働き方改革の一環として、東京都が推進している時差ビズ。満を持して東京都が講じた施策ですが、実際はそれほど都民に浸透しておらず、あまり普及していないのが現状のようです。
時差ビズとは一体どのような施策なのか、なぜ普及が進まないのか、時差ビズについて詳しく解説します。
目次
時差ビズ(時差Biz)とは、通勤時間の混雑を緩和するために東京都が東京都交通局と協力し、時差出勤や在宅勤務を企業に呼びかけ、参加を募るキャンペーンです。小池百合子都知事が都知事選で掲げた「満員電車ゼロ」という公約から始まっており、東京都が主導して通勤時間をずらす取り組みを2017年7月から実施しています。
時差ビズを導入した2017年度は、7月11日から7月25日までの実施で319社の企業が参加。2度目の実施となる2018年度は前年度より実施期間も長くなり、7月9日から8月10日まで実施しており、前年を大幅に超える824社が参加し、約2.5倍もの増加が見られました。
翌年1月に実施した3度目のキャンペーンでは、1024社もの企業が参加しています。時差ビズに参加するには、賛同する企業が特設サイトから参加を表明し、開催期間中に時差通勤やテレワーク、フレックスタイム制度などを導入する必要があります。
通勤時の混雑は人口減少傾向にある現在も解消されることなく、首都圏では毎日ストレスを感じながら通勤している人も少なくありません。また、夏の暑い時期はさらに不快さが増し、ストレス負荷も高まります。
心身にストレスがたまると自律神経のバランスが乱れ、睡眠不足や体調不良などを引き起こし、結果的に生産性を低下させる原因となってしまいます。
また、満員電車の混雑緩和を目的とした時差ビズは、従業員にとってもストレス改善に役立つとして、企業からも注目が高まっています。
2018年の時差ビズキャンペーン初日、小池都知事が「鉄道、企業、個人が三位一体となって時差ビズ、快適通勤を実現できるようにしたい。あの手この手を試し、2020年に開催される国際競技大会運営の実験をしていきたい。」と話しているように、時差ビズは東京で行われる2020年の国際競技大会での交通混雑緩和に寄与することも、目的のひとつとされています。
時差ビズは毎年参加企業が増加傾向にあり、2019年1月に実施されたキャンペーンでは開始当初から比較して、約3倍まで増加しました。しかし、総務省の2016年の調査によれば、東京都には約42万(そのうち会社企業は約24.9万)もの企業が所在していると発表しています。
それを踏まえると、時差ビズは思ったほど企業に浸透していないことが分かります。
▼東京都の企業数の推移(公務は除く)
通勤ストレスの解決策になりうる時差ビズですが、それほど大きな効果は得られていないことが読み取れます。
時差ビズが進まない理由として、以下のような問題があげられます。
時差ビズは企業の協力が不可欠ですが、その企業側が受け入れ態勢を整えていないと、効果は得られません。
出社時間や退社時間が固定の企業の場合、時差ビズを利用したからといって定時より早く帰ることは、周りの人に心苦しいと感じる従業員が多いと考えられます。通勤時間をずらして遅く出社する場合も同様です。
時差ビズを導入するうえで、必要となる課題は以下が考えられます。
時差ビズを活用して早朝に出社しても、通常通りの時刻に退社する従業員も少なくありません。企業側で勤怠管理が徹底されていない場合、早朝出勤によるサービス残業につながる恐れがあるため、勤怠管理システムの見直しなどが必要です。
また、時差ビズでは早朝出勤を推進しているようなイメージが強く、現在の混雑を解消できたとしても、その通勤者全てが早朝に集中しても混雑の時間帯が移動するだけです。
早い時間帯だけでなく遅い時間帯の出勤者も増やすことで、通勤時間に集中する利用者を分散できます。
企業が時差ビズに参加することで、以下のメリットを得られます。
従業員のメリット |
|
---|---|
企業のメリット |
|
近年では、効率化を図るためにクラウドシステムを導入している企業も多く、時差ビズを導入することにより、クラウドシステムの活用を推進できます。
スマートフォンでメールの確認や申請書類の提出など、時間や場所を選ばず業務が行えるため、生産性向上につながります。また、従業員に早朝出勤するメリットやインセンティブを提示することも大切です。
