社会保険制度は複雑で、以下のように人為的ミスが起こりやすい要因が多くあります。
・毎年のように制度改正がある
・所定の期限内にすべての従業員の保険料を計算しなければならない
本記事では、社会保険料の徴収漏れや払い過ぎなど、社会保険料の徴収ミスが発生した場合の対処法についてわかりやすく解説します。
目次
社会保険料とは、健康保険料などの総称です。社会保険の加入条件を満たしている会社と従業員は社会保険料を支払う義務があります。
また、社会保険料は従業員への給与支給時に会社で天引きする控除額を意味します。給与計算時の従業員への支給額は、次のとおりです。
従業員の所得税の計算上、社会保険料控除に該当する社会保険料は14種類あります。
社会保険料控除に該当する社会保険料
上記のうち、会社の給与計算で扱うことが多い社会保険料は次の5種類です。
会社の給与計算で扱うことが多い
社会保険料の種類
上記の社会保険料5種類のうち、健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料を(狭い意味で)社会保険料と呼ぶことが多くあります。また、雇用保険料と労働者災害保険料の2つをあわせて「労働保険料」ということもあります。
社会保険料の計算式についても覚えておきましょう。
狭義の社会保険料は「標準報酬月額」に保険料率をかけて算出し、会社と従業員が2分の1ずつ負担します。
労働保険料は会社の1年間での「賃金総額」に保険料率をかけて計算します。全額会社で負担するのは、労働者災害保険料のみです。
計算式 | 負担割合 | |
狭義の社会保険料 | ||
健康保険料 | 標準報酬月額×健康保険料率 | 会社負担2分の1 従業員負担2分の1 |
厚生年金保険料 | 標準報酬月額×厚生年金保険料率 | 会社負担2分の1 従業員負担2分の1 |
介護保険料 | 標準報酬月額×1.64% | 会社負担2分の1 従業員負担2分の1 |
労働保険料 | ||
雇用保険料(年額) | 1年間の賃金総額×1,000分の13.5
または 1,000分の15.5 もしくは 1,000分の16.5 (雇用保険料率は、業種により異なります) (2022年10月1日から2023年3月31日までの雇用保険料率です)
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雇用保険料率が1,000分の13.5の場合
会社負担1,000分の8.5従業員負担1,000分の5.0 雇用保険料率が1,000分の15.5の場合 会社負担1,000分の9.5従業員負担1,000分の6.0 雇用保険料率が1,000分の16.5の場合 会社負担1,000分の10.5従業員負担1,000分の6.0 (業種により異なります) |
労働者災害保険料(年額) | 1年間の賃金総額×1,000分の2.5から1,000分の88(業種により異なります) | 全額が会社負担 |
社会保険料の計算で重要なものが「標準報酬月額」です。標準報酬月額は、毎年4月から6月の平均給与に基づいた報酬月額を「算定基礎届」として年金事務所に提出します。
決定された標準報酬月額は、9月から翌年8月まで適用(10月納付分から翌年9月納付分まで)されるため、間違えると影響が大きいことに留意しましょう。
社会保険料は総支給額ではなく、標準報酬月額または賃金総額に基づいた料率で計算した保険料を納付します。社会保険料の計算を誤ると、社会保険料の徴収漏れまたは過納付(払い過ぎ)が発生します。
また社会保険料は、所得税を計算するときの控除額です。社会保険料の徴収漏れは所得税における控除額が過少となったこと、つまり所得税を過大に納付していたこととなります。
逆に社会保険料を過大に納付していた場合(「過誤納付」といいます)は、所得税の納付額が過少であったこととなります。
社会保険料を誤る原因
社会保険料として会社が納付する金額に対して、会社が従業員から天引きした金額が少なくなります。
社会保険料は翌月末までの納付が必要であるため、早期の修正が必要です。翌月の修正に間に合わない場合は、年末調整で修正しましょう。
徴収漏れの原因が標準報酬月額の計算ミスであった場合は、所定の手続きが必要です。
従業員から徴収した社会保険料が過大となる場合もあります。当月または翌月における清算が望ましいですが、当年中の誤りであれば徴収漏れと同じように、年末調整時に正しい金額に直すこともできます。
社会保険の未加入・社会保険料の徴収漏れが判明した場合は、会社としての対応策を検討し、従業員へ説明します。
社会保険料の徴収漏れは、給与明細の再発行や従業員からの追加徴収などが発生します。そのため、早期に従業員への謝罪と説明をおこなうべきです。
会社が従業員へ給与明細を発行する義務は、所得税法第231条に明記されています。給与明細に記載している税金や社会保険料に誤りがあった場合は、変更後の給与明細を早めに交付します。
在籍している従業員に対する対応は、次のとおりです。
在籍中の従業員への対応
既に退職した従業員に対する対応は、次のとおりです。
既に退職した従業員に対する対応
退職者における対応の場合は、退職月における社会保険料の取り扱いに注意しましょう。
退職者の保険料は、退職日が月の途中である場合、退職日の当月分の社会保険料の納付は不要となります。かわりに、退職した従業員において国民健康保険への加入あるいは新しい職場での社会保険への加入が必要です。
月末日に退職した場合は、退職日の当月分までの保険料を納付する必要があります。月末日の退職者は退職日の月に、前月分と退職月分の2カ月分を天引きすることができます。
従業員の社会保険への加入手続きが漏れていることもあります。未加入の従業員については、加入資格を得たときまでさかのぼって社会保険料を納付します。遡及できる期間は過去2年間までです。
社会保険料の徴収漏れを修正した場合は、会社の経理における仕訳の修正も必要です。過大な金額で徴収していた場合の修正も発生します。徴収漏れを翌月に追加で徴収した場合は、毎月の仕訳と同じく法定福利費勘定または預り金勘定で仕訳します。
徴収漏れを会社負担とした場合は、本来は従業員が納付すべき保険料を会社が負担したこととなるため、課税所得となる点に注意が必要です。
2022年10月から社会保険が適用される社員の範囲が拡大され、従業員数101名以上の会社のパートタイムやアルバイトも適用対象となりました。
2024年10月からは、従業員数51名以上の会社で働くパートタイムやアルバイトも適用対象に拡大されます。また、2023年4月から、残業手当の法定割増賃金率も変わります。
今後も社会保険の適用対象拡大や料率改定の可能性などもあるため、給与計算事務など社会保険料に関する業務量の増加が予想されます。
社会保険料は計算や納付期限が複雑であるため、計算ミスの可能性があります。また納付期限までの時間的な制約もあり、業務負荷が高い領域です。社会保険料の徴収漏れは、所得税にも影響を与えます。
社会保険料を適正に徴収するためには、給与計算システムの導入など社会保険料の適正な計算を効率的におこなう体制づくりを徹底しましょう。
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