- 給与の合計額を計算する
- 控除額を差し引く
- 所得税率をかける
- 住宅ローン控除額を差し引く
- 源泉徴収税額と年調年税額を比較する
- 源泉徴収票を発行する
年末調整は所得税を正確に納付するための手続きであり、基本的に全従業員へおこなうことが義務づけられています。
そのため、年末調整に携わる人事・総務担当者は計算方法や流れをよく理解しておく必要があります。
しかし、年末調整は大量の書類を扱いながら計算しなければならず、また年に一度しかおこなわないため、細かい部分が曖昧な方もいるのではないでしょうか。
本記事では、年末調整の計算方法や流れについて解説します。
年末調整とは、毎月従業員の給与や賞与から徴収している所得税を再計算し、過不足を精算する手続きです。
会社は、従業員一人ひとりが確定申告をおこなって所得税を納付する手間を省くために、あらかじめ所得税を差し引いた状態で給与や賞与を支給する義務があります。
この制度が「源泉徴収」です。
しかし、源泉徴収で差し引く金額はあくまでも概算であり、正確な所得税額ではありません。
そこで年末に1年間の所得や控除額を再計算し、正確な所得税額を算出した上で源泉徴収額との過不足を調整します。
正確な所得税額が源泉徴収額よりも少なければ差額を従業員に還付し、反対に多ければ不足分を従業員から徴収します。
年末調整は義務化れています。年末調整しないとどうなるかは以下の記事を参考にしてみてください。
当然ですが、給与計算で事務担当者がおこなうことは年末調整だけではありません。
年末調整を含めた給与計算の主な年間スケジュールは以下のとおりです。
1月 | 法定調書の提出、給与支払報告書の提出 |
---|---|
3月 | 従業員の給与決定、4月に64歳以上となる従業員の確認など |
4月 | 新卒社員・異動社員の給与設定、健保・介護保険料率の変更反映 |
5月 | 住民税の特別徴収税額の通知 |
6月 | 住民税の新年度控除額を登録 |
7月 | 労働保険料の年度更新、社会保険料の算定基礎届提出、4月昇給者の随時改定 |
8月 | 4月昇給による随時改定者の社会保険料改定 |
9月 | 厚生年金保険料率の変更 |
10月 | 算定基礎届を提出した者の社会保険料改定 |
11月 | 年末調整準備 |
12月 | 賞与支給、年末調整実施 |
ここからは年末調整のために、正確な所得税額や控除額を算出する方法と流れを解説します。
具体的な年末調整の流れは以下のとおりです。
まず、従業員ごとに支払った1年間の給与の合計額を計算します。
また、給与から毎月差し引いている社会保険料・健康保険料や、源泉徴収税額も集計しましょう。
次に給与の合計額から所得控除額を差し引きます。控除には「給与所得控除額」と「所得控除額」の2種類があります。
給与所得控除とは、収入金額から概算される経費のことです。控除額は収入額に応じて変動します。
給与所得控除額を差し引いた後は、さらに所得控除額も差し引きます。
所得控除の種類は以下のとおりです。
給与の合計額から給与所得控除と所得控除を差し引いて算出した金額を「課税所得金額」といいます。
課税所得金額を算出した後は、所得税率をかけて「所得税額」を計算します。
所得税率は累進課税制のため、所得が多くなるにつれて税率も高くなります。
課税所得別の所得税率は国税庁のWebサイトで確認しましょう。
住宅ローン控除とは、住宅ローンを利用している場合に入居時から10年間にわたって所得税や住民税が一部控除される制度です。
そのため、当てはまる従業員に対しては所得税額から住宅ローン控除額を差し引き、「年調所得税額」を算出します。
次に年調所得税額に復興特別所得税102.1%を乗じて、「年調年税額」を算出します。
源泉徴収税額と算出した年調年税額を比較し、過不足の精算をおこなえば年末調整は完了です。
年末調整の完了後は、従業員に源泉徴収票を発行します。
源泉徴収票とは、会社が1年間に従業員に支払った給与・賞与額と、源泉徴収税額を記載した書類です。
毎月の給与計算は、年末調整のもととなります。
