本記事でわかること
- 現在の入管法の概要
- 新たに追加された特定技能1号・2号について
- 外国人労働者を活用する企業のメリット・デメリット
- 外国人労働者雇用における注意点
本記事でわかること
少子高齢化による人材不足を補う新たな担い手として注目されている外国人労働者。
2019年4月1日、「外国人労働者の数を増やし、国内の人材不足を解消しよう」という趣旨で施行された改正出入国管理法は、人材の確保に困難を感じている企業にとって、大きな転換となりました。
外国人労働者の雇用促進により深刻な労働力不足を解消するには、どのような点に注目したらよいか解説します
目次
入管法とは、出入国管理及び難民認定法の略称で、入国・出国、外国人の在留資格、不法入国などに関する法律です。現在に至るまで、社会情勢に合わせて数回にわたり改正が行われています。
入管法改正 | |
---|---|
1982年 | 戦前から日本に住んでいる韓国・朝鮮・台湾人の特例永住権を認定 |
1980年代後半〜1990年 | 不法入国者・就労者が社会問題化したことにより、在留資格の明確化や不法就労者の雇用主への厳罰化を規定 |
2009年 | 在留カードの交付開始 |
2019年 | 新たな在留資格(特定技能の創設) |
入管法が度々改正された背景にはその時の社会情勢が深く関わっています。直近では2019年4月に改正されましたが、改正に至った背景には「日本の生産年齢人口の減少」と「日本経済の成長阻害」が挙げられます
15歳から64歳の生産年齢人口は、2008年以降減少の一途をたどっています。1990年代前半には約8,700万人いた生産年齢人口が、2017年には約7,596万人(総人口に占める割合の60%)まで減少しており、2040年には約5,978万人まで減っていくと総務省は推計しています。
そこで国内における人材不足を解消する新たな担い手として、外国人労働者を受け入れ、入管法改正へと踏み切りました。
【参考】総務省 第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長
日本政府は、国内において深刻化している人手不足は、日本の経済・社会基盤の持続を阻害する可能性があると考えています。
出生率向上に向けた対策や女性の社会進出も生産年齢人口を増やす有効な策ですが、いずれも効果が現れるには時間がかかるため、即効性のある入管法改正に踏み切ったといわれています。
入管法では、日本での就労を認められている在留資格は以下を目的としている外国人に限っています。
目的 | 対象者 |
---|---|
留学 | 日本で勉強をしている留学生(週28時間までアルバイトとして労働が可能、資格外活動許可を受けている者) |
家族滞在 | 長期滞在外国人の扶養を受ける配偶者および子(週28時間までアルバイトとして労働が可能) |
技能実習 | 母国の経済発展に役立てる目的で、工場や農業などで働き知識・技能を学ぶ技能実習生 |
高度専門職 高度人材 |
高度な知識や技能を有している人材 |
外交、公用、 教授、医療など |
医師や外交官など専門知識を有する職に就いている人材 |
特定活動 | 外交官等の家事使用人、ワーキングホリデー入国者など |
2019年4月以降の入管法では、新たに就労可能な在留資格「特定技能」が創設されています。日本国内における人材確保が困難な状況にある14の特定産業分野において、外国人の雇用が可能となりました。
新たに創設された在留資格「特定技能」には、就労する分野や業界の知識、経験、技能、日本語のレベルに応じて「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があります。
「特定技能1号」は、特定産業分野に属する相当程度の知識、または経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格のことです。在留期間は5年と定められており、家族の帯同ができません。
「特定技能2号」は、熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格のことです。在留期間は無制限で家族の帯同が可能になります。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
在留期間 | 1年、6カ月、または4カ月更新 | 3年、1年、または6カ月更新 |
---|---|---|
最長在留可能期間 | 5年 | 上限なし |
技能水準 | 試験などで確認 ただし、技能実習2号修了者は免除 |
試験などで確認 |
日本語能力水準 | 生活や業務に必要な日本語能力を試験などで確認 ただし、技能実習2号修了者は免除 |
試験などでの確認は不要 |
家族帯同 (配偶者・子) |
不可 | 可 |
受け入れ期間の支援 | 支援対象 | 支援対象外 |
職種 | 14分野 | 2分野 |
