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ニュース少し前に、SNSを中心に「通勤手当に税金がかかる」といった話題が広まりました。この話題の発端となったのは、2023年に実施された政府の税制調査会の答申において「通勤手当への課税が検討されている」という内容が一部で報じられたためです。
もしこの通勤手当が本当に課税されることになった場合、どれくらい税金の負担が増えるのでしょうか?
この記事では、通勤手当の課税・非課税枠に関する現状と、もし制度が見直された場合の影響についてわかりやすく解説します。
目次
通勤手当とは、会社が従業員に対して支給する、自宅から会社までの通勤にかかる費用を補助するための手当のことです。電車やバスなどの公共交通機関の利用料金、マイカー通勤のガソリン代や高速道路料金などが含まれることがあります。
現在、日本では、従業員の通勤にかかる費用負担を軽減する目的で、通勤手当には一定の非課税枠が設けられています。非課税限度額内の場合、通勤手当は課税所得にならず、所得税や住民税の計算に含まれません。
この非課税制度は、特に都市部で高額な定期券を利用している会社員にとっては非常に大きなメリットです。毎月の給与から税金が引かれることなく通勤にかかる費用が支給されるため、実質的な手取り収入を増やす効果があります。
なお、非課税となる限度額は、通勤手段や移動距離によって異なります。そのため、引っ越しなどの際は注意が必要です。また、いずれの通勤手段でも非課税限度額を超えた分は給与として課税されます。
電車やバスを利用する場合の非課税限度額は、1カ月あたり15万円です。非課税の対象となるのは「最も経済的かつ合理的な経路および方法」での通勤であり、新幹線や特急電車を利用する場合でも、条件を満たせば非課税の範囲に含まれます。
グリーン車の利用料金は「最も経済的かつ合理的な経路および方法」に該当しないため、非課税の通勤手当として認められません。
会社が定期代を支給する場合、一般的に長期間分をまとめて購入する方が割安になるため、3カ月分や6カ月分をまとめて支給する運用も見られます。この場合「先払い」という形で従業員に有利なように運用ルールを設定し、就業規則などに支給基準を明記しておくことが一般的です。
マイカーや自転車で通勤する場合の非課税限度額は、通勤距離に応じて異なります。移動距離が長くなるほど非課税限度額も上がり、最大で3万1,600円まで適用されます。
片道の通勤距離 | 1ヶ月あたりの非課税限度額 |
---|---|
2km未満 | 全額課税 |
2km以上10km未満 | 4,200円 |
10km以上15km未満 | 7,100円 |
15km以上25km未満 | 1万2,900円 |
25km以上35km未満 | 1万8,700円 |
35km以上45km未満 | 2万4,400円 |
45km以上55km未満 | 2万8,200円 |
55km以上 | 3万1,600円 |
現在、SNSを中心に「通勤手当が全額課税されるのでは?」「通勤手当の非課税枠がなくなる」といった噂が話題となっています。この噂の発端は、2023年に実施された政府の税制調査会の答申にありました。この答申のなかで、通勤手当に対する課税の検討という文言が見られたことが、議論を呼んだ要因です。
ここで重要なのは、通勤手当に対する課税はあくまでも”検討”という段階であり、現時点で通勤手当が課税されることが決定している事実はないということです(2025年3月現在)。
税制調査会とは、今後の税制のあり方を議論し、政府に提言をおこなう機関であり、その答申内容はあくまで政策立案の基礎となるものです。では、なぜ通勤手当の課税が検討される可能性が出てきたのでしょうか。その背景には、以下のような要因が考えられます。
近年、テレワークやリモートワークといった多様な働き方が普及しています。このような働き方を選択する従業員には通勤手当が支給されない場合がある一方で、従来どおりの通勤をする従業員には、非課税の通勤手当が支給されることに対する公平性の観点からの議論も考えられます。
会社員には給与所得控除という制度があり、収入から一定額を差し引いて税金を計算できる仕組みになっています。政府はこれを踏まえ、会社員などの税制は「相当手厚い仕組み」と指摘し、会社員とフリーランスや個人事業主との税制上の差の見直しを示唆しました。
その一環として、現在一定額まで非課税となっている通勤手当の非課税枠の引き下げや撤廃が検討される可能性があるのです。通勤手当のほか、雇用保険上の失業手当や遺族年金などといった現在非課税とされる制度も、他の所得との公平性や中立性の観点から、妥当であるか検討されるかもしれません。
もし通勤手当の非課税枠が撤廃され、通勤手当の全額が課税対象となった場合、労働者にはどのくらいの影響があるのでしょうか。ここからは、具体的なケースを想定して、その影響額をシミュレーションしてみましょう。
年収500万円で1カ月に1万5,000円(年間18万円)の通勤手当が支給されている、東京都在住の会社員Aさんを例に挙げます。
現在、通勤手当は月15万円まで税金がかからないため、Aさんの通勤手当は所得税や住民税の計算には含まれません。しかし、もしAさんの通勤手当が課税対象となった場合、課税所得が増加し、税金の負担が増えることになります。
通勤手当が非課税の場合 | 通勤手当が課税される場合 | |
---|---|---|
総支給額 | 500万円 | 518万円 |
給与所得控除 | 144万円 | 148万円 |
基礎控除 | 48万円 | 48万円 |
社会保険料控除 | 75万円 | 78万円 |
課税所得 | 233万円 | 245万円 |
所得税 | 11万円 | 12万円 |
住民税 | 24万円 | 26万円 |
年間税負担合計 | 35万円 | 38万円 |
上記はあくまで一般的な税率に基づいたおおよその試算であり、個人の所得控除額などによって実際の増加額は異なります。
上記の試算例では、年間18万円の通勤手当が全額課税対象になることで、1年間で負担する税金が3万円増加するという結果になりました。これは、月々の手取り収入が約2,500円減少することに相当します。
特に、住宅ローンや教育費など毎月の固定費が多い家庭にとっては、この手取り額の減少は家計に大きな影響を与える可能性があります。また、通勤にかかる交通費が高い人ほど、課税された場合の影響は大きくなります。
非課税限度額の範囲内であっても、通勤手当は社会保険料の算定対象となります。これは、健康保険や厚生年金保険の標準報酬月額が、通勤手当を含めた給与をもとに算出されるためです。
遠方から通勤している人などは、社会保険料が高くなることで損に感じてしまうこともあるかもしれませんが、社会保険料が高くなる場合、将来の厚生年金が高くなるという一定のメリットもあります。
本来であれば課税するべき通勤手当を非課税にしていた場合、所得税の未納分が発生します。税務署の税務調査などで発覚した場合、追徴課税や加算税などが課される可能性も考えられます。そのため、こうした事実が判明した時点で、速やかに税理士や税務署に確認し、修正申告などの手続きをおこないましょう。
現在、通勤手当は一定額まで非課税となっています。非課税限度額は通勤手段や移動距離などによって異なり、非課税限度額を超えた分は課税対象になります。
現時点ではこの非課税枠の廃止や撤廃、通勤手当の課税案などは決定されていません。しかし今後、非課税限度額の引き下げや通勤手当が給与として課税されることになった場合、労働者の税負担が増え、実質的に手取り収入が減ることになるでしょう。
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