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アンケート2025年から、所得税の支払い義務が発生するボーダーラインである「103万円の壁」が最大160万円まで引き上げられることが決まっています。この引き上げにより、現在年収103万円以下の方の働き方などは変わるのでしょうか?
そこで労務SEARCH編集部では、103万円の壁の引き上げに関する影響を把握するため、年収103万円以下の男女300名を対象にアンケート調査を実施しました。
目次
まず、今回のアンケート調査は、10代以上の現在年収103万円以下で働いている男女300名を対象に実施しました。回答者の具体的な属性は以下のとおりです。
雇用形態に関しては「パートタイマー・アルバイト」が58.4%と最も多く、その他は「フリーランス」が16.3%、「正社員」が8.7%、「契約社員」が3.3%、「派遣社員」が2.0%、「その他」が11.3%でした。
世帯状況に関しては「夫婦+子供あり」の方が49.0%と約半数を占めていて、次いで「独身(一人暮らし・実家暮らしを含む)」が26.7%、「夫婦のみの世帯(子供なし)」が16.0%、「ひとり親(子供と同居)」が4.0%、「その他」が4.3%となっています。
これらの属性から、本調査の回答者は、主にパートタイマー・アルバイトとして働き、世帯主(配偶者)の扶養に入っている可能性の高い方が多い傾向にあることがわかります。
では早速、103万円の壁に関する調査結果を見ていきましょう。
最初に、あなたは現在、103万円の壁を意識して働いていますか?と質問してみました。その結果「はい」が57.7%、「いいえ」が29.7%、「どちらとも言えない」が12.6%となりました。
この結果から、年収103万円以下の場合、103万円の壁を意識して働いている方のほうが多い現状がうかがえます。これは、年収103万円を超えると所得税の負担の発生や配偶者控除などに影響するためと考えられます。
次に、前問で「はい」(103万円の壁を意識して働いている)と回答した方に向けて、103万円の壁を意識して実際におこなっていること、または考えていることに最も近いものを選んでもらいました。
その結果、第1位は「勤務日数や労働時間を調整している」で43.9%、第2位は「月の収入を調整し年収を把握している」で28.3%、第3位は「社会保険の加入対象とならないようにしている」で9.3%、第4位は「配偶者の所得税控除(配偶者控除・配偶者特別控除)が外れないように配慮している」と「本当はもっと働きたいが扶養を外れるのが不安で働いていない」が同率で6.9%、第5位は「年末調整や確定申告が面倒なので扶養内におさめている」で4.1%となりました。
これらの回答から、103万円の壁を意識して働いている方は、働く日数や時間を調整したり、毎月の収入を細かく管理したりして、年収を103万円以内に抑えているようです。
また「社会保険の加入対象とならないようにしている」と回答した方も一定数いることから、103万円の壁を意識して働いている方は、社会保険への加入義務が発生する『106万円の壁』や『130万円の壁』なども同時に意識しているケースもあることがうかがえます。
2025年3月、2025年予算案が衆議院を通過し、103万円の壁は最大160万円まで引き上げられることが決定しました。これにより、年収200万円以下の給与所得者は、所得税がかからないラインが160万円まで引き上げられることになります。
ここからは、そんな103万円の壁の引き上げについて、現在年収103万円以下の方はどのように感じているかなどを調査してみました。
今回のアンケート調査回答者300名のうち、2025年以降、103万円の壁が最大160万円まで引き上げられることについて「知っていた」方は74.3%でした。
7割以上の方が制度変更については知っているようですが、では、103万円の壁の引き上げによる影響を、しっかりと理解している方はどれくらいいるのでしょうか。
そこで次に、103万円の壁が160万円の壁となることによる影響について、どの程度理解していますか?と質問してみました。
その結果「なんとなく理解している」が56.7%と半数以上を占め、次いで「あまり理解していない」が28.3%、「十分に理解している」が8.3%、「全く理解していない」が6.7%となりました。
程度に差はあるものの「理解している」方は合計で65.0%、「理解していない」方は合計で35.0%となっています。しかし「十分に理解している」と回答した方は1割にも満たないことから、103万円の壁の引き上げに関する理解度は低い状況であると言えるでしょう。
次に、103万円の壁が160万円の壁となることについて、どのように感じていますか?と聞いてみたところ、最も多かったのは「制度が複雑になったと思う」で25.7%でした。
次いで「収入が増えると思う」が24.3%、「特に何も感じない/わからない」が17.7%、「働きやすくなると思う」が16.7%、「十分な引き上げではないと思う」が14.3%と続きました。
この結果から、103万円の壁の引き上げによって、収入が増やせるようになることへの期待感が一定数ある一方で、税金や社会保険の仕組みがさらにわかりづらくなったと感じている方も同程度存在することがわかります。
年収の壁問題は103万円の壁だけでなく、106万円、130万円、150万円など複数存在します。そこに新たな160万円の壁が追加されることで、労働者としてはどの年収ラインで何が変わるのかが把握しにくくなり、混乱を招きやすい状況になると言えるでしょう。
