この記事でわかること
- 産休・育休中の社会保険料が免除される期間
- 社会保険料免除の申請方法や免除額
- 産休終了時の対応
この記事でわかること
産休・育休中は社会保険料を支払う必要があるのでしょうか。実は産休中や育休中は、社会保険料が免除されることが各種法律で決められています。
ただし、勝手に社会保険料が免除になるわけではありません。産休・育休時は、社会保険料免除の手続き申請などが必要です。また、実際に免除が適用される期間も覚えておくと良いでしょう。
この記事では、産休・育休期間における社会保険料免除について、詳しい内容や手続き方法・免除期間などを解説していきます。
目次
産休・育休中は会社からの給料がないため無給期間になります。雇用保険により育児休業給付金を受給することもできますが、産休・育休中は社会保険料などを納めるのは経済的にも厳しい状況と言えます。
そのような状況を防ぐため、産休期間中および育児休業期間中における社会保険料は申し出ることによって免除できる仕組みになっています。
具体的には事業主側が「産前産後休業取得者申出書」や「育児休業等取得者申出書」を日本年金機構の事務センターなどに提出することによって、個人負担分と会社負担分ともに毎月の社会保険料が免除され、労働者の負担を軽くすることができます。
産休・育休で社会保険料は免除になる期間はそれぞれ以下です。
産前産後休業期間中(産前42日(多胎妊娠は98日)、産後56日のうち、妊娠・出産を理由として業務に従事しなかった期間)の社会保険料(健康保険・厚生年金保険)が免除
育児・介護休業法による満3歳未満の子を養育するための育児休業等(育児休業および育児休業に準ずる休業)期間の社会保険料(健康保険・厚生年金保険)が免除
また、従業員は社会保険料が免除されても、将来受け取れる年金の減額や被保険者資格の変更・喪失はされません。しかし注意点もあります。
産休・育休どちらも免除期間が設けられることで休業中の雇用保険料※は発生しませんが、住民税は有給・無給にかかわらず納付しなければなりません。そのため、産休、育休期間中は注意が必要です。
事業主は給与を支払った場合、雇用保険料を納めなければなりません。
事業主の社会保険料免除のまとめ | |
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対象期間 | 免除の有無 |
産休期間 | 被保険者・事業主両方の社会保険料負担が免除 |
育休期間 | 被保険者・事業主両方の社会保険料負担が免除 |
基本的には、育休・産休の休業開始月から終了日の翌日の属する月の前月までの期間の社会保険料が免除されます。
ではいくらくらい保険料が免除されるのでしょうか、まずは育休や産休前にかかる社会保険料を、2023年度における東京都在住で取得期間は1年間のケースで見てみましょう。参考にするのは、全国健康保険教会が公表している保険料表です、
年収300万円・東京都在住・1年間の取得期間である場合、保険料表より健康保険料の自己負担額は「15,000円」であり、厚生年金保険料の自己負担額は「27,450円」です。
通常時であれば合計「42,450円」が毎月差し引かれてますが、免除される額は今回12カ月なのでそれぞれ一年分をすべて足すと「42,450円 × 12 = 509,400円」が免除されます。
年収300万円 東京都在住 育休・産休を1年間取得するケース |
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いつも支払っている保険料 | 健康保険料と厚生年金保険料で42,450/月 |
免除される額 | 509,400/年 |
上記のように、育休・産休前であれば同額の保険料が給料から差し引かれることになるためかなりの節約になります。
産休、育休期間中は以下の手続きをおこなうことで社会保険料が免除されます。申請は、どちらも事業主が日本年金機構(事務センターまたは年金事務所)へ必要書類など提出して進めます。
社会保険料免除の申請手続き | |
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手続き期間 | 被保険者が産休、育休を取得したとき(産前産後休業期間中) |
提出者 | 事業主 |
提出先 | 加入する健康保険組合 / 事業所の所在地を管轄する年金事務所 |
提出書類 | 1:健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届 2:育児休業等取得者申出書 |
添付書類 | なし |
提出方法 | 郵送・窓口申請(年金事務所のみ)・電子申請 |
育休に関して、具体的には労働者が次の3つに係る休業をしている間に手続きをおこなうこととされています。
産休・育休用の申出書は日本年金機構の公式WebサイトよりPDFファイル・Excelファイルでダウンロードができます。それぞれもう少し見てみましょう。
産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届は、産前産後休業期間中または産前産後休業終了後の終了日から起算して1カ月以内の期間中に提出しなければなりません。
