この記事でわかること・結論
- ワーキングプアとは「働く貧困層」と呼ばれる労働者のことを言い、年収は100万円〜200万円未満が該当するとされている
- 日本ではバブル崩壊後の労働市場緩和などにより、非正規雇用の増加や物価高などが影響でワーキングプアも増加している
- 国の支援制度などもあるが、ワーキングプアの解決には労働者と企業との関係がより重要
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人材・組織この記事でわかること・結論
日々正社員やフルタイムなどで働いてはいるものの貧困である層のことを「ワーキングプア」と呼びます。
明確な収入ボーダーが決まっているわけではありませんが生活保護水準が目安にされることも多く、年収100万円〜200万円未満の層がワーキングプアに該当するとされています。
ワーキングプアは社会問題でもあると同時に企業側の課題でもあります。本記事ではワーキングプアについて、原因や解決策、国が実施している支援制度などを解説していきます。
目次
ワーキングプアとは、正社員もしくはフルタイムなどで働いていながらも収入が乏しい層のことを指します。「働く貧困層」や「ワープア」と呼ばれることもあります。
ワーキングプアのなかには官公庁で働いていながら収入が低い「官製ワーキングプア」や、大学院や博士号まで辿り着いていながらも貧困層となっている「高学歴ワーキングプア」などの派生語もあります。
当時は世界的にも「貧困」とは失業が必ず紐づくものだと考えられていましたが、雇用が約束されている状態にもかかわらず貧困である状態が主に先進国(アメリカ・イタリア・スペインなど)で見受けられてから、問題視され議題として挙がるようになりました。
たとえばアメリカでは連邦労働省労働統計局がワーキングプアについて、「16歳以上で1年間のうち少なくとも27週間以上(約6カ月強)職に就いている、もしくは職を探しているにもかかわらず公的な貧困線を下回る所得しか得られない者」と定義しています。
日本では、ワーキングプアという言葉が1980年代のバブル経済崩壊後に見受けられるようになりました。また、2006年〜2007年にはNHKスペシャルの特集が放送されたためより注目を集めました。
明確な定義はありませんが「雇用されており収入を得ているが、生活維持が困難である層」という認識が一般化しています。そのなかでも一定の年収以下であればワーキングプアに該当するという基準で論じられることも多いです。
日本における明確な定義はないですが、しばしば年収額で区分されることがあり年収100万円〜200万円未満の層がワーキングプアとされています。この200万円以下というのは、生活保護がもらえるボーダラインの年収です。
しかし雇用され収入がある以上、生活保護のような公的扶助の受給資格がないケースがほとんどであり、そこが問題点として挙げられることも多いです。
ワーキングプアは労働時間が確保できていても収入があまりない労働者全般を呼びますが、該当するケースが多い職業がいくつかあるため紹介します。
上記のように、給与水準がそもそも低い業界の仕事や専門的なスキルを要さない仕事などがワーキングプアになるケースが多いです。また、夜勤業務があったりするなど労働時間が不規則である仕事もワーキングプアに該当しやすいです。
国税庁は毎年「民間給与実態統計調査結果」にて、給与階級別分布として男女それぞれ年収ごとの割合を算出しています。2022年の同調査において、5,078万人中「年収200万円以下」に該当する者は下記の割合でした。
年収200万円以下の割合 | |
---|---|
男性 | 約280万人(9.8%) |
女性 | 約762万人(35.5%) |
合計すると、全体の約21%がワーキングプアに該当する労働者です。決して少ない割合ではなく、引き続き大きな社会問題として議論されていく必要があると言えるでしょう。
ワーキングプアは現在も直面している社会問題です。まずはその原因を知ることおよび企業が課題として取り組めることがあれば、実施することで解決できるでしょう。
ここではワーキングプアの原因を解説します。
日本は1980年のバブル崩壊後、全国的に労働市場における緩和政策などを進めてきました。それまで正規雇用が主な雇用形態でありましたが、パートタイムや契約社員・派遣社員などの非正規雇用などが受け入れられるようになりました。
