この記事でわかること・結論
- 社会保険料は、4月から6月に支給される報酬を平均した「標準報酬月額」によって決まる
- そのため、4月から6月の給与に残業代が含まれる場合は社会保険料が高くなる
- 社会保険料が高くなることは、給付金などが増えるというメリットもある
この記事でわかること・結論
社会保険料は4月から6月に支給される報酬によって上がることがあります。実際に3月から5月などに残業していた方は、年の途中から手取りが減ったという経験があるでしょう。
いつもより手取りが減るため、なかには税金が増えたと勘違いされている方もいます。ですが正しくは社会保険料です。いつから、どのように社会保険料が変更になっているのかを知っておきたいところです。
そこで本記事では、4月から6月の報酬と社会保険料の関係、および算出のおいて重要な標準報酬月額という仕組みについて解説していきます。
目次
社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料など)は、毎年4月から6月の報酬によって決まります。正しくは、4月から6月に事業主から受けた報酬額の平均を「標準報酬月額」という区分に当てはめて社会保険料が決まるという仕組みです。
そのため3月から5月に残業をした場合は、4月から6月の報酬が「固定給与+残業代」になるため、社会保険料が高くなるかもしれません。
健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料は、標準報酬月額と保険料率で決定します。健康保険料率は事業主が加入する健康保険組合および都道府県で異なり、厚生年金保険料率は国内一律18.3%です。保険料率は決められているものであるため、個人ごとの標準報酬月額によって社会保険料が異なります。
それぞれ、標準報酬月額に当てはめた保険料の金額は健康保険組合(例:全国健康保険協会)や日本年金機構の公式Webサイトで確認ができます。年の途中から手取りが減ったという方は、この標準報酬月額の見直しによる社会保険料の変動が影響していることが多いです。
4月から6月の報酬で決まった新しい標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月までの適用になります。ですが、社会保険料は基本的に「前月分を控除するもの」であるため、適用された9月分の社会保険料が差し引かれるのは10月支給分からになります。
会社によっては当月控除のところも存在しますが、その場合は9月支給分から新しい社会保険料が差し引かれます。
社会保険料は標準報酬月額をもとに1年間分が決定します。ここでは、標準報酬月額の仕組みや実際どのくらい保険料が変化するのかを解説します。
標準報酬月額とは、被保険者が事業主から支給される月額報酬を等級区分したものを言います。健康保険料や厚生年金保険料を決定するための基準となります。
健康保険は1等級から50等級、厚生年金保険は1等級から31等級まで区分されています。健康保険組合や日本年金機構が公表している保険料額表では、各保険料の全額と折半額が一目で確認できます。
上記画像は、東京都における全国健康保険協会(協会けんぽ)の保険料額表です。左側に標準報酬月額の欄があり、金額に応じた保険料額が右側で確認できます。
社会保険は、事業主と被保険者がそれぞれ保険料を負担する「労使折半」が基本となっているため、被保険者が負担する保険料は折半額を見ることで把握できます。また、月額報酬に含むものは「労働対価として事業主から支給される現金または現物」であり、具体的には以下があります。
出張費や退職手当、結婚祝い金や出産祝い金など臨時的に支給されるものは月額報酬として含まれないため注意しましょう。
標準報酬月額が決まるタイミングは大きく分けて、資格取得時(入社時)・定時決定(毎年7月)・随時改定の3つがあります。
まずは、入社時に社会保険の資格を取得します。このタイミングで決まる標準報酬月額は「今後受け取る予定の月額給与」をもとに決まります。
定時決定とは、毎年1回おこなわれる標準報酬月額の見直しのことを言います。
具体的には、まず事業主が毎年7月に算定基礎届を管轄の年金事務所などに提出します。厚生労働大臣は提出された算定基礎届を確認し、直近3カ月間(4月から6月)の報酬月額に基づいて標準報酬月額を決定し直します。
その後は事業主に標準報酬決定通知が届き、新しい標準報酬月額がその年の9月から翌年8月まで適用されます。新しい社会保険料は翌月控除であれば、実際に差し引かれるのは10月支給分からとなります。
随時改定とは、固定給与などに大きな変動があった場合に標準報酬月額が都度見直しされることを言います。随時改定は、定時決定を待たずにおこなわれます。主に昇給や降給があった際などが該当しますが、具体的には以下の条件をすべて満たす場合に随時改定がおこなわれます。
随時改定がおこなわれた場合は、変動月より4カ月目から新しい標準報酬月額が適用されます。そして新しい社会保険料は、翌月控除の会社であれば適用月の翌月支給分から差し引かれます。
たとえば4月の給与から上がった場合、新しい標準報酬月額の適用は7月、そして新しい社会保険料の控除は8月支給分からとなります。
例として、全国健康保険協会に加入している東京都の会社員A(30歳)さんがいたとします。先ほど触れた「保険料額表」をもとに、標準報酬月額が「30万円」の場合と残業などして「34万円」になったケースで見てみましょう。社会保険料は本人負担額(折半額)を参考にします。
標準報酬月額が30万円の場合は、健康保険料が1万4,970円で厚生年金保険料が2万7,450円の合計「4万2,420円」が本人負担額です。標準報酬月額が34万円になると、健康保険料が1万6,966円で厚生年金保険料が3万1,110円の合計「4万8,076円」が本人負担額となるため、社会保険料は5,656円上がります。
4月から6月の報酬で決まった新しい社会保険料は1年間適用されます。固定給与が変わらない場合、社会保険料だけ高くなることで手取りが1年間減ることもあります。
4月から6月の報酬に応じて標準報酬月額が変更になり、社会保険料が上がれば手取りが減ります。そのため、一見するとデメリットのように感じます。ですが、標準報酬月額が高くなり社会保険料を多く支払うことによるメリットもあります。
業務外の病気やけがで療養中のときなどに保障してくれる「傷病手当金」や、出産で会社を休む場合などにもらえる「出産手当金」は、標準報酬月額をもとにして受取額が決まります。
そのため、社会保険料負担は増えますが標準報酬月額が高くなることで上記の給付金などが多くもらえるというメリットがあります。
厚生年金(老齢年金、障害年金、遺族年金)は、加入期間や標準報酬月額をもとにして受取額が決まります。そのため上記2つと同様に、標準報酬月額および社会保険料が高くなることで将来もらえる年金受取額が増えます。
社会保険料は、4月から6月の報酬をもとにした「標準報酬月額」を利用して決まります。そのため残業などをおこない、標準報酬月額が上がった場合は社会保険料も高くなります。入社時に決まった標準報酬月額の変更タイミングは、毎年1回見直しされる定時決定と、大きな変動があった場合に見直しされる随時改定があります。
社会保険料を多く払うことで、年金や傷病手当金などが多くもらえるというメリットもあります。ですが手取りにも影響するため、4月から6月の報酬と社会保険料の関係をよく理解しておきましょう。
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