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人材・組織リスクマネジメントの不手際により、業務改善命令が発令される企業が増えており、多くの企業でコンプライアンスやリスクマネジメントを策定する動きがみられます。
企業や組織の存続を左右するリスクマネジメントでは、「顕在的・潜在的なリスクは何か」をしっかり把握することが大切です。しかし、リスクの性質と種類を正確に把握することは、決して容易ではありません。
この記事では、人事労務管理におけるリスク対策と、リスクマネジメントの必要性を詳しく解説します。
目次
リスクマネジメントとは、企業経営において生じる損失=リスクを正確に把握し、その影響を最小化するための対策を事前に講じるプロセスのことをいいます。これから起こりうるリスクに備えて、日ごろから対応策を練ることで、リスクが顕在化したとき、迅速に対処することができます。
テロや災害、システム障害、不祥事といった危機的状況下に置かれた場合でも、重要な業務が継続できるBCP(事業継続計画)を用意しておくことが大切です。IT技術やインフラの進歩、経済のグローバル化により、企業を取り巻くリスクが多様化しているいま、リスクマネジメントは経営を改善し、経済活動を存続するうえで必要不可欠といえるでしょう。
危機管理とは、すでに起こった損失を事後的に極小化することを指し、英語で「クライシスマネジメント」と呼ばれます。具体例として、SNSの炎上やリコールへの対処が挙げられます。
リスクヘッジとは、一つの局面に対してリスクを回避する策を講じることをいいます。株式業界で頻繁に使われる用語で、投資の損益が特定銘柄の株式の上下に依存しないよう、さまざまな業種の株式に分散投資する方法などが挙げられます。
リスクマネジメントは想定されるリスクをあらかじめすべて洗い出し、順序よく取り組む必要があります。
リスクマネジメントの策定は「リスクの発見」、「リスクの分析」、「リスクの評価」、「リスクへの対応」の4つのステップに分けて実施していきます。
リスクマネジメントを成功させるためには、多方面から自社のリスクを洗い出すことが大切です。想定されるリスクには、以下のような種類があります。
財産損失リスク |
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収入減少リスク |
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人的損失リスク |
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賠償責任リスク |
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また、リスクを発見するには、以下のような方法が有効です。
リストアップ | チェックリスト法やアンケート法によって、リスクを洗い出していく方法 |
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プロセスチェック | フローチャート法を用いて、業務フロー記載し、想定されるリスクを洗い出す方法 |
シナリオ・アプローチ | 将来の投資状況を想定し、それぞれのシナリオの生起確率を推測。市場を予測する方法 |
財務分析・会計データ活用 | 財務・会計を基準に、投機の可否や損失リスクを予想する方法 |
詳細調査 | インタビューや文章チェックなどのアプローチから詳細を調査し、リスクを洗い出す方法 |
比較分析 | 強み、弱み、内的要因、外的要因を分析し、比較可能な事象のリスクを洗い出す方法 |
リスク管理部門の設置 | 取締役会で指名された執行役を委員長とする委員会を定期的に開催し、抽出されたリスクとその対応策を確認する方法 |
洗い出したリスクによる「影響の大きさ」と「発生確率」を特定し、リスクの重大さを比較します。例えば、不良品によるリコール発生は、過去の事例や他社の事例を参考に推計しましょう。商品回収による影響のほか、リコール対応に必要な人件費や損失も含めることが重要です。ただし、人命に関わる事故や、企業の信頼損失など、「影響の大きさ」や「発生確率」の把握が難しいケースもあります。まずは関係者と議論のうえ、発見したリスクを相対的に比べてみましょう。
リスク分析を終えたら、リスクを可視化するためリスクマップを作成します。
「影響の大きさ」をx軸、「発生確率」をy軸にすると、優先すべきリスクが明確になります。影響の大きさを選定する基準となる項目は、「金銭的損失」と企業イメージや人命などの「非金銭的損失」に分類するとよいでしょう。リスクの重大さはもちろん、対応の順序にも着目すると、リスク対応がスムーズになります。
リスクを洗い出しリスク評価を終えたら、具体的な対応策を考えます。代表的な対応策として、以下の4つの戦略があります。
リスク低減 | ポートフォリオ経営やジョイントベンチャー化により、リスクの低減化を検討します。
ポートフォリオ経営:投資先や金融商品を組み合わせた有価証券・金融資産の一覧表(ポートフォリオ)を構築、メンテナンスしながら経営すること ジョイントベンチャー化:複数の企業が互いに出資し、新しい会社を立ち上げて事業を行うこと |
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リスク移転 | 保険への加入や証券化など、ファイナンス手法を活用することにより、リスクの移転を検討します。 |
リスク許容 | 将来の期待収益を損なわない範囲で、リスクを許容することも一つの戦略です。 |
リスク回避 | リスク管理ができない場合、事業売却などを検討せざるを得ません。 |
企業にとって、必要不可欠な人財「ヒト」にまつわるトラブルは、大きな損失につながります。残業代や給与の未払いをはじめ、昇給・降給のタイミング、人事異動など、人事労務管理上のリスクを上手く回避しなければなりません。どのような点に注意すべきなのか詳しく解説します。
人事異動は、労働者にとって重要な通達の一つです。使用者からトップダウンという形で「発令」され、労働者へ通知されるのが一般的ですが、無制限に労働者の異動を決定できるわけではありません。
労働契約上、使用者側には「人事権」が認められていますが、あくまで労働契約に基づくものであり、この範囲を超えての行使は認められていません。「権利濫用法理に基づく制限」や「法律などによって定められた制限」、「労働契約(就業規則や労働協約など)によって定められた制限」によって人事権は制限されます。
企業が行うべき法定手続きには、以下のような項目があります。
「うっかり忘れていた」「あとで手続きしようと思っていた」では済まされません。
