象労働者ごとにさまざまなケースで対応に苦慮することがあるでしょう。
そこで本稿では、定期健康診断とは違って労働者の受検義務がないこと、またその結果を事業者に提供する義務もないことから生じる疑問、あるいは高ストレス群をどのように設定すべきか、といった主に想定されるケースごとにその対応方法を解説していきます。
目次
過重労働等が問題視される現状にあわせて、2014年6月25日に公布された「労働安全衛生法の一部を改正する法律」により、ストレスチェックを行うことで定期的に自らのストレス状況について知り、職場環境の改善やメンタルヘルスの維持、改善を促すために創立された取り組みです。
また、ストレスチェックの結果によって、メンタルヘルス不調のリスクが高いとされる労働者に対しては、医師による面接指導につなげることができるため、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止する一次予防の役割も果たしているといえます。
ところで、しばしばストレスチェックと健康診断が混同されがちですが、これらは似て非なるものです。
健康診断は法律で労働者の受診義務が定められているのに対し、ストレスチェックは労働者の受検義務規定はありません。実施する際の労働者数においても、健康診断は常時使用する労働者が1人でもいれば実施する義務がありますが、ストレスチェックは労働者数50人未満の事業場の実施については当分の間「努力義務がある」とされています。
ほかに、実施する者や結果の通知方法もストレスチェックと健康診断では異なりますので、混同しないように注意が必要です。
前項に記載しましたとおり、ストレスチェックの受検や面接指導について、労働者に義務付けることはできません。そのため労働者が受検や指導を拒否する場合、こちらが業務命令として無理に行わせることはできません。
労働者が受検や指導を受けたか否かの状況を把握したうえで、未受検または指導を受けていない労働者のリストを作成し、それらの労働者に対して受検または指導を受けることを勧奨することは可能です。
ただしあくまでも勧奨であって、受検や指導を受けることが業務命令のような形式にならないことに十分留意しなければなりません。
勧奨の実施方法については、前もって労働者に周知しておく必要があります。もちろん受検や面接指導を拒否されたからと言って、業務上不利益な取り扱いをしてはなりません。
ストレスチェックを健康診断と同時に実施することも可能です。ただし、
に留意し、健康診断とストレスチェックの違いを労働者が認識できるようにしておくことが大切です。
個々の受検者からの結果が、必ずしもすべて提供されなくとも、個々の同意を得ることなく集団分析をすることが可能です。
労働安全衛生法施行規則第52条の14では、事業者はストレスチェックを行った医師等に、当該部署(たとえば部や課)に所属する一定規模の集団ごとに集計させ、その結果について分析させるよう努めなければならないことを定めています。
職場の環境を共有し、かつ業務内容について一定のまとまりをもった部や課などの集団をいいます。
具体的に集計および分析を行う集団の単位は、事業者が当該事業場の業務の実態に応じて判断するものとされています。
ところが集計および分析の範囲が10人を下回る場合には、原則として対象となるすべての労働者の同意が得られない限り、実施者は事業場に結果を提供してはならないことになっています。
なおストレスチェックや面接指導を行った実施者等は、その診断結果に関して知り得た労働者の情報について、外部内部を問わず決して漏えいさせてはなりません。すべての実施者や事務に従事した者には、守秘義務が課されています。
高ストレス者の選定には、いくつかの基準があります。具体的には下記に加えて医師等実施者の意見および衛生委員会等での調査審議をふまえ、事業者が決定することとなっています。
また実施者による高ストレス者の選定はこれらの選定基準で選定する以外にも、医師や保健師、看護師、精神保健福祉士、産業カウンセラー、臨床心理士などの心理職が労働者を面談し、その結果を参考に高ストレス者を選定する方法もあります。
今回はストレスチェック制度の適切な運用と、実施における様々なケースに対応する方法についてご紹介しました。本来この制度は、労働者のストレス状況について労働者自身が気づき、メンタルヘルス不調に至るリスクを軽減させるための制度ですので、適切な運用がなされなければ反対に労働者のストレスとなり、本末転倒になってしまいかねません。
今回の記事でご紹介したポイントをおさえれば、さまざまなケースにも対応できるでしょう。
社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー 代表社会保険労務士:
楚山 和司(そやま かずし) 千葉県出身
株式会社日本保育サービス 入社・転籍
株式会社JPホールディングス<東証一部上場> 退職
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