この記事でわかること・結論
- 出勤停止とは違反行為をした労働者を一定期間就労禁止にすること
- 懲戒処分のひとつであり、出勤停止中に賃金は発生しない
- 出勤停止の実施は就業規則をもとに正しい流れで進める必要がある
この記事でわかること・結論
出勤停止とは、懲戒処分のひとつであり「就業規則違反や業務命令違反などを起こした労働者に対して一定期間の就労を禁止すること」です。
出勤停止期間中は賃金が支給されません。また、適切に懲戒処分をおこなうためにも就業規則に違反行為ごとの期間を定めることや、正しい懲戒処分の流れを知ることが大切です。
そこで本記事では、出勤停止の基本事項や違反行為例、懲戒処分を実施する流れや注意点を解説します。出勤停止を命じる際に使える懲戒処分通知書の無料テンプレートも紹介するのでぜひ参考にしてください。
目次
出勤停止とは、懲戒処分のひとつであり「労働者に対して、会社に出勤することを禁止すること」です。会社で定めている就業規則などを違反した労働者に対して、一定期間働くことを禁止するときに出勤停止が命じられます。
就業規則違反または業務命令違反などの労働者に対して、就労禁止を命じる懲戒処分が「出勤停止」です。原則として、一定期間の出勤停止になっている間は賃金が発生しません。会社の就業規則によっては始末書の提出を求めることもあります。
出勤停止中は出勤が禁止されるだけではなく、働くことも禁止となります。もちろん、出勤しない代わりに在宅ワークを希望するということもできません。出勤停止は懲戒処分のなかでは比較的処分が軽い方にはなりますが、出勤停止期間中は賃金が支給されないため厳しいと感じる方がほとんどでしょう。
就業規則違反や業務命令違反などをした労働者におこなうのが「懲戒処分」です。自身の行為を改めてもらうためにも、ペナルティとして懲戒処分を決めておくのが一般的です。出勤停止を含む一般的な懲戒処分は、全部で7つあります。
懲戒処分 | 内容 |
---|---|
1 訓告・戒告 | 厳重注意すること |
2 譴責(けん責) | 始末書を提出させること |
3 減給 | 賃金を減額すること |
4 出勤停止 | 一定期間の就労を禁止すること |
5 降格 | 役職がある場合に降格し、役職手当などを支給しないこと |
6 諭旨解雇 | 対象者に退職を勧告すること |
7 懲戒解雇 | 強制的に退職を命じること |
軽い違反をした労働者には「訓告」「戒告」「譴責(けん責)」などの注意程度や始末書の提出などを命じます。それぞれ同じ意味合いで扱われており、企業によって呼び方が異なります。
上記のような懲戒処分でも改善が見られない場合は、減給されることもあります。そして、出勤停止は「無断欠席・暴力行為」などがあった際に命じられることが一般的です。
さらに上の降格(役職などがある場合)、諭旨解雇、懲戒解雇は、横領などの犯罪行為が該当します。出勤停止は懲戒処分では4段階目ですが、該当する違反行為は会社への被害が大きいものがほとんどです。出勤停止となる具体的な行為例は次に紹介します。
就業規則違反や業務命令違反などの度合いに応じた懲戒処分が命じられますが、出勤停止となるのはどのような違反行為があるのでしょうか。一般的に出勤停止が命じられるような違反行為例を以下にまとめました。
上記のように、企業への損失がやや大きいものなどが出勤停止となります。犯罪行為・横領・情報漏洩など、さらに大きな被害を出すような行為については諭旨解雇や懲戒解雇などが命じられます。
昨今では、パワハラやセクハラなどのハラスメント行為も問題視されています。加害者となる労働者には出勤停止、重度のハラスメント行為であれば諭旨解雇や懲戒解雇などもあり得ます。
出勤停止期間中の給与は一般的には支給されません。これは「ノーワーク・ノーペイの原則」という考えか方に基づくものです。
労働がなかった場合や労使双方の責に帰すべき事由にかかわらず労務の提供がおこなわれなかった場合に、企業は賃金の支払い義務を負わないという考え方です。
つまり「労働しないのであれば、会社が給与を払う義務がない」ということです。ノーワーク・ノーペイの原則については労働基準法第24条で定められています。
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
一定期間とはいえ賃金が発生しないため、労働者にとっては経済的に厳しい処分でしょう。出勤停止を命じられるということは、それだけの被害を与えたということでもあります。
また、出勤停止期間中に有給休暇を取得することは認められません。そもそも有給休暇とは、労働義務のある日についてのみ取得できるものです。そのため、労働義務のない出勤停止期間中は有給休暇を取得できないものとされています。
実は、出勤停止の期間については法律で明記されている訳ではありません。そのため会社の就業規則にて定めておく必要があります。
不当に長い期間を設定してしまうと企業側が懲戒権濫用にあたる可能性もあるため、きちんと対象労働者の行為などに照らし合わせて考えなければなりません。