育児休業等取得者申出書についても、育児休業等の期間中または育児休業等終了後の終了日から起算して1カ月以内の期間中に提出が必要です。
なお、申出書には育児休業を取得する予定の期間を記入します。休業する労働者が女性であり、かつ養育する子が実子である場合のもっとも早い始期は、原則として子の生年月日の翌日から起算して57日目となります。
産休、育休休業・育児休業期間中の社会保険料は、休業中に免除申請をおこなうことで経済的負担を軽減できます。具体的な免除額のシミュレーションを見てみましょう。
産休期間:2023年2月4日~2023年5月12日、育休期間:2023年5月13日~2024年5月12日を予定。育児休業期間は子供が満1歳になったときに職場復帰を想定するものとします。
上記のケースで、年収ごとに産休期間・育休期間それぞれの社会保険料免除額の仮数値をまとめました。
保険料免除額(交通費込み/ボーナスなしを想定) | |
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収入目安 | 社会保険料免除額 |
月収16万円 / 年収192万円想定 | 産休期間:67,464円 育休期間:247,368円 |
月収20万円 / 年収240万円想定 | 産休期間:84.330円 育休期間:309,210円 |
月収30万円 / 年収360万円想定 | 産休期間:126,495円 育休期間:463,815円 |
月収40万円 / 年収480万円想定 | 産休期間:172,875円 育休期間:633,875円 |
社会保険料免除の利用は、社会保険料の負担軽減だけなくキャリア志向の女性や女性管理職を定着させる、男性の育児休業を促進させるなどの効果が期待できます。
育休・産休中は労働することはありませんが、企業からの給料は支払われるのでしょうか。
育休中や産休中は、基本給料が支払われないことがほとんどです。「育児・介護休業法」のなかでは、育休中や産休中を予定している労働者の権利についての規定はありますが、その期間の給料については明記されていません。
上記のように、育休中や産休中は労働をしていないことになるため、給料を支払うということは基本的にはありません。しかし、企業によっては基本給の何割かを支給するというところもあるため、絶対ないとは言えません。
2022年に育児・介護休業法が改正したことにより「産後パパ育休(出生時育児休業)」という言葉を耳にするようになりました。男性も育休を積極的に取得するようになりましたが、給料は支払われるのでしょうか。
実は、男性も育休期間は原則会社からの給料が支払われません。ですが、給与とは別で雇用保険の給付金として「最初の6カ月は「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」、その後は50%を受け取れるため利用する方も多いです。
民間企業のサラリーマンとは異なり、お役所などに勤めている公務員についてはどうなのでしょうか。公務員が育休中や産休中である場合、給料は支払われるのでしょうか。
民間企業の社員とは異なり、公務員は産前・産後の休暇期間中でも一定の給料や手当などが支払われます。そのなかでも、労働した日にもらえるような手当(通勤手当など)は対象外となります。
また、公務員の場合は産前休業・産後休業のいずれも8週間になります。民間企業の社員は産前については6週間と労働基準法で決められているため、公務員であれば産前については2週間多く取得できます。
そして、育休期間の場合は公務員であっても原則給料は支払われません。しかし、民間企業の社員でも公務員でも、もし健保組合や共済組合に加入しているのであれば育休中や産休中でも給付金が受け取れます。
どういった給付金があるのかなど、産休・育休ごとに事項で説明します。
まずは産休期間について、どういった給付金があるのかそれぞれ解説します。
傷病手当金は長期にわたる病気や怪我により仕事を休まざるを得ない場合に、収入の一部を補償するために支給されます。これは健康保険の一環として提供され一定の条件を満たす被保険者が対象です。
手当金は、休業第4日目から支給が開始され、給与の約3分の2が支給されることが一般的です。
出産手当金は、産前産後の休業中に働けないために収入が途絶える女性に支給されるものです。
この手当は、一般に出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から産後8週間までの期間に日額で支給されます。その額は、休業前の給与の約3分の2に相当します。しかし先述したとおり、公務員の場合産前は出産予定日の8週間前から取得可能です。
出産育児一時金は、出産にかかる費用を支援するために健康保険から支給される一時金です。この金額は一律で、2023年後半期の時点で1出産につき50万円※が支給されることが決まっています。
これは、直接医療機関に支払う「直接支払制度」を利用することも、出産後に申請して受け取ることも可能です。
