社会保険労務士法人岡佳伸事務所 代表 特定社会保険労務士
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開業社会保険労務士として活躍。各種講演会(東京商工会議所練馬支部、中央支部、公益社団法人東京ビルメンテナンス協会)講師及び各種WEB記事執筆、日経新聞、女性セブン等に取材記事掲載、NHKあさイチ2020年12月21日、2021年3月10日にTVスタジオ出演。
特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
派遣スタッフの労務管理は自社の従業員よりも難しいと言われます。それは、派遣元企業・派遣スタッフ・派遣先企業という三者の利害や立場が関係するためです。派遣スタッフを使用するには、派遣ならではの労務管理のポイントを把握しておく必要があります。
ここでは、派遣スタッフに関する給与計算から労働法、時間外勤務の三六協定まで、労務管理や労務問題の解決に役立つ基礎知識をまとめてみます。
派遣スタッフを自社のパートやアルバイトと同じように考えてはいませんか。
同じ職場で働いているように見えても、派遣スタッフは従業員とは異なります。
まず、派遣スタッフは派遣会社など派遣元から自社まで仕事をしに来ているという図式を念頭に置かなければなりません。派遣スタッフとは派遣会社の社員であり、契約も派遣会社と自社の契約となるためです。そのため、派遣スタッフには以下のような注意点があります。
派遣スタッフは自社との間に雇用関係は持っていません。派遣元企業と雇用関係を結んでいるからです。派遣元企業と派遣先とは労働者派遣契約を結びます。派遣会社と派遣スタッフが雇用関係にあるだけなら、当然自社で働かせることはできません。
そこで労働者派遣契約に基づいて派遣スタッフに指揮命令をし、業務を遂行させる必要があります。よく請負契約と混同されますが、請負業者と派遣スタッフの間には雇用契約と指揮命令関係の両方があるのに対し、派遣先企業はあくまで指揮命令権しか持たないのが特徴です。
派遣スタッフも労働者である以上、さまざまな労働法に守られています。労務管理にあたって、派遣先企業は労働基準法や労働安全衛生法など労働者に対して管理責任を負います。ただ、派遣スタッフが雇用関係にあるのはあくまで派遣元企業です。
したがって、労務管理は派遣元と派遣先が責任を分担して行います。たとえば、労働基準法に基づいて派遣元は労働契約や賃金の支払い、有給休暇などを取り扱います。給与計算もあくまで労働時間を報告するだけで、基本的に派遣元企業が行います。
一方、派遣先は労働時間や休憩、休日に関して配慮する義務を負います。また、労働安全衛生法に基づいた一般健康診断は派遣元に責任がありますが、現場での安全衛生教育や特殊健康診断など業務にあたって必要な安全処置は派遣先が担います。ちなみに衛生管理者等の選任は自社の従業員数だけでなく派遣スタッフもカウントしなければなりません。
派遣先企業は派遣スタッフと雇用契約ではなく労働者派遣契約で結ばれています。したがって雇用主としての責任は派遣元企業にあります。派遣で雇用契約が問題となるのは派遣期間の終了や再雇用のケースです。派遣契約と雇用契約はあくまで法律的には別個のものですが、一般的に派遣契約が終わると雇用契約が終わります。
また、離職して1年以内の派遣スタッフを同じ職場に再び派遣することが禁止されています。もし優秀な派遣スタッフをそのまま使用したい場合は、紹介予定派遣のような正社員や契約社員での雇用を前提とした労務管理が必要となります。
派遣元企業と雇用関係にある派遣スタッフを時間外労働させる場合はどのようにすればいいのでしょうか。いわゆる月45時間以上の時間外労働を可能にする三六協定を派遣スタッフと結ぶことは可能です。
ただし、派遣先である自社とではなく、あくまで派遣元企業との協定となります。なお、派遣先企業は三六協定の特別条項を理由に残業を求めることはできません。三六協定を巡っては派遣元企業とトラブルになりやすいポイントなので十分注意してください。
契約にない仕事をさせてしまったり、当初の勤務条件と実体が大きく離れていたりすると派遣元企業や派遣スタッフとの労務問題に発展することがあります。こうした派遣を巡るトラブルは他の従業員や派遣スタッフにも動揺を与えます。処理が遅れれば、法的手段を使って解決をしなければならなくなります。
双方の主張に食い違いがある場合は、まず派遣元企業と話し合い、それでも解決ができないと判断すれば労働局やハローワーク、労働基準監督署に相談しましょう。健康保険や年金関係のトラブルは年金事務所の窓口がスムーズです。
派遣スタッフも自社の大切な従業員の一員として、労働法に沿った労務管理が大切です。ただ、派遣を使う際には、独特の事務処理や遵守すべき法律など知っておくべきポイントがいくつか存在します。
派遣スタッフは派遣元企業と雇用契約を結んでいるという基本をしっかり踏まえながら、派遣元と派遣スタッフそれぞれの関係を良好に保ちましょう。そのためにも、自社で行うべき労務管理の基本を押さえて責任ある派遣利用を目指しましょう。