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フリーランス新法を守るには?企業側の対応の流れと条文をかんたん解説

フリーランス新法を守るには?企業側の対応の流れと条文をかんたん解説

監修者:労務SEARCH 編集部
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働き方の多様化が進み、企業においても、専門性の高い業務を外部のフリーランスに委託するケースが増えています。 しかし、フリーランスと企業間における取引では、契約内容が曖昧だったり報酬が未払いだったりするトラブルも発生していました。 こうした状況を改善し、フリーランスが安心して働ける環境を整備するため、2024年11月1日に「フリーランス新法」が施行されました。

この記事では、フリーランス新法の概要、特に人事・労務に関わる内容について詳しく解説し、具体的に人事・労務担当者がどのような対応を取ればよいのかもわかりやすく解説していきます。

2024年11月からフリーランス新法が施行

2024年11月1日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が施行されました。これにより企業は、個人で働くフリーランスに対し、業務委託をした際の取引条件の明示、原則60日以内の報酬の支払い、ハラスメント対策のための体制整備などが義務付けられます。

呼称の違い

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)はフリーランス新法、フリーランス法、フリーランス保護新法とも呼ばれています。当記事では「フリーランス新法」という呼称で統一します。

フリーランス新法が施行される背景

近年、働き方の多様化に伴い、企業におけるフリーランスの活用がますます増加しています。専門性の高いスキルを持つフリーランスに業務を委託することで、企業は必要な時に必要なスキルを確保できるというメリットがあります。しかし、フリーランスとの取引においては、契約内容や業務範囲などが曖昧になりやすく、トラブルに発展するケースも少なくありません。

フリーランスの約7割が報酬額について十分な協議がおこなわれていないと回答

実際に、公正取引委員会と厚生労働省が共同でおこなった「フリーランス取引の状況についての実態調査」では、『報酬の支払い期日について、60日以内に支払われなかったことがある』と回答したフリーランスの割合が21.9%にのぼっています。また、『報酬額が十分に協議されずに決定されたことがある』と回答した人の割合は67.1%にのぼっており、取引条件の明示や報酬に関するトラブルが多い実態が明らかになりました。

こうした背景から、フリーランスとの取引の適正化を図るためにフリーランス新法が施行されました。この法律は、フリーランスの保護だけでなく、企業にとっても健全な取引環境を構築し、優秀なフリーランス人材を確保できるメリットがあります。

新法施行の要因となったその他の問題
  • 口約束のみで契約が成立したり、書面があっても内容が不明確な場合があったり、トラブルに発展しやすかった
  • 報酬の額や支払い期日が明確に定められていなかったり、一方的に減額されたり、支払いが遅延するケースが見られた
  • フリーランスに対するハラスメント行為が発生しても、相談できる窓口がなく、泣き寝入りを強いられるケースがあった
  • 十分な理由もなく、契約を一方的に解除されるケースがあった

フリーランス新法の内容は?条文をわかりやすく解説

フリーランス新法は、フリーランスと企業双方に、新たな義務と禁止行為を設けています。本法は大きく分けて「取引の適正化」と「就業環境の整備」という2つの柱で構成されており、企業の人事・労務担当者は特に以下のポイントを押さえておく必要があります。

なお本法では、フリーランスを「特定受託事業者」、企業を「特定業務委託事業者」と定義しています。

定義
特定受託事業者 業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないもの
→具体的には、企業に属さず個人で働く方/一人社長/一人親方など
特定業務委託事業者 特定受託事業者に業務委託をする事業者で、従業員を使用するもの

ポイント1. 取引の適正化

「取引の適正化」においては、2つの義務7つの禁止行為が定められています。

① 取引条件を書面またはメールなどで直ちに明示する

フリーランスに業務委託をする場合、企業は直ちに書面またはメールなどで、以下の取引条件を明示しなければなりません。なお、フリーランス同士の取引の場合は、発注側のフリーランスに取引条件を明示することが義務付けられます。

明示すべき取引条件
  • 業務内容
  • 報酬額
  • 支払い期日
  • 発注事業者・フリーランスの名称
  • 業務委託をした日
  • 給付を受領/役務提供を受ける日
  • 給付を受領/役務提供を受ける場所
  • (検査をおこなう場合)検査完了日
  • (現金以外の方法で支払う場合)報酬の支払い方法に関する必要事項

② 報酬の支払いは原則60日以内

企業は、フリーランスから成果物を受け取った日や契約通りの業務が完了した日などから、原則60日以内に報酬を支払わなければなりません。ただし、フリーランスがさらに別の事業者に再委託している場合は、発注元から支払いを受ける期日から30日以内となります。

