この記事でわかること・結論
- 労働保険の年度更新とは、新年度の概算保険料と前年度の確定保険料を申告・納付する手続き
- 労働保険の年度更新は、7月10日までに事業主が申告書提出と保険料納付をおこなう
- 労働保険の年度更新は、電子申請でも対応可能であるため積極的に利用することがおすすめ
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労働保険(労災保険/雇用保険)この記事でわかること・結論
労働保険の年度更新とは、毎年1回おこなう労働保険料の申告と納付の手続きです。主に、前年度の確定保険料と新年度の概算保険料を申告して納付します。
労災保険と雇用保険それぞれの被保険者の賃金総額などをもとに、事業主が申告書を作成する必要があります。提出が遅れると追徴金が発生する可能性もあるため、スムーズに対応できるようにしておきたいところです。
そこで本記事では、労働保険の年度更新についてわかりやすい流れや提出方法などを解説します。また、電子申請でおこなうメリットもあわせて紹介しています。
目次
労働保険とは、労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険のことを言います。主に、労働者やその家族を対象とした社会保険制度のひとつです。
正社員をはじめ、パートタイム・アルバイトや契約社員などにかかわらず、1人でも労働者を雇用する事業主は労働保険に必ず加入する必要があります。労働者とは、雇用形態にかかわらず労働に対して賃金が支払われる者を言います。
労災保険とは、労働中の災害や業務上の疾病による障害、死亡に対する補償をおこなう制度であり、労働者の安全と健康を守ることが目的です。労災保険料は全額事業主が負担します。
雇用保険とは、労働者が失業した場合などに必要な給付をおこなう制度であり、雇用の安定や失業時の生活保護を目的としています。雇用保険料は労働者と事業主がそれぞれに決められた割合で負担します。
労働保険のなかでも、労災保険は短時間労働者含むすべての労働者が対象者です。対して雇用保険は労働時間など一定の条件があり、その条件を満たす場合は短時間労働者でも対象者となります。
労働保険料は、労働者に支払った1年間の賃金総額にそれぞれの保険料率をかけて算出しますが、細かな違いがあります。なお労働保険料の徴収は、労災保険料と雇用保険料を一体としておこなわれます。
労災保険の保険料は、事業主が全額負担します。保険料率は、労働災害のリスクが異なるという理由から事業ごとの割合が定められています。最新の具体的な割合は、厚生労働省の公式Webサイトで公表されている「労災保険率表」にて確認できるため計算時には必ず参考にしましょう。
また、労災保険料率は原則3年ごとに見直しがされており、近年では2024年から変更されているためよく確認が必要です。
雇用保険の保険料は、事業主と労働者がそれぞれに定められた割合を負担します。事業の種類ごとに異なるため、細かくチェックしておきましょう。雇用保険料率についても、厚生労働省の公式Webサイトにて最新の割合が確認できます。
上記の雇用保険料率は、2024年4月1日から2025年3月31日まで適用されます。労災保険料とあわせて必ず参考にしましょう。
労働保険料は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間(保険年度)ごとに”新年度分の保険料を概算で納付”して、賃金総額が確定した”前年度分の保険料を精算して納付”するという方法が採用されています。
そしてこの、新年度分の概算保険料と前年度分の確定保険料を申告・納付する手続きのことを「労働保険の年度更新」と呼びます。
労働保険の年度更新は、毎年6月1日から7月10日までの間におこなわなければなりません。
労働保険の年度更新を忘れてしまった場合は、政府が保険料や拠出金の額を決定します。加えて、納付する保険料と拠出金の10%という追徴金が事業主に対して課される可能性があります。
年の途中かつ期間が約1カ月間と短いですが、失念してしまわぬように注意しましょう。年度更新の具体的な流れは次で解説します。
労働保険の年度更新について、詳しい流れを確認しておきましょう。
労働保険の年度更新の流れ
毎年5月の下旬頃に、管轄の都道府県労働局から申告関係書類が送付されます。以下の申告関係書類が同封されているため、届いたら中身を確認します。
上記の申告関係書類があることを確認できたら、作成に進みます。
まずは、確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表(以下、賃金集計表)を作成します。この賃金集計表は提出する必要はありませんが、年度更新の関連書類として残しておくことが理想です。
