従業員の出産に関して健康保険や厚生年金保険では、どのような手続きが必要となってくるでしょうか?
従業員が出産した際、企業では、社会保険料の手続きや給付金の手続きなどさまざまな手続きが必要です。この記事では、従業員の出産後に必要な手続き(やることリスト)について解説します。
目次
従業員が出産した際、健康保険の給付(出産手当金・出産育児一時金)や雇用保険の給付(育児休業給付金)の届出や、社会保険料免除の手続きが必要です。従業員が出産した際の「やることリスト」は以下のとおりです。
健康保険では、出産に関して2種類の給付があります。それぞれの手続きにおける提出書類は以下のとおりです。
出産手当金は、従業員が出産のために会社を休業し、給料の支払を受けられないときに、支給されます。支給される額は、支給開始日以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額の平均額の30分の1相当額の3分の2に、日数を乗じた額です。
ここでは全国健康保険協会(以下:協会けんぽ)を例にとって説明しますが、出産手当金の手続きは、会社に対して「健康保険出産手当金支給申請書」を提出することで完了します。また、会社に健康保険組合がある場合は、会社を通じて健康保険組合に、国民健康保険の方は、管轄の自治体窓口に同申請書を提出します。
出産育児一時金は、出産したときに1児につき42万円(産科医療補償制度に加入していない医療機関などで出産の場合は40.4万円)を出産費用として支給する制度です。多胎児の場合は、胎児数分支給します。
出産育児一時金の手続きは、会社に対して「健康保険出産育児一時金支給申請書」の提出が必要です。この手当は基本的に協会けんぽや健康保険組合から医療機関へ直接支払われます。しかし、医療機関でかかった費用が42万円より少なかった場合は、「健康保険出産育児一時金内払金支払依頼書・差額申請書」を提出することで、その差額が支給されます。
【参考】健康保険出産手当金支給申請書 | 申請書 | 全国健康保険協会
育児休業給付金における提出書類は以下のとおりです。
育児休業給付金は、出産と子育てにより発生する育児休業期間中に支給される給付金制度です。育児休暇中の男性も取得可能で、最長2歳まで延長できます。育児休業給付金の手続きでは、対象の従業員に申請書類を記載してもらい、企業が代わりに提出します。
従業員が出産休業中である場合、健康保険・厚生年金保険の保険料が免除されます。手続きに必要な提出書類は以下のとおりです。
この免除制度を利用するためには、被保険者から事業者へ届出があったときに、事業者が日本年金機構へ「健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者申出書」を届出ることで手続きが完了します。
また、被保険者が産前産後休業期間を変更する場合や、休業を切り上げて早く復職した場合は、「健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者変更(終了)届」の提出が必要です。
「標準報酬月額の改定」と「養育期間の標準報酬月額特例」も、出産にかかわる必要な手続きです。それぞれの手続きにおける提出書類は以下のとおりです。事前に確認しましょう。
・産前産後休業終了時報酬⽉額変更届
※産後休業に引き続いて育児休業する場合はこの手続きはおこないません。
・育児休業等終了時報酬月額変更届
・厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書・終了届
※厚生年金保険加入者のみが該当します。
産前産後休業終了後に給料が下がった場合、産前産後休業が終わったあと3カ月間の報酬額をもとに、標準報酬月額を再算定して翌月から改訂できるようになりました。従業員が産前産後休業から育児休業に入る場合は、「産前産後休業終了時報酬⽉額変更届」は提出せずに、「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出することとなります。
また、下がってしまった標準報酬月額によって、将来従業員が受け取る年金額に不利益が出ないよう、養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置という制度も一緒に設けられています。どちらも被保険者から事業者を通じて日本年金機構へ所定の書類を届出ることで手続きをします。
この手続きをしておくと、従業員が将来受け取る年金額を計算する際に、下がる前の標準報酬月額が適用される特例措置があるため、将来の年金受取額が減少してしまうことはありません。措置は3歳未満の子供を養育している期間中適用されます。なお、この手続きは厚生年金保険加入者のみが該当します。該当者についてしっかり把握しておきましょう。
出産後は、生まれてきた子供の健康保険加入手続きも必要です。手続きに必要な提出書類は以下のとおりです。
協会けんぽのケースでは、提出する書類は「健康保険 被扶養者(異動)届」で、出産から5日以内に、被保険者から事業者を経由して日本年金機構に届出ることで手続きをします。
そのほかの健康保険組合や国民健康保険でも同様の手続きが必要です。出産から5日以内と短い期間での手続きであるため、出産前に従業員に説明しておき、子供が生まれたらすぐ手続きを進めるように促してください。
従業員が出産した際に必要な手続きについて紹介しました。
協会けんぽや健康保険組合で必要な手続きは「出産手当金」「出産育児一時金」、ハローワークで必要な手続きは「育児休業給付金」、日本年金機構で必要な手続きは「健康保険・厚生年金保険の保険料免除」「標準報酬月額の改定」「養育期間の標準報酬月額特例」「子供の健康保険への加入手続き」です。
見落としがちな制度もあるため、漏れがないように注意してください。
従業員が(妊娠)出産した際にスムーズな対応ができるよう「やることリスト」を作成するなど、適切な時期に従業員と連携を取りながら手続きを進めていき、円滑に処理しましょう。
大学卒業後、日本通運株式会社にて30年間勤続後、社会保険労務士として独立。えがお社労士オフィスおよび合同会社油原コンサルティングの代表。
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