妊娠週数が22週に達していないなど、産科医療補償制度の対象とならない出産の場合は、支給額が48.8万円となります。
出産・子育て応援交付金は、地方自治体が独自に設ける支援金で出産や子育ての経済的負担を軽減することを目的としています。
この交付金の内容は自治体によって異なり、条件や金額も多様です。一部の自治体では、出産育児一時金の上乗せや出産に関わる追加経費の支援などをおこなっています。機になる方はお住まいの地域の自治体についてよく確認しておきましょう。
育休中は「出生時育児休業給付金」や「育児休業給付金」という給付金が利用できます。
出生時育児休業給付金とは、雇用保険の被保険者の方が、子供が産まれてから8週間の期間内に合計4週間分 (28日)を限度として、産後パパ育休を取得した場合に以下を満たす場合に給付されます。
支給対象期間中は最大10日まで働くことができますが、休業期間が28日間より短い場合は、その日数に比例して短くなります。
なた、支給額は「休業開始時賃金日額 × 休業期間の日数(28日が上限)× 67%」となります。たとえば、賃金日額が8,000円で14日間の出生時育児休業を取得した場合は、「8,000 × 14 × 67%」で75,040円になります。
育児休業給付金は雇用保険の被保険者の方が、原則1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した場合、一定の要件を満たす場合に給付されます。
育児休業給付金の給付条件は、基本的に出生時育児休業給付金と変わりません。どちらも2回まで分割取得できるため計画的に利用しましょう。
育児休業給付の給付金は給料の何割が貰えるのでしょうか。給付金の計算式は以下です。
ここでいう「休業開始時賃金日額」というのは「育児休業前の6カ月間の賃金 ÷ 180」で算出します。
上記の場合、最初の180日間は「5,000 × 30 × 67% = 100,500円」、181以降は「5,000 × 30 × 50% = 75,000円」の支給になります。
ちなみに、育児休業給付の上限は2023年現在310,143円(67%時)と、231,450円(50%時)になります。また、出生時育児休業給付金については、289,466円が上限として定められています。
給付金の上限 | |
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育児休業給付 | 310,143円(67%時) |
231,450円(50%時) | |
出生時育児休業給付金 | 289,666円 |
社会保険料免除を受けている被保険者が、産休期間や育休期間に変更または予定より早く復職した場合は以下の届け出を提出します。
「産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届」と「育児休業等取得者終了届」は、事業主が日本年金機構に提出します。
ただし労働基準法(第65条第2項)において、使用者は産後8週間を過ぎていない女性に就業させてはいけないとの記載があります。産後6週間を過ぎた女性が請求した場合、医師が支障なしと認めたときは就労が可能です。その点だけ注意しましょう。
出産後育児休業を受けるだけでなく、子供を養育するために時短勤務を選択する労働者もいるでしょう。そのような労働者のための措置として、「養育期間の従前標準月額のみなし措置」を適用することができます。
時短勤務などを選択して標準報酬月額が低下する場合でも、将来的に受け取ることができる年金額は出産をする前の高い標準報酬月額であったとみなし計算するという措置です。
このみなし措置は、3歳未満の子の養育開始から3歳に到達した日の翌日の月の前月まで等を対象期間としています。
また、この措置を受けるためには、日本年金機構(管轄の年金事務所)に「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書・終了届」の提出が必要です。
産休終了日に当該産休に係る子を養育している被保険者は、一定の条件を満たす場合、随時改定に該当しなくても産休終了日の翌日が属する月以後3カ月間に受けた報酬の平均額に基づき、4カ月目の標準報酬月額から改定できます。
この措置を受けるためには、「産前産後休業終了時報酬月額変更届 厚生年金保険 70歳以上被用者産前産後休業終了時報酬月額相当額変更届」を日本年金機構(管轄の年金事務所)へ提出します。
対象となる従業員がいる場合、忘れずに申請しましょう。
産休、育休期間中の保険料免除制度とは、従業員、事業主の経済的負担を低減できる制度です。
事業主は従業員からの申し出があった時点で、速やかに健康保険組合や事業者の所在地を管轄する年金事務所に申請をし、復帰に向けたサポートをおこないましょう。
社会保険労務士の中でも、10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛ける特定社会保険労務士/ワークスタイルコーディネーター。なんば社会保険労務士事務所の所長。
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