年末調整でのトラブルを防ぐためには、毎月の給与計算を不備なくおこなうことが大切です。
ここからは毎月の給与計算の流れを解説します。
まず、従業員の1カ月の総支給額を計算します。
総支給額とは、基本給と各種手当の総額から、欠勤や遅刻、早退にともなう欠勤控除を差し引いた金額です。
次に雇用保険料と社会保険料を算出し、総支給額から差し引きます。
社会保険料は、標準報酬月額に保険料率を乗じて算出します。社会保険の保険料率は都道府県ごとに分かれているため、 協会けんぽのWebサイトで確認しましょう。
また、雇用保険料は総支給額に保険料率を乗じて算出します。雇用保険料の保険料率は、厚生労働省のWebサイトで確認できます。
保険料を総支給額から控除した後は、源泉徴収する所得税と住民税を差し引きます。
所得税額の算出には、まず「課税対象額」を求めます。
課税対象額は、総支給額から通勤手当や研修手当などの非課税対象の諸手当と、社会保険料・雇用保険料を差し引いた金額です。
求めた課税対象額を、国税庁のWebサイトで確認できる「源泉徴収税額表」に当てはめれば所得税額を算出できます。
住民税額は、毎年5〜6月ごろに自治体から送られてくる決定通知書で確認できます。
労使協定による控除項目がある場合は、控除項目を差し引きます。
労働協定による控除項目とは、従業員から会社への返済金や福利厚生施設の利用費などを指します。
総支給額から、各種保険料・各種税額・労使協定による控除額を差し引くと従業員への支給額が算出できます。
年末調整の計算には以下の書類が必要です。それぞれの書類の内容や目的について解説します。
扶養控除(異動)申告書とは、従業員の世帯に控除対象となる扶養親族等がいるかどうかや、扶養親族の所得を確認する書類です。
扶養控除申告書は1年の最初の給与を支払う前日までに従業員に提出してもらいます。また、年末調整時に内容に変更があれば異動申告書を提出させる必要があります。
扶養親族等が扶養控除の対象となるか確認し、年末調整の計算に使用します。
保険料控除申告書とは、従業員が所得控除の対象かどうかを確認するための書類です。
確認する所得控除の種類は、生命保険料控除・地震保険料控除・小規模企業共済等掛金控除の3つです。
基礎控除申告書・配偶者控除等申告書・所得金額調整控除申告書は、その名のとおり、従業員が基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除の対象になるかどうかを確認する書類です。
給与所得者の基礎控除、配偶者(特別)控除及び所得金額調整控除申告書のダウンロードはこちら>>
住宅借入金等特別控除申告書とは、従業員の住宅ローン残高を確認し、住宅ローン控除額を算出するための書類です。
なお、年末調整で住宅ローン控除が適用できる時期は控除を受ける2年目以降です。
年末調整の計算で主に想定されるトラブルは以下の2つです。
あらかじめ想定した上で、対処できるように対策を講じておきましょう。
従業員が書類の提出漏れや紛失を起こすと、年末調整の作業に遅れが生じます。
そのため早期から提出書類を周知し、なるべくスムーズに年末調整をおこなえるように備えておきましょう。
仮に年末調整の期限までに従業員の書類の提出が間に合わない場合は、本人が確定申告をおこなわないと控除を受けられません。
ほとんどの場合、源泉徴収額が所得税額を上回るため、年末調整後は従業員に余分を還付することが多いようです。
しかし、従業員の扶養家族の人数が減少や賞与の突発的な上昇などにより、稀に源泉徴収額が所得税額を下回るケースがあります。
源泉徴収額が所得税額を下回った場合は、従業員から不足分を徴収する必要があります。
年末調整の計算方法や流れ、注意点などを解説しました。
年末調整は所得税を正確に納付するための重要な手続きです。基本的に全従業員へおこなうことが義務づけられています。
期限直前になって慌てないように、本記事を参考に年末調整の計算方法を改めて理解しておきましょう。
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