この記事の結論
- みなし残業とは、残業割増賃金の計算の効率化を目的に一定時間の時間外労働をしたとみなす制度
- みなし残業代の計算方法は、1時間あたりの賃金額×残業割増率×固定残業時間
- みなし残業制度を導入するには36協定の締結が必要
この記事の結論
みなし残業は、あらかじめ定められた時間だけ働いたこととみなし、残業代を支払う制度です。事業者にとっては残業代の計算にかかる手間を削減できる一方で、適切に導入しなければ法令違反になりかねない側面もあります。
そこで本記事では、みなし残業の意味や種類、残業時間の上限、みなし残業代の計算方法、導入するメリットなどについて詳しく解説します。
目次
みなし残業とは時間外労働の計算を効率的におこなうために、一定時間の時間外労働をしたとみなして賃金を支払う制度です。
労働者はみなされた残業時間よりも短時間で仕事を終えることができ、逆に会社はみなされた残業時間を超えて労働者に労働を命じることも可能です。つまり、残業の有無や残業時間について縛る制度ではなく、あくまでも賃金計算の効率化のための制度です。
みなし残業が適用される制度には、次の2つがあります。
それぞれの制度について詳しく見ていきましょう。
事業場外労働制は、正式名称を「事業場外労働のみなし労働時間制」といい、労働基準法第38の2で定められています。主に、事業場の外で働く従業員の労働時間の計算が困難な職種に適用されます。
事業場外労働制の採用には、以下2つの条件を満たす必要があります。
たとえば、特定のプロジェクトにおいて、現場やクライアント先での業務遂行が必要な場合、監督者がその場にいることが条件です。労働時間の計算が困難な職種としては、記者や外周り営業などが挙げられます。ただし監督者の目が届かないのであれば、事業場外労働制は採用できません。
裁量労働制は、業務の忙しさが大きく変動する職種に適用される制度です。「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」があります。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
専門業務型裁量労働制は、全19種類の職種に適用できる裁量労働制度です。
事業者が業務遂行に関する具体的な指示が困難であり、労働時間および業務の進め方を従業員に任せた方がよい場合に導入できます。導入には、労使協定の締結と労働基準監督署への届出が必要です。
企画業務型裁量労働制は、一定の条件を満たす企画業務に従事する従業員に対して適用できる裁量労働制です。従業員は指示・監督を受けずに自らの裁量で労働時間を決めて仕事を進めることができます。
企画業務型裁量労働制を適用できるのは、以下の条件をすべて満たした業務をおこなうケースです。
企画業務型裁量労働制を適用するには、労使委員会の設置と労働基準監督署への届出が必要です。また、事業者の独断での導入はできず、労働者本人の同意のもとで適用することが求められます。
固定残業とは、実際の残業時間に関係なく一定の時間外手当を支給する制度です。
このように、固定残業とみなし残業は内容だけを見れば同じ制度です。
しかしみなし残業は適用できる条件が細かく決まっており、固定残業は企業が独自でルールを決めて導入できます。ただし、就業規則や雇用契約書に所定の項目を設ける必要があります。
また、固定残業を導入する前から働いている従業員に対しては、労働条件変更通知書や給与辞令など公的性が高い書類で、固定残業制を導入する旨を知らせる必要があります。
みなし残業には、法令において上限時間が規定されていません。しかし、みなし残業の導入において締結が必要な36協定では、1カ月の残業時間を原則45時間としているため、みなし残業においても45時間を上限とすることが一般的です。
また、45時間を越える残業が一時的に必要となった場合、特別条項の付加によって45時間以上の残業が認められる可能性があります。
みなし残業代は1時間あたりの賃金額を算出し、残業割増率と固定残業時間を乗じることで算出します。
みなし残業代の計算の手順
たとえば下記のケースの場合、みなし残業代は以下のとおりです。
1カ月の給与の総額 | 35万円 |
---|---|
1年間の所定労働日数 | 240日 |
1日の所定労働時間 | 8時間 |
固定残業時間 | 25時間分 |
240×8時間÷12カ月=160時間
35万円÷160時間=2,187円小数点以下切り捨て
2,187円×1.25×25時間=68,343円
みなし残業には、事業者側と従業員側の双方にメリットがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
みなし残業制度には、残業代計算における負担軽減のメリットがあります。
通常、企業は労働基準法に基づき、労働者に対して残業代を支給する必要があります。しかし、みなし残業制度を導入することで、一定時間の範囲内での労働を前提として、残業代を一律に計算・支給することができます。
1カ月のみなし残業時間を20時間までと定めた場合、残業時間が20時間未満であっても20時間働いたとみなして、みなし残業代を一律で支給することが可能です。
ただし、みなし残業代を定めていてもみなし残業時間を超えて働いた分については、別途残業代を計算して支給する必要があります。
みなし残業制度の導入により、従業員のモチベーションが上がる可能性があります。通常の労働環境では実際に働いた時間に基づいて賃金が支給されるため、働き手が効率的に業務をこなしたとしても得られる賃金が増えることはありません。
しかしみなし残業制度では、早く仕事が終わった場合でも、あらかじめ定められたみなし残業代が支給されます。つまり、仕事が早く終わって退社できるうえに、実際よりも多く働いたとみなされるため、効率的な業務遂行に対するモチベーションが上がるでしょう。
月の残業時間が20時間と定められている場合、15時間で業務を完了したとしても、20時間分のみなし残業代が支給されます。労働時間が短くなったうえに、自身が遂行した業務の正当な対価を得られたことになるため、モチベーションアップにつながります。
みなし残業は、実労働時間ではなく、あらかじめ定めた一定の残業時間に基づいて賃金計算をおこなう制度です。適切な制度設計と法令順守が重要であり、従業員と企業の双方にとって公平で持続可能な労働環境を構築するために慎重な導入が求められます。
今回、解説した内容を参考に、みなし残業制度が自社に適しているかどうか検討してみてください。
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