この記事でわかること
- 有給休暇理由を確認することに問題があるか
- 時季変更権に伴う理由確認の可否
- 有給休暇の理由確認後に取得を拒否した場合の処遇
この記事でわかること
有給休暇(有休)取得が法律で義務化され、これまで以上に適切な有休管理が必要となりました。従業員から有給休暇の申請を受ける際、取得理由を聞くことに問題があるかという疑問を抱えている方も多いでしょう。
結論から述べると、有給の理由が娯楽などの私用であっても基本的に聞くことはNGです。パワハラや違法に該当する可能性があるため注意が必要です。
この記事では、有給の理由について知っておくべき情報をまとめています。
目次
通常、企業側が従業員へ有給休暇の取得理由を確認する必要はなく、従業員側も申告する必要はありません。
過去の事例として、1973年3月2日におこなわれた『林野庁白石営林署事件』の最高裁で「有給休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である」とする『年休自由利用の原則』も認められています。
そのため原則、従業員は有給休暇を取得するために理由は必要なく、私用のために取得をしても問題ありません。
【参考】林野庁白石営林署賃金カット事件│公益財団法人全国労働基準関係団体連合会
虚偽の有給休暇取得理由が申告された場合でも労働基準法上、処罰の対象にはなりません。なぜなら上の章でも紹介したように、年休自由利用の原則があるためです。
しかし、就業規則に「申告事項および各種届出事項について虚偽の申告をおこなわないこと」などと虚偽申告が規則違反であると記載している場合は、従業員に懲戒処分などを言い渡すことが可能です。
弊サイトでは男女300名を対象に、有給休暇に関するアンケート調査を実施しました。その際に「有給休暇を取得する最も多い理由を教えてください」と質問してみたところ、「遊び・趣味のため」が44.7%と約半数の支持を得ました。
年代別の有給休暇の取得理由など、詳しいアンケート結果については以下の記事をご参考ください。
従業員から有給休暇の取得理由を聞いてから有給休暇の申請を拒否してしまうと、パワーハラスメントに該当する可能性があります。また、有給休暇が私用だからダメなどと取得拒否すると違法の可能性があります。
理由の申告にかかわらず、有給休暇の取得を拒否する行為は、上記で紹介した労働基準法第119条に違反するため、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処罰されます。
従業員より申請された日程での有給休暇取得が止むを得ず厳しい場合は、時季変更権を行使できます。
時季変更権を行使すべきかを判断する場合に限り、有給休暇の取得理由を確認することができます。ただし、このとき確認できる内容は必要な範囲(緊急性があるか、重要度が高いかなど)の取得理由だけです。
時季変更権とは、使用者(会社側)が従業員の有休取得時季を変更できる権利のことです。労働基準法第39条5項では、以下のように記されています。
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
有給の申請は何日前までと法律で決まっているわけではないため、基本的には変更できませんが、上記に該当する場合のみ変更可能です。
止むを得ず厳しいケースとは、以下のような正常な事業運営を妨げられる場合です。
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ただし、繁忙期であっても「忙しい」だけが理由だと、時季変更権の行使はできないため注意しましょう。必ず代替人員を確保する努力をしたうえで、時季変更権を行使する必要があります。
時季変更権は、有給休暇の取得を拒否できる権利ではなく、取得日を他の日に変更できる権利です。
具体的な変更日を決めず有給休暇を取らせない行為をおこなうと、労働基準法第119条により、時季変更権を悪質に行使したとみなされ処罰の対象となります。
労働基準法第119条では、労働基準法第39条5項を含む規定への違反に関して、6カ月以上の懲役又は30万円以下の罰金に処すると規定されています。時季変更権を行使する際は、悪質に行使していないか細心の注意を払わなければなりません。
しかし、各部署の上長が時季変更権について詳しく理解していない、あるいは適切な管理がおこなわれていないために、知らないうちに悪質に行使してしまう可能性があります。処罰の対象になると、会社のイメージダウンや従業員の離職等に繋がります。
有給休暇を確実に管理できるクラウド管理システムを導入することで、有給休暇状況の把握や連絡義務(自動配信)、転記の記入ミス、有給休暇に関するトラブルを未然防ぐことができます。
有給休暇の取得理由を無理に聞く行為や理由を聞いた上で取得させない行為は、従業員が有給休暇の取得をしづらくなるだけでなく、企業側が罰則を受ける恐れがあります。
想定
トラブル
・従業員が有給休暇を取得しづらくなり取得率が低下する
・従業員が虚偽の理由申告をする可能性がある
・時季変更権の悪用につながる恐れがある
・有給休暇取得の拒否によるパワーハラスメントに該当する可能性がある
対処法
・無理に理由を書かせない
・時季変更権を行使せざるを得ない場合のみ有給休暇の理由を確認する
・有給休暇の取得拒否が違反行為であることを管理者・監督者へ周知する
2019年4月に有給休暇の取得が義務化されたことにより、従業員が安心して有給休暇を取得できる環境づくりに力を入れていかなければなりません。
有給休暇は従業員に与えられた権利です。理由を聞かないことで有給取得率の向上や、働きやすさの向上から離職率の低下も見込めます。理由を聞くことはパワハラや違法に該当する可能性もあるので、とくに企業の人事・労務担当者は気をつけましょう。
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