この記事でわかること・結論
- 年末調整における所得税の考え方
- 年末調整の所得控除および所得税額控除と計算手順
- 所得金額調整控除について
この記事でわかること・結論
企業は、原則として従業員の年末調整をおこない、適切な税額を税務署などで納めなければなりません。年末調整は原則として企業(雇用主)の義務であり、正しくおこなわなければペナルティが発生します。
一定の要件を満たす会社員を対象に『所得金額調整控除』が適用されます。この記事では、年末調整における所得税の考え方や知っておくべきポイントを解説します。
目次
企業は従業員に対して支払う給与から、所得税と復興特別所得税を天引き(源泉徴収)しています。しかし、当年中に源泉徴収した税金の合計額と、本来納付すべき税金の合計額が異なる場合があります。
このズレを解消し、正しい所得税額を納める手続きが「年末調整」です。
年末調整は原則として企業の義務であり、正しくおこなわなければペナルティが発生します。
具体例 | 罰則 |
---|---|
年末調整をおこなわず、従業員から正しい税額を徴収しなかった場合 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金(所得税法第242条) |
年末調整をおこなったが、追加の徴収額を納付しなかった場合 | 10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはその両方(所得税法第240条) |
ただし、年末調整の実施日までに従業員が『給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』を提出しなかった場合、企業に年末調整の義務は発生せず、従業員本人に確定申告をおこなってもらいます。
年末調整で判明した税金の過不足調整のため、従業員へ誤差分の還付もしくは徴収をおこないます。
一般的な企業では事務手続きを効率的におこなうため、12月の給与を支払う段階で還付や徴収をおこないます。しかし従業員数が増えるほど、年末調整の事務作業の負担は大きくなります。
年間所得を計算する年末調整の特性上、12月に入ってから給与支払期日までに処理を終えなければなりません。限られた時間のなかで作業に追われることとなり、ミスも起こりやすくなります。
所得控除とは、特定の条件を満たす従業員に対して所得金額から一定額を控除し、課税所得税額を減らすことのできる制度です。
たとえば、扶養家族の人数や障がいの有無によって控除金額が決まります。ただし、年末調整で処理できない所得控除の種類があります。
所得税額控除とは、所得税額(=課税所得金額×所得税率)から一定額を控除し、納税額を減らすことのできる制度です。
所得控除が課税前の所得額から差し引くのに対し、税額控除は課税後の金額から差し引きます。所得控除と同様に、年末調整で処理できない税額控除があります。
年末調整の所得税の計算は、以下の手順でおこないます。
従業員ごとの給与および賞与から年間の給与所得金額と、すでに毎月の給与から天引きしている社会保険料と源泉徴収税を算出します。
給与所得額を算出するため、給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額)から給与所得控除額を差し引きます。
給与所得控除額は、収入金額によって異なります。令和2年分以降の収入金額別の給与所得控除額は、下記の表のとおりです。
収入金額 | 給与所得控除額 |
---|---|
180万円以下 | 収入金額×40%-10万円 55万円に満たない場合には、55万円 |
180万円超360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 |
360万円超660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円(上限) |
給与所得から所得控除を差し引き、課税所得を算出します。所得控除は『人的控除』と『物的控除』の2種類に分けられます。
人的控除は、従業員本人および扶養家族の状況によって控除を受けられます。物的控除は、当年に支払ったお金の内容によって控除を受けられます。
控除の種類 | 給与所得控除額 | |
---|---|---|
基礎控除 | 0万円〜480,000円 ※ |
|
扶養控除 | 一般の控除対象扶養親族 | 380,000円 |
特定扶養親族 | 630,000円 | |
老人扶養親族(同居老親等以外) | 480,000円 | |
老人扶養親族(同居老親等) | 580,000円 | |
障害者控除 | 一般の障害者 | 270,000円 |
特別障害者 | 400,000円 | |
同居特別障害者 | 750,000円 | |
寡婦控除 | 一般の寡婦 | 270,000円 |
特別の寡婦 | 350,000円 | |
寡夫控除 | 270,000円 | |
勤労学生控除 | 270,000円 |
などの合計金額により決まります。
所得税額は、課税所得に所得税率をかけて算出します。所得税率は、課税所得の金額によって異なります。
所得税額=年間の所得金額×税率-控除額
課税される所得金額が、1,742万円を超える場合、年末調整の対象外となります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え1,742万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
所得金額が500万円の場合は以下の計算式が成り立ちます。
所得金額調整控除とは、令和2年以降に新たに創設され、令和3年から適用される制度です。年収850万円以上かつ一定の要件を満たす会社員を対象に、税負担を軽くする目的で設けられました。
所得金額調整控除には「子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除」と「給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除」があります。それぞれ以下の要件を満たす従業員が適用されます。
上記に当てはまる従業員の給与所得から、850万円を控除した金額の10%を控除します。
上記に当てはまる従業員の給与所得※から「合計金額ー10万円」を控除します。
子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除に当てはまる場合は、その適用後。ただし、当年の「給与所得控除後の給与などの金額」および「公的年金に係る雑所得」がそれぞれ10万円を超える場合は、10万円で算出します。
給与所得控除後の給与などの金額が300万円、公的年金に係る雑所得が100万円の場合、合計金額は20万円となります。
所得金額控除は、年末調整に適用できます。
給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書を使用します。
企業側は従業員の所得税を正しく計算し、年末調整の申請をしなければなりません。
よくあるトラブル
対処方法
企業の義務である年末調整では、源泉徴収していた所得税額と本来納付すべき所得税の合計額のズレを解消し、正しい所得税額を納める手続きです。
年末調整は毎年必ず発生する業務です。従業員ごとに年間の所得金額を計算し、所得税を算出する業務は人事労務担当者にとって負担が大きいといえます。年末調整システムを導入するなどして対策を行いましょう。
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