そして確定保険料を計算する際は前年度の賃金台帳を参考に、前年4月〜今年3月に支払った賃金総額に保険料率をかけて算出します。厚生労働省が年度更新時のために「年度更新申告書計算支援ツール」を公開しているためぜひ活用しましょう。
作成した賃金集計表をもとに、労働保険概算・増加概算・確定保険料 石綿健康被害救済法一般拠出金申告書(以下、申告書)を作成します。
この申告書は上段に確定保険料算定内訳、下段に概算・増加概算保険料算定内訳を記載する箇所があります。それぞれ以下を参考に計算して保険料などを記載しましょう。
確定保険料算定内訳 | 前年度に支払われた賃金総額をもとに、確定保険料を記載します。 |
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概算・増加概算保険料算定内訳 | 新年度に支払われることが予定される賃金総額見込み額をもとに、概算保険料を記載します。 |
新年度に支払われることが予定される賃金総額見込み額は、前年度の賃金総額から計算します。そのため、保険料率に変更があった場合は概算保険料と確定保険料に差額が生じることを覚えておきましょう。
また、労災保険と雇用保険はそれぞれ被保険者の対象が異なるため区別して計算するようにします。
申告書が記載できたら、提出と保険料の納付をおこないます。提出期限は7月10日までです。提出先として対応している機関は、以下のとおりです。申告書提出と保険料納付が両方可能である機関や、申告書提出のみ対応している機関があります。
機関 | 可能な対応 |
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金融機関(銀行・郵便局・信用金庫) | 申告書提出と保険料納付が両方可能。 申告書提出のみは× |
都道府県労働局や労働基準監督署 | 申告書提出と保険料納付が両方可能。 申告書提出のみも⚪︎ |
社会保険・労働保険徴収事務センター | 申告書提出のみ可能 |
また、労働保険料の納付は一括納付を原則としていますが、概算保険料が40万円以上である場合は3回の分割納付ができます。
年度更新の申告書は、窓口や郵送で提出のほかに電子申請で送ることも可能です。具体的には「e-Gov電子申請」を利用します。
マイナンバーカードやカードリーダー、認証局から電子証明書を取得するなどの利用準備が事前に必要です。その後、e-Gov電子申請にて申請したい様式を検索してそのまま作成と電子申告をします。
電子申請には、上記のようなメリットもあるため積極的に利用していきましょう。また、政府が定める特定法人に該当する場合は、労働保険手続きの一部において電子申請が義務とされています。詳しくは下記の記事をチェックしてみてください。
労働保険の年度更新について注意点が3つあるため解説します。
労働保険の年度更新は複雑な計算を必要とします。保険料率の改定がある場合は、入念に労働保険料の計算をおこなうことが必要です。特に、2024年は労災保険料率が改定されているため要注意です。必ず厚生労働省が公表している「労災保険率表」を確認しながら進めましょう。
労働保険料の計算時は、賃金の対象と賃金の対象外を理解しておく必要があります。
賃金の対象 | ・基本賃金 ・賞与 ・通勤手当 ・休業手当 ・社会保険料 ・時間外労働手当 |
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賃金の対象外 | ・傷病手当金 ・役員報酬 ・出張旅費 ・宿泊費 ・結婚祝い金 ・退職金など |
基本賃金や賞与、通勤手当などは賃金の対象となります。しかし、傷病手当金や役員報酬、出張旅費や宿泊費などは賃金には含まれません。賃金総額の計算で労働保険料にも大きく影響してしまうため、賃金集計表の作成時などは特に注意して進める必要があります。
65歳以上の雇用保険加入者を高年齢被保険者と呼びます。65歳以上の高齢者でも雇用保険の加入条件を満たしている場合は加入義務があるため、自社に該当する労働者がいるかどうかを確認しましょう。
上記、雇用保険の加入条件を満たしている65歳以上の労働者がいる場合は、雇用保険料が発生するためしっかり計算する必要があります。
労働保険の年度更新とは、毎年1回おこなう労働保険料の申告と納付をする手続きのことを指します。毎年6月1日から7月10日の間に、事業主が手続きをする必要があります。
労働保険料は、年度更新のタイミングで「新年度の概算保険料」と「前年度の確定保険料」をそれぞれ申告・納付するという方法で支払います。
保険料の計算をおこなって提出する申告書を作成しますが、賃金総額や保険料率などをもとに細かな計算をひとつひとつ進める作業になります。不備がないよう、本記事を参考にしっかりと理解しておきましょう。
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