経済のグローバル化が進む中で、外国人社員や日本に在住していない非居住者の社員とその扶養家族の対応が必要な会社は多くあります。原則、日本に居住しているのであれば日本人社員と税務上の取扱は変わりません。
しかし、日本に在住していなかったり(非居住者)、海外に住む扶養家族がいたりする場合など、取り扱いに悩むときも少なくないでしょう。今回は、外国人と非居住者についての年末調整の取り扱いについて解説します。
日本に居住しているなら、外国人社員も年末調整の対象になります。その年1年を通じて働いている人はもちろんのこと、その年の一部の期間日本で働いているという条件に当てはまれば、年末調整対象です。
年末調整の手続きは、基本的に日本に居住している日本人社員と変わりません。ただし、扶養家族の取り扱いや、年の途中で海外に居住することに なると、事務手続きが変わってきます。それらのケースについては後ほど改めて説明します。
遠隔勤務で日本に住んでいない外国人社員(いわゆる非居住者)については、年末調整の手続きは不要です。非居住者は、給与を支払う際の源泉徴収のみ必要となります。源泉徴収税率は、20.42%です。
居住者か非居住者かの区分は、以下の2点で決まります。
→ 住所とは「個人の生活の本拠としている場所」
→ 居所とは「その人の生活の本拠ではないが、その人が実際に住んでいる場所」
源泉徴収のタイミングは、居住者の社員と同じく給与を支払う際に天引きします。徴収した税金は翌月10日までに「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書(納付書)」を添えて納付してください。
ただし、源泉徴収が発生する支払いを国外で行う場合、支払者が国内に拠点を構えているため国内にて支払うと見なす際は、事務手続きがあるため翌月末日まで納付期限に猶予が設けられています。納付先は、最寄りの金融機関、所轄税務署の窓口、e-TAXのいずれでも構いません。
上記の源泉徴収(20.42%)は、租税条約に基づく届け出を行うと軽減される場合があります。給与を支払う非居住者が住んでいる国と日本との間に、租税条約が結ばれている場合がこれに当たります。租税条約に基づく税金の軽減・免除申請を行うには、非居住者等が会社に以下の書類を届けなくてはなりません。
これらの書類を受け取ったら、会社は納税地の所轄税務署長に提出することで、これまでの源泉徴収額からの差額分についての還付請求が可能です。
さらに、租税条約に特典条項がある場合は、上記に加えて、日本とその租税条約を結んでいる国に住んでいることを証明する書類を提出することで、特典条項の恩恵が受けられます。必要な書類は以下の通りです。
その他、詳しくは下記をご覧ください。
No.2888 租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)
国外居住親族に関しては、さまざまな書類の提出が平成27年度から求められています。日本国内の年末調整を受ける場合は、以下の書類を提出しなければなりません。
国外居住親族の氏名、生年月日及び住所または居所の記載があるもの
これらの書類を提出する時期は、年末調整時期に提出する年末調整書類別に微妙な違いがあります。
そのほかにも細かい注意事項があるため、実際の事務手続き時には以下の書類を併せてご確認ください。
海外に転勤した際は、出国する日までに年末調整を実施します。年末調整の対象になる人は、その年の年末までに支払われる給料の予定額が2,000万円以下で、海外の転勤期間が1年以上の人です。年末調整の対象となる給料は、出国するまでに支払いの確定した分となります。
この時、年末調整で控除の対象となる社会保険料や生命保険料などは出国するまでに支払った額のみになりますが、扶養控除や配偶者控除は出国の時に満額控除されます。
その他の細かい取扱規定については、以下を参照してください。
外国人と非居住者についての年末調整の取り扱い について説明しました。住所と居所の違い、海外に住んでいる扶養家族の対応など、少々複雑な部分がありますので、慎重に事務手続きを進めてください。特に、海外に扶養家族がいることを証明する書類の取りそろえは、時間がかかりますので早めに進めたいところです。今後はますますグローバル化が進み、こういった手続きが増えてきますので、ノウハウなどをしっかり蓄積してスムーズな手続きを目指しましょう。
社会保険労務士法人|岡佳伸事務所の代表、開業社会保険労務士として活躍。各種講演会の講師および各種WEB記事執筆。日本経済新聞、女性セブン等に取材記事掲載。2020年12月21日、2021年3月10日にあさイチ(NHK)にも出演。
詳しいプロフィールはこちら