こうした労働規制緩和・自由化は、労働者にとっては雇用機会があり企業にとっては人件費削減などに繋がるため、一見するとwin-winのように見えますが問題もありました。
労働規制緩和・自由化の問題点、それは「雇用期間および付随する社会保障などの不安定化」です。1990年代では非正規雇用の労働者が増える一方で、雇用期間については最長でも一年間程度の短い期間で雇う会社も増えました。
そのためキャリア的にも不安定な労働者が増え、社会保障なども充実していないという状態が続いていました。さらに拍車をかけるように時代は「就職氷河期」へと突入していきました。
一度失業すれば再雇用や再就職が難しい就職氷河期では、さらに非正規雇用の労働者が増えていき、ワーキングプアと呼ばれる貧困層の増加に繋がっていきます。
ワーキングプアは主に非正規雇用の労働者において見受けられる貧困層ですが、正規雇用として働いていても見合った収入が得られず、ワーキングプアに該当するケースもあります。
職種や業界によっては、長期雇用で働いていてもなかなか給与が上がらないということもあります。さらに、日本は物価高に陥っている現状からもワーキングプアになってしまう労働者が増えています。
日本ではしばしば働き方の多様化が進められています。しかし、裏を返せば必ずしも正規雇用にとらわれることなく働く、つまり非正規雇用での労働を選択する人が増えるということです。
そのようなワーク・ライフ・バランスを実現することは、企業や労働者にとってお互いに良好な環境を作ることができるため基本的には良いことです。しかし場合によってはワーキングプアを増加させてしまう要因にもなり得るため、適切な労働環境の構築が必要でしょう。
ワーキングプアは依然として大きな社会問題ですが、国や景気に左右されるだけでは解決には向かいません。労働者を雇用している以上、企業にとってもできることを検討・実施していく必要があります。
ワーキングプアの根本的な問題点とも言える「収入が低い」という部分について、企業が対策できることは給与を上げることです。
特にワーキングプアのメイン層である非正規雇用労働者の給与を上げることで、貧困層の人口を減らすことができるでしょう。
企業が労働コスト削減のために、低賃金で非正規雇用労働者を雇うことはワーキングプアの増加に繋がります。
そのため、正規雇用としてそれなりの労働時間や業務を確保してあげることも解決策の一つと言えます。社会的不安定という別視点の問題にも対応できます。
先ほども少し触れましたが、ワーク・ライフ・バランスを考慮した労働環境を作ることもワーキングプア人口を減らす手段の一つと言えます。
働き方に重きを置いて非正規雇用を増やす流れというよりは、賃金や労働時間を適切に設定することで正規雇用でも安定して働けるような環境を作ることが望ましいと言えるでしょう。
社会問題であるワーキングプアの解決のために、国もいくつか関連する支援制度を展開しています。ここではワーキングプア向けの支援制度をいくつか紹介します。
求職者支援制度とは厚生労働省がおこなう支援制度であり、再就職や転職およびスキルアップを目指す方が月10万円の生活支援給付金を受給しながら、職業訓練を無料受講することができます。
収入条件などがありますがワーキングプアに該当する方であれば満たしているケースも多いため、気になる方は厚生労働省の公式Webサイトをチェックしてみましょう。
シングルマザーなどのひとり親世帯向けに、公的支援制度がいくつか設けられています。
上記のような支援制度は「職業講座サポートやその費用を支給すること」や「助成金や給付金を支給すること」「相談窓口強化」などが主な内容です。
雇用されており収入があるのにもかかわらず、生計を維持するのが困難な貧困層が「ワーキングプア」という言葉で表されます。昨今の給与水準停滞や物価高とも大きく関わりのある社会問題の一つです。
正規雇用でも職業によっては見受けられますが、主に年収200万円以下などの非正規雇用の労働者がワーキングプアとして該当します。
ワーキングプアの生活支援策として、国が用意する支援制度などもあります。また企業も雇用する以上は、解決策として労働者との関係性および環境構築を進めていく必要があるでしょう。
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