事業規模が大きくなると、新たに支店や営業所を増やすことがあるかもしれません。そして、新たに労働者を雇用する場合は労働保険の手続きにも注意しましょう。労働保険の保険関係は本社ではなく、実際に就業する支店や営業所ごとに成立します。
そのため、手続きや管理が非常に手間なのです。しかし、ある一定の要件を満たせばそれらを一括で行うことが可能になります。この継続事業の一括について、確認していきましょう。
目次
もともと、労働保険はパートタイマー、アルバイトを含む1人でも労働者を雇った場合、必ず加入しなければなりません。これは、労働者を雇った時点で業種や規模のいかんを問わず適用事業所として扱われ、労働保険への加入が義務付けられるためです。1つの事業所で事業が行われる場合は、特に問題ないでしょう。
しかし、事業が軌道に乗り支店や営業所が増えた場合、この労働保険の処理には注意しなければなりません。というのも、もしその支店や営業所で労働者を雇った場合、労働保険は本社ではなく労働者と支店との間で成立するからです。
書面上では同一の会社であっても、労働保険上では別々の適用事業所として扱われるため、加入手続きや保険料の納付なども各支店で個別に行わなければなりません。そうなると、支店や営業所の数が増えるほど、これら労働保険の管理が手間になってしまうでしょう。
しかし、一定の要件を満たしている継続事業については、これら労働保険の手続きをひとつの事業でまとめて行うことが可能になります。これを「継続事業の一括」と呼び、その手続きについて次項から詳しく見ていきましょう。
継続事業の一括を受けるためには、労働局長の認可が必要となります。また、申請をするうえで以下の要件を満たしていなければなりません。
この継続事業の一括において、本社と支店は「指定事業」と「被一括事業」という名称で区別されており、要件にもあるようにこの指定事業と被一括事業の事業主は同一でなければなりません。よって、事業主が別名義になっている支店はもちろん、子会社のように別の法人扱いになっている場合も一括認可はおりないので注意しましょう。
次に、前述の要件にあった「労災保険率表」、「保険適用区分」といった、あまりなじみのないこれらについて解説していきます。
さまざまな業種を細かく区分けし、それぞれに数字を割り当てた表のことを「労災保険率表」といいます。継続事業の一括を受けるには、この労災保険率表を確認し、指定事業と被一括事業が同じ種類であれば問題ありません。
また、実際の表は厚生労働省のホームページから確認することができます。
こちらについて説明する前に、「一元適用事業」と「二元適用事業」について説明します。
一元適用事業とは労働保険(労災保険・雇用保険)がひとつの番号で処理されている事業、二元適用事業とは労災保険と雇用保険が別々の保険番号で成立している事業のことをいいます。ほとんどの事業は一元適用事業なのですが、建設業や農林水産業など、やや特殊な部分がある事業に関しては、二元適用事業に当たる場合が多くなります。
そして、一元適用事業できちんと労働保険が2つとも成立している事業を「11○」、二元適用事業を「71○」としているのが保険適用区分です。継続事業の一括を受けるには、指定事業と被一括事業が保険適用区分上、同一でなければなりません。
継続事業の一括認可の申請にあたって、「労働保険関係成立届」と「労働保険継続事業認可・追加・取り消し申請書」の提出が必要です。
事業の一括を受ける場合は、支店や営業所(被一括事業)を新しく設立する地域の労働基準監督署に「労働保険関係成立届」を提出します。その際、必ず窓口で継続事業一括申請を行う旨を申し出てください。そうすると、一括認可に必要な「仮保険番号」が付与されます(すでに番号を取得している場合は必要ありません)。
仮保険番号を取得したら、「労働保険継続事業認可・追加・取り消し申請書」を指定事業の管轄する労働基準監督署へすみやかに提出しましょう。提出した申請書は内容を審査し、その申請に対する認可の通知が事業主へ送られます。
認可のおりた被一括事業は1つずつ整理番号が付与されるのですが、この整理番号は今後も新しく支店や営業所を増やしていく際に必要となりますので、認可通知書とあわせて大切に保管しましょう。
以上が継続事業の一括認可のための要件と手続きになります。特に難しい要件や手続きはそれほどなく、普段からきちんと保険処理を行っていれば満たすことができるものばかりです。現在事業が拡大中の事業所はもちろん、今後事業を大きくしていこうとお考えの事業所も、この一括認可についてしっかり確認しておくと良いでしょう。
上場の建設会社にて情報システムの開発、運用、管理を経験した後、人事部に異動して給与計算、社会保険手続きから採用・退職など、人事労務管理に約12年従事。やまもと社会保険労務士事務所の所長、特定社会保険労務士。
詳しいプロフィールはこちら