伊藤忠商事株式会社では健康管理の観点から、午前8時前始業の従業員に対し、軽食を無料提供しており、株式会社インヴァランスでは「朝早く出社して、仕事の効率化をめざす社員を応援したい」という想いから、早朝出勤した従業員に朝食を提供する朝活カフェを設けています。
【参考】朝型勤務┃伊藤忠商事株式会社
【参考】福利厚生 朝カフェ♪┃株式会社インヴァランス’s Blog
時差ビズを推進するには、どのような取り組みを行えば良いのでしょう。東京都の事例をもとに、紹介します。
・事例1 時差出勤で時差Bizに参加
1日の労働時間はそのままで、始業時刻と終業時刻を変更する時差出勤制の導入
【引用】時差Bizとは|朝が変われば、毎日が変わる。「時差Biz」
・事例2 フレックスタイム制で時差Bizに参加
1カ月の総労働時間を定めておき、始業時刻と就業時刻を従業員が自由に選択できるフレックスタイム制の導入
【引用】時差Bizとは|朝が変われば、毎日が変わる。「時差Biz」
・事例3 テレワークで時差Bizに参加
情報通信技術を活用し、場所や時間の制約を受けず、柔軟に働けるテレワークの導入
東京都の鉄道会社では時差ビズを推進する目的で、JRや私鉄など12の鉄道会社が協力し、以下の取り組みを実施しています。
その中でも注目すべきは混雑アプリの導入です。
時差ビズにあわせ、各鉄道会社はWebサイトやアプリで混雑状況の「見える化」を進めており、乗車したい電車の運行状況や混雑状況がひと目で確認できます。混雑アプリを活用すれば事前に混雑状況が確認できるため、利用者も積極的に通勤時間を変更できます。
【引用】東京メトロmy!アプリ
【引用】 JR東日本アプリ|JR東日本
時差ビズを支援する制度には、テレワーク・デイや勤務間インターバル制度が効果的です。
2020年に開催される国際競技大会の開会式にあたる7月24日をテレワーク・デイと位置づけ、交通機関や道路が混雑する始業から10時半までの間、一斉テレワークを実施する企業・団体を募集する取り組みです。
勤務終了後、次の勤務までに一定時間以上の「休息時間」を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保し、健康保持や過重労働の防止を図る制度で、2019年4月から制度の導入が努力義務になっており、また、助成金の対象にもなっています。
時差ビズを推進するにあたり、勤務間インターバル制度を導入すれば、制度導入に要した費用の一部に対して助成金が支給される場合があります。
7月後半から10月後半までの3カ月間「ワクワク、スマートワーク」プロジェクトを実施。テレワークやフレックスタイム制を活用しながら働くことにチャレンジ。早朝出勤と早帰りを推進するための「ご褒美 Breakfast キャンペーン」を実施。7月25日から8月10日の毎水・金曜7:30~8:45に朝食を提供。
【参考】 平成30年度時差Biz推進賞 ワークスタイル部門受賞│東京都時差Biz
平成30年度より、7パターンであった変形シフトを10パターンに増加。この制度では通常シフト以外は基本的に残業不可とした。時差ビズ期間中は周知にも努め、制度活用を奨励。朝夕の時間を活用し、朝活&夕活セミナーなどを実施。
【参考】 平成30年度時差Biz推進賞 ワークスタイル部門受賞【松本零士特別賞】受賞│東京都時差Biz
私鉄14社と連携し、「朝はゆったり、帰りはさくっと 通勤・帰宅はスタンプ2倍」という名称で、首都圏の1000駅・1400台の自動販売機でキャンペーンを展開。時差Biz実施期間を含む7月1日から9月30日の間、朝5:00~7:59・夕方17:00~19:59までに、対象となる自動販売機を利用したお客様に付与スタンプを2倍贈呈。
【参考】 平成30年度時差Biz推進賞 プロモーション部門受賞【松本零士特別賞】受賞│東京都時差Biz
時差ビズとは、働き方改革の一環として時差出勤を推進する取り組みです。賛同企業の増加や通勤時間の分散など、課題が残されていますが、混雑アプリや支援制度を活用することで、時差ビズを推進できます。
社会保険労務士の中でも、10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛ける特定社会保険労務士/ワークスタイルコーディネーター。なんば社会保険労務士事務所の所長。
詳しいプロフィールはこちら