在留資格が適用される業種「特定産業分野」は、人材不足が懸念されている以下の14分野です。
ただし、特定技能2号を取得できる分野は「建設」「造船・舶用工業」のみです。
入管法の改正で外国人労働者を受け入れやすくなることによって、企業にはどのようなメリットが期待されているのでしょうか。
入管法を活用し、外国人労働者を受け入れることは以下のメリットがあります。
新たな労働力として外国人労働者を受け入れることによって、特定分野での人手不足が解消され、倒産のリスクも軽減されるといわれています。
日本全体の人口は減少傾向にありますが、都市部の人口は増加しています。過疎化した地方で、介護や1次産業などの分野における人手不足を、外国人労働者によって補填することが期待されています。
質の高い外国人労働者を確保することによって、生産性の向上が期待されています。また、外国人労働者による日本国内での消費活動も拡大し、景気が上向きになる動きも予想されています。
入管法を活用する上では「雇用環境の悪化」、「日本人の雇用機会の減少」などのデメリットも生じます。
低賃金や過重労働などの問題が解決されずに雇用がスタートすると、外国人労働者は入管法を盾にストライキを起こす可能性があります。現状の労働環境を早急に改善しなければ、雇用環境が悪化する可能性があるため注意が必要です。
能力の高い外国人労働者を同等の賃金で雇うことができれば、日本人の雇用機会がなくなってしまうことも考えられます※。深刻な人材不足とはいえ、外国人労働者に頼りすぎるのは危険かもしれません。
技能実習生は入国1年目から労働基準法上の労働者として、労働基準関係法令の適用を受けることになりました。
外国人労働者を受け入れる際、企業は外国人労働者が最適な労働環境で働けるようにさまざまな対応が必要です。
外国人労働者が安心して職務に専念するためには、日常生活のフォローも欠かせません。役所の手続きや病院へ行くとき、賃貸物件を借りるときなど、企業の手助けが必要となります。
外国人労働者を雇用する場合、ハローワークや外国人雇用サービスセンター、民間派遣業者を利用していましたが、「特定技能1号・2号」の外国人労働者を採用するためには、登録支援機関・受入れ機関との連携が必要です。
外国人労働者を受入れるための基準をクリアしていない場合、出入国在留管理庁から指導・改善命令を受けることがあります。
価値観や言語、文化が異なる外国人労働者を受け入れるにあたって、長期休暇の取得時期や採用タイミングも見直しの対象となります。
日本人労働者だけでなく、外国人にも分かるジョブディスクリプション(職務記述書)を明示し、外国人労働者に納得して働いてもらうことが大切です。
外国人労働者を雇用した後、企業は契約周りや支援計画の作成、出入国在留管理庁への届出といった点に注意を払わなければなりません。
特定技能の在留資格を取得した外国人を雇用する場合、以下の項目に注意して「特定技能雇用契約」を締結しなければなりません。
【引用】特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令
「1号特定技能外国人支援計画」とは、1号特定技能外国人が日本で働くうえで、職業上だけではなく日常生活や社会生活での支援をどのように行うのか示した計画です。1号特定技能外国人支援計画書は、在留資格の申請や変更申請の際に添付する重要な書類のひとつになります。
1号特定技能外国人支援計画書は、日本語で作成および、雇用する外国人労働者が十分に理解できる言語で作成し、その写しを交付しなければなりません。
外国人労働者を受入れる企業は、1号特定技能外国人支援計画に基づいて支援を行わなければなりませんが、支援計画の全部または一部を「登録支援機関」に委託することもできます。
【引用】「特定技能外国人を受け入れる際のポイント」出入国在留管理庁
企業は、以下のような場合に、出入国在留管理庁へ各種届出をしなければなりません。
「外国人労働者をどの程度受け入れるのか」、「人手不足が解消された場合、受け入れた外国人労働者をどうするのか」、「日本人雇用への影響は?」など、さまざまな課題を解決しながらも入管法を活用した労働者確保が急務とされています。
外国人労働者の受け入れなしでは5年後10年後の日本経済を維持できない状況に追い込まれています。
人材不足を解消して日本を豊かにするためには、不法就労や正規のルート外で労働によってもたらされる低賃金や過重労働といった劣悪な労働環境を排除し、外国人労働者との共生に向けた一歩を踏み出すことが大切です。
ソビア社会保険労務士事務所の創業者兼顧問。税理士事務所勤務時代に社労士事務所を立ち上げ、人事労務設計の改善サポートに取り組む。開業4年で顧問先300社以上、売上2億円超達成。近年では企業の人を軸とした経営改善や働き方改革に取り組んでいる。
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