タイムカードは、従業員の労働時間を正確に把握するためのシステムです。しかし、タイムカードをつい押し忘れてしまう従業員が多く、頭を抱えている人事・総務担当者も少なくありません。
また、タイムカードの押し忘れは、思いもよらないトラブルを発生させるリスクもあります。本記事ではタイムカードの押し忘れを防ぐ対策や、打刻漏れが生じる理由について解説します。
目次
タイムカードが必要な理由は、勤怠状況を正確に管理するためです。事業主は雇用する従業員に対して、勤務状況に応じた正確な給与を支払わなければなりません。
しかし、タイムカードがなく正確な出退勤時間を記録できていないと、正確な就業時間がわからず結果として正しい給与を支払えない問題が発生してしまいます。給与を正しく支払わなければ従業員とのトラブルに発展し、場合によっては労働基準法違反で罰則を科される可能性もあります。
上記のリスクを防ぐためにも、就業時間を正確に管理できるタイムカードが必要です。
タイムカードの押し忘れを対策するためには、そもそもなぜ押し忘れるのかを理解しておくことが大切です。押し忘れる理由としては、主に以下の3つが考えられます。
タイムカードを押し忘れる一番の理由は、打刻が習慣化されていないことです。
どれだけタイムカードの重要性を周知していたとしても、習慣化されていないことはつい忘れてしまいます。特にタイムカードの打刻は始業前と終業後という忙しい時間帯におこなうため、頭から抜け落ちがちです。
タイムレコーダーが出退勤時に目に入りにくい位置に設置されていることも、押し忘れの原因となります。
たとえ打刻を忘れていたとしても、タイムレコーダーを目にすれば思い出す可能性が高いですが、設置場所が悪いと忘れたまま始業・帰宅してしまいます。
目立つ場所や従業員がよく通る場所にタイムレコーダーを設置するだけでも、打刻漏れをかなり防げるはずです。
従業員はタイムカードの重要性をそこまで認識していない場合が多いようです。そのため、打刻に手間がかかると面倒になり後回しにしてしまい、そのまま忘れて打刻漏れにつながります。
まずは打刻の重要性をしっかりと従業員に周知したうえで、スムーズに打刻できるシステムを導入することが大切です。
ただ従業員にタイムカードを押すように指示しても、押し忘れは防げません。しっかりと対策を講じて、押し忘れない仕組みを構築しましょう。
ここからは、簡単におこなえるうえに効果的な対策を5つご紹介します。
最も簡単におこなえるタイムカードの押し忘れ対策は、タイムレコーダーの設置場所を変えることです。
従業員の目に入りやすい場所にタイムレコーダーを設置するだけで、打刻漏れをかなり減らせます。たとえば出入り口や、従業員用の通路などに設置すると効果的です。
タイムカードへの意識を向けるために、従業員の目に入りやすい位置に張り紙やポスターを掲示することも打刻漏れ対策の一つです。目立つデザインや文言の掲示物を貼っておけば、従業員が打刻を忘れていたとしても思い出す可能性が高まります。
ただし、常に同じものを貼っていると効果が薄れるため、定期的に新しいデザイン・文言の張り紙・ポスターに張り替えるとより効果的です。
どれだけ対策を講じても、従業員の意識だけでは完全にタイムカードの押し忘れを防ぐことはできません。
そこで、タイムカードの打刻を確認する担当者を設けてダブルチェックをおこなうことで、より押し忘れるミスを減らせます。
また確認する担当を当番制にすれば、各従業員が当番のたびにチェックすることになるため、タイムカードの押し忘れに対する全体の意識を向上させる効果も期待できます。
どうしてもタイムカードを押し忘れが発生するなら、ペナルティを設けるのも一つの手です。
ただし、いきなり重いペナルティを設けることは従業員の士気を下げ、労働基準法違反に該当する恐れもあります。まずは軽いペナルティを与え、それでも改善しなければ徐々に重いペナルティを科しましょう。
また当然ですが、ペナルティを設ける際は従業員への周知を徹底し、さらに就業規則にも記載しておくとトラブルを避けられます。
タイムカードを押し忘れる原因の一つは、手間がかかるために従業員が打刻を後回しにしてしまうことです。そのため、簡単に打刻できるシステムを導入すれば後回しにしたことによる打刻漏れを極力防げます。
打刻できるシステムにはさまざまな種類がありますが、おすすめなシステムは「勤怠管理システム」や「勤怠管理アプリ」を導入することです。
勤怠管理システムは、従業員の出退勤や残業などの就業状況を一元管理できるシステムのことです。勤怠管理システムには、スマホから簡単に出退勤時間を打刻できる機能が備わっているうえ、打刻を忘れた際に通知してくれるアラート機能を搭載しています。
