社会問題に発展しているハラスメントは、労働トラブルに発展しやすい重要な課題です。
当事者は気づかずにハラスメントをしてしまっていることも多く、訴訟になってはじめて事の重大さに気づく場合が多いといえます。
本記事では、労働トラブルを未然に防止するためにハラスメントの意味や種類を解説します。
目次
職場のハラスメントとは、職場でおこなわれる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素をすべて満たすものと定義します。
客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲でおこなわれる適正な業務指示や指導は、ハラスメントに該当しません。
では職場のハラスメントとは、どのような種類があるのでしょうか?以下に、職場で起こりやすい代表的なハラスメントの種類を一覧表でまとめてみました。
種類 | 該当する言動(一例) |
---|---|
セクシャルハラスメント | ・労働者の意に反した性的な言動 ・性的な言動により就業環境が害されること |
パワーハラスメント | 地位や人間関係などの優位性を利用して、上司などから身体的・精神的苦痛を受ける |
マタニティハラスメント | 女性社員が妊娠・出産・育児に関して不当な扱いや嫌がらせを受ける |
パタニティハラスメント | ・男性社員が育休等を取得するのを阻止する ・男性社員が育休等を取ったことを理由に不当な扱いや嫌がらせを受ける |
ここからは、それぞれのハラスメントについて詳しく解説していきます。
セクシャルハラスメントとは、労働者の意に反する「性的な言動」により、労働条件について不利益を受け就業環境が害されるハラスメントです。男性から女性に対するハラスメントだけでなく、女性から男性への性的言動もセクハラとなるため、注意が必要です。
性的な言動とは、性的な内容の発言および性的な行動を指します。性的な内容の発言には、性的な事実関係を尋ねることなどが該当します。また性的な行動には、性的な関係を強要することなどが含まれます。
具体例 | |
---|---|
性的な発言 | ・性的な事実関係を尋ねること ・性的な内容の情報を意図的に流布すること |
性的な行動 | ・性的な関係を強要すること ・必要なく身体に触ること ・わいせつな図画を配付すること |
職場におけるセクシャルハラスメントは「対価型」と「環境型」の2種類があります。
対価型セクシャルハラスメントとは、職場において労働者の意に反する性的な言動がおこなわれ、それに対して拒否・抵抗などをしたことで、労働者が解雇、降格、減給などの不利益を受けるハラスメントです。
環境型セクシャルハラスメントとは、職場でおこなわれる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な影響が生じるなど労働者が就業するうえで見過ごせない程度の支障が生じることが該当します。
パワーハラスメントとは、職場において、地位や人間関係などの優位性を利用して、業務の適正な範囲を超えて、身体的・精神的苦痛を与える行為や職場環境を悪化させる行為です。
マタニティハラスメントとは妊娠・出産したこと、育児のための制度を利用したことなどに関して、上司・同僚が就業環境を害する言動をおこなうハラスメントです。マタハラは、解雇や減給、雇止め、上司や同僚からの嫌がらせも該当します。
パタニティハラスメントとは、配偶者の妊娠・出産・育児に関わる男性に向けられたハラスメントです。男女平等の現代においても「妊娠・出産・育児は女性」というイメージが強いため、顕在化しにくいハラスメントでもあります。
職場外や採用でもハラスメントは起きやすく、企業としてコンプライアンス研修をおこなうことが大切です。
職場外や採用で起こる主なハラスメントの種類は以下の通りです。
種類 | 該当する事例 |
---|---|
アルコールハラスメント | ・飲酒を強要する ・飲酒量を競わせる など |
オワハラ | ・就職活動終了の強要 ・就職意思のない就活生への圧力 など |
モラルハラスメント | ・精神的な侮辱 ・過剰な管理と制限 など |
アルコールハラスメントとは、飲酒の強要など酒席の場での迷惑行為が該当するハラスメントです。酔っぱらって周囲を不快にする、迷惑をかけるという印象がありますが、無理やりお酒を飲ませる行為もハラスメントに該当します。
「内定出すからこの場で、ほかの内定先に断りの電話を入れてほしい」など、学生の就職活動を終わらせようとする行為もハラスメントです。内定辞退を避けたいがための行動ではありますが、企業イメージの毀損にもつながる重大なハラスメントです。
モラルハラスメントは、パワハラやセクハラ、マタハラなどに該当しないもの(意図的に無視する行為や、常識を挙げて相手を非難する行為)が該当する場合が多いといえます。
そのほかにもハラスメントとされているものはたくさんあります。いくつかご紹介します。
種類 | 該当する事例 |
---|---|
スメルハラスメント | ・体臭や口臭がキツイ など |
カラオケハラスメント | ・強制的に歌わせる ・歌唱力を馬鹿にする など |
ブラッドハラスメント | ・血液型での差別 ・血液型による役割分担 など |
ハラスメント・ハラスメント | ・過剰にハラスメントを主張する など |
スメルハラスメントは、匂いのきつい香水や体臭などによって周囲を不快な気持ちに与える行為が該当します。匂いは好みがあるため、気づかないうちに加害者となっているかもしれません。
カラオケハラスメントとは、部下や後輩などに、無理やりカラオケを歌わせる行為が該当します。パワーハラスメントの延長線上にある行為ともいえます。
ブラッドハラスメントは血液型診断などの不確定要素の多い事象で相手の性格を決めつける、不快な気分にさせる行為が該当します。
上司が部下から受けるハラスメントです。一般常識の範囲内で仕事に関する注意をしただけで、ハラスメントとして訴えてくるという事例が増えています。
現在ではセクシャルハラスメントやパワーハラスメントといった有名なハラスメントだけではなく、さまざまな行為がハラスメントに該当しやすいといえます。
相手に対して不快な気持ちにさせる行為だけでなく「ハラスメントを受けた」ことを盾にして、相手を責め立てる事例も問題となっています。
何気ない行為でもハラスメントと捉えられてしまうため、本人が気づかないうちに加害者になってしまうことを防ぐためにもコンプライアンス研修の導入を徹底しましょう。
労働問題を解決する情報は、こちらの記事で詳しく解説されています。あわせてご確認ください。
1984年生まれ。社会保険労務士。
都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談(病院側・労働者側双方)や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名以上。独立後は年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。
詳しいプロフィールはこちら