後述する「年次スケジュールの把握」の表と合わせて確認しておきましょう。
年末調整とは、給与所得者の1年間の所得税額を計算し、その年に源泉徴収した所得税との過不足を精算する制度です。正社員やアルバイト、パートなど、雇用形態にかかわらず給与を支払っているすべての労働者が対象となります。
年度更新とは、年に一度その年度の見込み給与を基に、雇用保険料と労災保険料を算定・申告し、企業がまとめて前払いする「労働保険の年度更新」のことをいいます。6月1日から7月10日までの間に、4月から3月の1年間の労働保険料の計算をし、申告、納付を行う必要があります。
36(サブロク)協定とは、「時間外・休日労働に関する協定届」のことをいいます。2019年4月1日に施行された「働き方改革関連法」の中で、36協定で定める時間外労働時間に、罰則付きの上限が設けられました。
法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働、および休日勤務などを命じる場合、労使間で「36協定」を締結し、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。
月変(げっぺん)とは、被保険者月額変更届の提出による標準報酬月額の改定のことをいいます。年度途中に昇給や降給に伴って報酬が大幅に変わったとき、社会保険料算出の基準となる標準報酬月額がそのままの状態では、社会保険料の金額が合わなくなってしまいます。そのため、年に一度、7月に基礎算定届の提出によって行う定時決定を待たずに標準報酬月額を変更する手続きが必要です。
給与支払報告書とは、給与を支払った場合に、従業員の1月1日における所在地の市区町村に提出しなければならない書類です。年末調整が終わってから、1月31日までに提出する必要があります。
対象者は、その年に一度でも給与を支払ったアルバイト・パート・役員を含むすべての従業員です。提出が遅れると、本来12カ月かけて納付する住民税を11カ月、10カ月と短い期間で支払うため、1カ月あたりの金額が高くなり労働者の負担が増えてしまうので注意しましょう。
2020年4月から、特定の法人を対象に社会保険・労働保険に関する一部の手続きの電子申請が義務化されます。
電子申請義務化の対象となる特定の法人は、以下のいずれかにあてはまる企業となります。
電子申請義務化対象となる届出等は以下となります。
社会保険の種類 | 届出等 |
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健康保険 厚生年金保険 |
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労働保険 |
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雇用保険 |
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社会保険労務士や社会保険労務士法人が特定の法人に代わって手続きを行う場合も対象となります。
【出典】2020年4月から特定の法人について電子申請が義務化されます。|厚生労働省
また、2019年4月に施行された「働き方改革関連法」の追加施行により、中小企業も2020年4月1日から「時間外労働の上限規制」が導入されます。時間外労働の上限は、原則月45時間、年360時間です。臨時的な特別な事情がある場合も、年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定する必要があります。
企業情報の表面化や価値観の多様化、労働者の権利意識の向上により、下記のような人事労務トラブルが多数発生しています。企業にとって大きなリスクとなり得る「残業代・給与未払い」や「解雇・リストラ」、「ハラスメント」、「メンタルヘルス不調」について、詳しく解説します。
残業代や給与の未払いがある場合、労働者が労働基準監督署に申告する可能性があります。
申告によって立ち入り検査が行われると、法令違反がある場合、是正勧告がされ、法令違反はない場合、指導票が交付されます。是正勧告には強制力はありませんが、悪質と判断された場合、懲役刑や罰金刑を受けるリスクがあるため、注意が必要です。
解雇やリストラは、一歩間違えると「不正解雇」や「退職強要」として訴えられるケースがあります。労働者を解雇する前には、以下の点に注意しましょう。
解雇予告 | 労働基準法第20条によって、解雇予告を行うことが義務づけられています。 |
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正当な解雇理由があるか | 就業規則に解雇事由があり、それに該当する場合。 当該事由により、雇用継続が客観的に困難と認められるような場合、正当な理由と認められます。 |
リストラ後の人員配置について | 労働者をリストラした後、どのような人員配置をするのか配置表や組織表を見直しましょう。 |
職場での嫌がらせや「パワーハラスメント」や「セクシャル・ハラスメント」、「モラルハラスメント」は、労働者を精神的に追い込む原因の一つです。精神疾患による退職や、自殺に発展するケースもあるので、慎重に対応しなければなりません。
ハラスメントや、長時間労働によるストレスが原因で、メンタルヘルスの不調を訴える労働者が増えています。労働者がメンタルヘルス不調になると、業務の遂行能力はもちろん、集中力や注意力も低下するため、思わぬ事故やトラブルに発展することがあります。
人事労務トラブルは、企業に大きな損失をもたらします。トラブルを未然に防ぐためには、正しい知識を持って人事労務管理を行わなければなりません。人事労務リスクを回避するために企業がすべきこと、トラブルを予防するポイントを解説します。年次スケジュールや管理システムを活用し、法定手続きの申告漏れに注意しましょう。
法定手続きや法改正の動きを見逃すことがないようにチェックしましょう。また計画的に人事労務管理を行う体制を整えることが大切です。下記のような年次スケジュール表を作成すると、申告漏れを予防できます。
時期 | 法定手続き |
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3~4月 | 入退社の処理 |
5月 | 新年度の住民税の通知 |
6月 | 労働保険の年度更新 |
7月 | 社会保険料の定時決定(算定基礎届の提出) |
11~12月 | 年末調整 |
1月 | 法定調書や給与支払報告書の提出 |
2020年4月の電子申請義務化に伴い、人事労務管理の自動化に対する関心が高まっています。
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