そのため、タイムカードの押し忘れを防止しやすい点がメリットです。タイムカードの押し忘れが頻発する場合は、勤怠管理システムを導入しましょう。
タイムカードの押し忘れを軽視していると、会社に大きなリスクが生じかねません。場合によっては、労働基準法違反や従業員から裁判を起こされる可能性もあります。
押し忘れによって生じうるリスクは、以下のとおりです。
従業員も「言わないままでいると上司に怒られる」や「始末書を書かされる」などの問題を抱えてしまうため、タイムカードの打刻漏れがないよう対策を講じる必要があります。
タイムカードの押し忘れは、発覚するたび正確な出退勤時刻を確認しなければならず、余計な手間が増えることで給与計算が滞る可能性もあります。
また、仮に従業員が不正打刻をしていたとしても、タイムカードの押し忘れが多いと発覚が遅れるリスクも生じます。給与のトラブルは従業員からの信頼を著しく失いかねないため、タイムカードの押し忘れを防ぐ対策を早急に講じましょう。
タイムカードは、従業員の始業時刻・終業時刻を記録するために導入されます。そのため、タイムカードの押し忘れが多いと労働時間を正確に把握できません。
会社には従業員の労働時間を適切に把握する義務が労働安全衛生法で設けられており、タイムカードの押し忘れが多いと、労働基準監督署に問題視される恐れがあります。
また義務の違反自体に罰則はありませんが、労働時間が把握できていないことで知らぬ間に時間外労働の上限を超えてしまい、罰則が適用される可能性もあります。会社へのリスクだけでなく、従業員の健康を守るためにもタイムカードの打刻を徹底しましょう。
タイムカードの押し忘れが常態化していると、残業時間を正確に把握できません。そのため、残業代の未払いが生じる恐れもあります。
もちろん残業代の未払いを請求された場合は支払わなければならず、さらに裁判を起こされると付加金や遅延損害金などの支払を命じられるケースもあります。たとえ残業代の請求に対して反論したくとも、タイムカードの打刻漏れが多いと証拠が不十分となり、裁判でも不利になりがちです。
そもそも残業代の未払いによるトラブルが起きた時点で「タダ働きをおこなっている」と従業員が感じ、士気の低下を免れないため、常日頃から打刻漏れを防ぐ対策を講じておきましょう。
どれだけ対策を講じてもタイムカードを押し忘れることはあります。そのため、押し忘れた際における対応についても確認しておきましょう。
タイムカードを押し忘れたからといって、欠勤・無給扱いにしてはいけません。従業員が勤務しているにもかかわらず欠勤・無給扱いにすると、労働基準法第16条の違反にあたる可能性があります。
労働基準法第16条:使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない。(賠償予定の禁止)
また、タイムカードの押し忘れに対して減給処分を下すことも注意が必要です。
労働基準法により、減給処分は一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならないと定められています。上限を超えた減給処分は、労働基準法違反第16条に反します。
加えて一度の押し忘れに対して減給処分を科すことは、一般的に見てあまりにも処分が重いといえます。減給処分を科すとしても何度も押し忘れを繰り返す従業員に限り、慎重に判断しましょう。
タイムカードの押し忘れが発覚した場合は、できる限り早急に出勤・退勤時間について事実確認しましょう。確認が遅れると正確な出勤・退勤時間が把握しづらくなり、トラブルに発展する可能性があります。
タイムカードを押し忘れた際「打刻漏れにつき◯円の減給」といった罰則を科すことは認められていませんが、懲戒処分として減給することは可能です。
また懲戒処分として減給を科す際、以下のルールを遵守しなければなりません。
上記のルールを超えた減給処分を下すと、労働基準法第91条違反となり罰則が科される可能性があります。
この記事では、タイムカードの押し忘れを防ぐ対策や打刻漏れが生じる理由を解説しました。
タイムカードは適切な労働環境の提供や正確な給与支給のために、従業員の労働時間を把握するシステムです。タイムカードの押し忘れを甘く見ていると、大きなトラブルに発展する可能性もあります。
リスクを抑えるためにも、本記事を参考にタイムカードの押し忘れを防ぐ対策を講じましょう。
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