本記事でわかること
- 労働時間の把握の目的や必要性
- 従業員の勤怠データの管理・収集方法
- 企業が対策しておくべき社内制度やルール
本記事でわかること
働き方改革で労働安全衛生法が改正され、2019年4月より「労働時間の客観的な把握」が義務化されました。労働時間の把握・管理は、給与計算だけでなく従業員の健康管理の視点からも重要視されています。
労働時間の把握義務化を受け、企業の対応方法や罰則、管理職が押さえるべきポイントを解説します。
目次
労働時間の把握は、従業員の長時間労働を防ぎ、時間外労働の管理や給与を正しく計算するために必要です。
従業員の労働時間を適切に把握していないと、出社の有無や時間外労働の割増賃金を計算するための根拠がないということになります。
従業員の労働時間は、「客観的な方法」によって把握・記録し、3年間保存する必要があります。管理職や裁量労働制を含むすべての従業員が労働時間把握の対象となります。
現在の労働安全衛生法では、企業は従業員の労働時間を客観的に把握し、長時間労働などの問題が発覚した場合は医師との面談を行わせなければなりません。
【面接指導などの強化】
【産業医・産業保健機能の強化】
両者は、管理職を含む会社で働くすべての労働者が対象で、管理職も含まれます。
具体的な内容を説明していきます。
これまでも労働基準法では下記内容が定められていました。
“使用者は、各事業場に賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。(「労働基準法 第108条(賃金台帳)」より)”
“使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない。(「労働基準法 第109条(記録の保存)」より)”
この規定は労働時間の客観的把握を義務づけるものではなく、勤怠把握の基準などの根拠が曖昧でした。
そのため、企業側からの指示あるいは従業員側の判断により不正に就業時間の申告がなされる問題が懸念されていました。
残業代未払いや長時間労働による精神疾患や過労死などの問題が発生したとしても、証拠が不十分なため、企業と従業員間でトラブルになってしまうことも珍しくありませんでした。
現在、労働安全衛生法には、下記の内容が定められています。
“事業者は、第66条の8第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。(「労働安全衛生法 第66条の8の3」より)”
この「厚生労働省令で定める方法」というのが客観的な把握を行うためのポイントになります。厚生労働省令として、下記方法が定められています。
労働時間把握のため、企業では社内制度の整備や管理ツールの導入を通じて、対策をしなければなりません。労働時間の把握が義務化されている今、適切な労務管理ができていなければ、罰則対象にもなります。
従業員の出社・退社時間を正確に記録できる方法を決めましょう。
出退勤時間を把握するには、ICタイムカードを使って就労時間を打刻する方法が有効です。
勤怠管理システムと連動させることで、出社・退社時間をPC操作履歴や入退室時間と照らし合わせた確認作業ができるため、労働時間の把握・管理がしやすくなります。
定められた労働時間外に従業員が仕事をする場合の申請方法を決定します。
たとえば、従業員から時間外労働(残業)の申し出があった場合、管理職(上司)に時間外労働の申請・承認を得るルールを作ります。
時間外労働を申請制にすることで、従業員の作業負担や時間外労働時間の把握がしやすくなります。
また、時間外労働の把握は管理職も対象となります。管理職だからという理由で、労働時間を把握しないことは許されません。
労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。つまり、労働契約、就業規則、労働協約などの定めにより決定されるべきものではないという原則があります。
たとえば、会社に早く来て朝食を食べている時間は指揮命令下とはいえず、逆に就業後、上司が把握している下で、QC活動を実施する場合、「黙示の承認があった」として労働時間であると認められる場合があります。
そのため、労働時間の把握・管理を行うにあたり、「就業している」とみなす範囲を明確にしておかなければなりません。
労働時間の判断基準を職場への出社・退社とする、パソコンのオン・オフとする、タイムカードやシステムの打刻時間とするなど基準を定めておくことが大切です。
従業員の勤怠管理は、賃金管理と健康管理に必要です。しかし、従業員が多い大企業では、勤怠管理に多大な時間を取られてしまいます。
短時間で効率よく勤怠の管理を行うため、勤怠管理ツールの導入を検討しましょう。
勤怠管理のツールでは、以下の管理ツールが効果的です。
ICタイムカードは、備わっているICカードを利用して、出退勤時間の打刻を記録できます。
勤怠管理システムとの連動が難しい印字式のタイムカードよりも正確に労働時間の把握が可能です。ICカードで読み取ったデータは簡単に集約・集計できるため、労務担当の手間が省けます。
また、社員証兼タイムカードを発行している企業もあり、入退室管理を兼ねることもできます。
パソコン上で勤怠を管理する方法には、Excelやアプリ、クラウド型システム等数多く存在しています。
Excelによる勤怠管理は入力ミスを誘発しやすいため、クラウド型勤怠管理システムがおすすめです。
クラウド型勤怠管理システムはPCへのインストールや専用機器の購入も不要なため、初期費用を抑えることができます。
ICタイムカードと連動させることや、パソコン上で有給休暇・時間外労働の申請・承認もできるため、管理職や労務担当者にとっても使い勝手のよいツールといえます。
「労働時間把握の義務化」において、違反した場合の罰則規定はありません。
しかし、関連する事項として、時間外労働時間の上限規制が挙げられます。
時間外労働時間の上限は原則「月45時間、年360時間」となっています。
特別条項つきの労使協定を結んだとしても、年6回の回数制限に加え月100時間、年720 時間を上限とし違反の場合には罰則が適用されることになります。
これらを超過した企業は、罰則として「半年以内の懲役もしくは30万円以下の罰金」が科せられます。
従業員の時間外労働を抑えるため管理監督者に仕事が集中し、管理監督者の過労問題が発生したため、労働安全衛生法では、管理監督者を含むすべての労働者を労働時間把握の対象としています。
管理監督者にも条件次第では時間外労働の割増賃金や深夜割増賃金を支払う義務があります。
管理監督者も長時間労働は避けるべきであり、健康への配慮はしていかなければなりません。
企業は、管理職を含めた従業員の労働時間を把握することで、長時間労働を防ぎ健康への配慮をしていかなければなりません。
また、労働時間の把握義務化への罰則はありませんが、従業員の労働時間の把握・管理を怠り、時間外労働の上限規制や年5日間の有給休暇取得義務に違反した場合、罰則が科せられます。
オフィスステーション有給管理では、従業員の勤怠データを収集し、適切な有給管理を行えます。
ソビア社会保険労務士事務所の創業者兼顧問。税理士事務所勤務時代に社労士事務所を立ち上げ、人事労務設計の改善サポートに取り組む。開業4年で顧問先300社以上、売上2億円超達成。近年では企業の人を軸とした経営改善や働き方改革に取り組んでいる。
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