③ 7つの禁止行為!違反すると罰則が科される可能性あり

企業は、フリーランスとの業務委託において、以下の行為を禁止されています。

禁止行為一覧

  1. 受領拒否
    フリーランスに落ち度がないのに、成果物の受領を拒否すること。企業側の一方的な都合によるキャンセルも受領拒否にあたる
  2. 報酬の減額
    フリーランスに落ち度がないのに、発注時に決定した報酬の額を発注後に減らすこと
  3. 返品
    フリーランスに落ち度がないのに、成果物などを受領した後に返品すること
  4. 買いたたき
    通常の報酬額に比べて著しく低い報酬額を不当に定めること
  5. 購入・利用強制
    正当な理由なく、業務に関連のない製品やサービスの購入、利用の強制をすること
  6. 不当な経済上の利益の提供要請
    協賛金を提供させたり、本来依頼していない業務を無償でやらせたりすることなど
  7. 不当な給付内容の変更・やり直し
    フリーランスに落ち度がないのに、フリーランスが作業に要した費用を負担することなく、業務内容を変更させたり、やり直しをさせたりすること

これらの行為は、フリーランスの利益を不当に害する可能性があるため、フリーランスの権利を守るためにも重要な規定です。 万が一企業がこれに違反した場合は、公正取引委員会、中小企業庁長官または厚生労働大臣から勧告や命令を受ける可能性があります。もし命令に従わない場合には、罰金が科されることもあります。

ポイント2. 就業環境の整備

「就業環境の整備」においては、4つの義務が定められています。

① 募集情報を正確に表示する

企業は、広告などで募集情報を出す場合、以下の点を守らなければなりません。

募集情報に関する留意点

  1. 業務内容、報酬額、労働時間など、事実と異なる情報や誤解を与えるような情報を掲載してはいけません
  2. 募集情報は常に正確かつ最新の状態に保ち、変更があった場合は速やかに更新する必要があります

② 育児・介護などと業務の両立に対する配慮が義務に

企業は、妊娠・出産・育児・介護と業務を両立できるよう、一定期間継続する契約を締結しているフリーランスから申出があった場合は、必要な配慮をしなければなりません。 具体的な配慮の内容は、個々の事情に応じて決定されますが、たとえば、勤務時間や勤務場所の柔軟化、業務量の調整などが考えられます。

③ ハラスメント対策

企業は、セクハラパワハラマタハラなどのハラスメント行為によりフリーランスの就業環境を害することのないよう、体制整備などの以下の措置を講じる必要があります。

フリーランスに対するハラスメント対策

  1. 方針の明確化と周知
    フリーランスに対するハラスメントをおこなってはならない旨の方針を明確化し、社内に周知する
  2. 相談対応のための体制整備
    フリーランスがハラスメントを受けた際に相談できる窓口を設置する

④中途解除などは少なくとも30日前までにおこなう

企業は、一定期間継続する契約を解除する場合や更新しない場合、フリーランスに対して少なくとも30日前までにその旨を伝えなければなりません。

フリーランス新法施行に伴う人事・労務担当者の対応

フリーランス新法の施行に伴い、企業の人事・労務担当者は、以下の対応策を具体的に検討し、実行に移していく必要があります。

1. 本法の内容を理解する

まずは、本法の内容をしっかりと理解することが重要です。公正取引委員会や厚生労働省などのウェブサイトに掲載されている資料やQ&Aなどを参考にして、理解を深めましょう。

人事・労務担当者以外に経営層や契約担当者など、フリーランスと関わる従業員がいる場合は、社内ポータルサイトや社内報などを活用し、フリーランス新法の内容や社内ルールの周知もおこないます。

2. 取引実態の把握と課題の洗い出し

現在、フリーランスとどのような契約を結んでいるか、取引条件、報酬の支払い状況などを調査します。次に、本法に適合していない点や改善が必要な点などを洗い出します。

3. 契約書などの見直し

自社の業務内容に合わせた契約書を作成または見直しをしましょう。取引条件の明示が義務付けられたため、業務内容・報酬額・支払い期日などは明確に記載し、曖昧な表現を避けることが重要です。また、法令で禁止されている行為が含まれていないかを確認し、必要に応じて修正します。

4. 相談窓口の設置

フリーランスに対するハラスメントをおこなってはならない旨の方針を明確化し、社内に周知します。また、フリーランスがハラスメントを受けた際に相談できる窓口の設置も必要です。

まとめ

従来、フリーランスは「自由な働き方」の象徴として捉えられてきましたが、報酬の未払い・一方的な契約解除・ハラスメントなど、弱い立場に置かれやすいという問題も抱えていました。そのためフリーランス新法の施行が、フリーランスと企業双方にとって大きな変化となります。

企業は本法を遵守することで、フリーランスとの信頼関係を築き、より良いビジネスパートナーシップを構築していくことが重要です。企業の人事・労務担当者は、本法の内容を理解し、適切な対応策を講じることで、企業のコンプライアンス強化とフリーランスとの良好な関係を築いていきましょう。

監修者労務SEARCH 編集部

労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
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