そのため、扶養内で働く従業員やパートタイマー・アルバイトとして働く従業員がいる企業の場合、人事・労務担当者は各年収の壁についてわかりやすく説明できるようにしておく必要があります。
また、160万円までの引き上げに関して「十分な引き上げではない」と感じている方は、希望する収入増加額に対して、今回の引き上げだけでは不十分と考えているか、あるいは社会保険料負担の増加など、収入増に伴う手取り額の減少を懸念している可能性があります。
ここからは、現在年収103万円以下で働く方が、今後働き方をどう変えるのかについて調査してみました。
最初に、103万円の壁が160万円の壁となることで、あなたの働き方はどのように変わると思いますか?と質問してみました。
その結果、第1位は「まだわからない/決めていない」で19.7%、第2位は「年収を少しずつ増やす方向で働き方を調整したいと思う」で19.0%、第3位は「勤務日数や労働時間を増やしたいと思う」で18.0%、第4位は「現在の生活スタイルを重視しているため、働き方は変えない」で17.3%となりました。
第2位と第3位の回答を合わせると、37.0%の方が今回の引き上げをきっかけに、収入を増やす方向で働き方を変えたいと考えていることがわかります。これまで103万円の壁があることで労働時間を抑えていた人にとって、今回の制度変更は、働く機会を広げるチャンスになる可能性があると言えるでしょう。
また、注目すべきは「所得税は気にならなくなっても他の年収の壁があるため様子を見ながら働く」という回答が8.0%、「増税や制度変更が不安なので今の働き方はしばらく変えないと思う」が6.7%、「働ける選択肢が広がるのでより希望に合った仕事を探したいと思う」が6.0%、「社会保険への加入を検討したいと思う」が2.7%あった点です。
これらの回答からは、単に103万円の壁がなくなったからといって無条件に収入を増やすのではなく、社会保険への加入義務や、配偶者の税控除に影響が出るラインなど、他の年収の壁の存在を意識している方が一定数いることがうかがえます。
特に社会保険の加入による保険料の負担の増加は、手取り収入を大きく減らす可能性があるため、ここを慎重に検討している方は多いでしょう。
103万円の壁が160万円の壁となることで、どの程度の年収の増加を考えていますか?といった質問には、第1位が「具体的な目標はないができる範囲で増やしたい」で24.4%、第2位が「年収を160万円程度まで増やしたい」で20.7%、第3位が「まだわからない」で20.4%となりました。
「社会保険の加入義務が発生しないラインまで年収を増やしたい」と回答した方も11.3%おり、収入は増やしたいが社会保険には加入したくないと考えている方も少なくないことがわかります。
また「年収を200万円程度まで増やしたい」という方も7.3%おり、今回の制度変更を、大幅な収入アップの機会と捉える方も一定数いるようです。
最後に、今回の103万円の壁の引き上げを踏まえ、今後、自身の収入や働き方についてどのような情報を得たいか聞いてみた結果、最も多かったのは「年収と手取り額のシミュレーション」(31.4%)でした。
次いで「配偶者控除や扶養に関する情報」が23.3%、「社会保険の加入条件や保険料」が17.0%、「所得税の具体的な計算方法」が13.3%、「住民税の具体的な計算方法」が11.3%と続いています。
この結果から多くの方が、103万円の壁の引き上げによって労働時間などを変更した場合、自身の手取り収入がいくら変わるのか、社会保険に加入すると保険料がいくらになるのか、配偶者の税控除はどうなるのかといった、家計に直結する具体的な情報を強く求めていることが明らかとなりました。
抽象的な制度の説明だけでなく、自身の年収や働き方に沿った、具体的な税金の金額・社会保険料・手取り収入額などの情報提供が求められていると言えるでしょう。先述したとおり年収の壁は複数存在するため、それぞれのラインを超えた場合にどのような影響があるのか、シミュレーションを通じてわかりやすく示すことが重要そうです。
今回の調査で、年収103万円以下で働く多くの人が「103万円の壁」を意識して働き方を調整していることがわかりました。2025年からの160万円への引き上げについては、7割以上の人が知っているものの、具体的な内容や自分への影響を「十分に理解している」人は1割未満でした。
制度変更への感じ方はさまざまで、収入アップや働きやすさへの期待がある一方、制度が複雑になることや将来への不安を感じる方も多くいます。今後の働き方については、労働時間を増やして収入を上げたい人が多い反面、社会保険への加入義務など他の「年収の壁」を気にして慎重になる人も一定数います。
多くの人が知りたがっているのは、以下のような具体的な情報です。
複数の年収の壁が複雑に関わり合う現在の制度では、個人が自分に合った最適な働き方を選ぶために、正確でわかりやすい情報が欠かせません。企業は、従業員が年収の壁について正しく理解し安心して働き方を検討できるよう、制度に関する情報を積極的に提供しましょう。
調査名 | 年収の壁の引き上げに関するアンケート |
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調査対象 | 10代以上の現在、年収103万円以下の働いている男女300名 |
調査期間 | 2025年4月30日~2025年5月9日 |
調査方法 | インターネット調査 |
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