では、出勤停止期間をどのくらいに設定すべきなのでしょうか。一般的には、出勤停止は「数日から数週間程度」の期間となることが多いです。違反行為の程度によっては、数カ月間の出勤停止となることもあります。
違反行為に応じた適切な出勤停止期間を決める際は、過去の判例を参考にするのも良いでしょう。ここでいくつか判例を見ておきましょう。具体的な違反行為と実際に命じられた出勤停止期間をまとめています。
判例 | 違反行為 | 出勤停止期間 |
---|---|---|
東京地裁平成23年11月9日判決 | 上司への暴力行為 | 3日 |
東京地裁平成15年7月25日判決 | 業務命令違反 | 7日 |
東京地裁平成31年1月31日判決 | 不特定多数の社員へ迷惑メールを送信する業務妨害 | 7日 |
静岡地裁昭和46年8月31日判決 | 出張命令を拒否 | 9日 |
東京地裁平成11年12月18日判決 | 大学入試の書類の改ざんを黙認 | 10日 |
最高裁平成27年2月26日判決 | 男性管理職による女性従業員へのセクハラ行為 | 30日 |
東京地裁平成19年4月27日判決 | 放送局での業務上知り合った女子学生へのセクハラ行為 | 6カ月 |
過去の判例では、セクハラが長期間となっていることがわかります。ハラスメント行為については会社としての名誉にも影響するため、防止対策も兼ねて定めていくことが求められます。
出勤停止のような懲戒処分は、正しくおこなわないと裁判所にて無効と判断されてしまう可能性があります。適切な対応ができるように、出勤停止を命じるまでの流れを解説します。
労働者が違反行為をした場合は、あらかじめ会社にて定めている懲戒処分のルールに則り進めるためにまずは就業規則を確認しましょう。
確認しておきたいポイントは「定めた懲戒事由に該当するかどうか」「始末書の提出を必要とするか」などです。出勤停止となる理由などが規定されており該当する場合でなければ、命じることはできません。そのため、就業規則が不十分である場合は、違反行為が起こる前に見直しておくことが大切です。
次に違反行為についての事実確認をします。懲戒処分について、労働契約法第15条では以下のように定めています。
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、(中略)客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
間違った情報で懲戒処分をおこなってしまえば、「社会通念上相当であると認められない場合」として出勤停止が無効となることも考えられます。具体的には「ほか労働者の証言・録音や映像のデータ・メール」などの客観的証拠があれば理想です。
また、対象労働者本人にヒアリングすることも忘れずにおこないましょう。このタイミングで確認できた証拠・証言などは資料としてまとめておくことも大切です。自社内での過去事例などがあれば参考にするのも良いでしょう。
事実確認ができれば、次は対象労働者へ弁明の機会を与えましょう。弁明の機会は、処分予定の内容を告知して言い分を聞くことから「告知聴聞」とも呼ばれます。
対象労働者の言い分を聞かずに懲戒処分を命じた場合、裁判所で無効とされる理由になることがあります。就業規則上で本人に弁明の機会を付与することが定められている場合は、必ずこの弁明の機会を設けます。
また、そもそも事実確認のタイミングで得られた証拠と異なる内容であるという場合も考えられます。弁明内容によっては出勤停止よりも軽い処分となることもあるでしょう。
弁明も終わり、懲戒処分することが決まれば「懲戒処分通知書」を対象労働者へ送付します。懲戒処分通知書には以下の項目を記載します。
懲戒処分通知書に法律で定められたフォーマットはありません。社内で様式がない場合には、無料のテンプレートを活用しましょう。
弊サイトでは、出勤停止を命じる際に使える懲戒処分通知書の無料テンプレートを用意しています。必要に応じて下記からダウンロードの上、ご自由にご活用ください。
懲戒処分通知書(出勤停止)のテンプレートを無料ダウンロードする>>
また、始末書を提出させる旨が就業規則に規定されている場合は、提出期限も記載しておきましょう。
最後に、出勤停止を命じる際に気をつけたいポイントをご紹介します。
一事不再理の原則とは、同一の違反行為について2回目の懲戒処分を科すことはできないという決まりのことです。二重処罰の禁止とも言われます。これは日本国憲法第39条にも定められていることです。
何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
そのため、出勤停止を実施する場合は、過去に同じ違反行為にて懲戒処分を受けていないか確認する必要があります。
就業規則に準拠して、似ている違反行為については同程度の懲戒処分にすることが大切です。公平性をもって対応できるように、過去の事例などがあれば参考にしましょう。
出勤停止とは、就業規則違反や業務命令違反をした労働者に対して、一定期間の就労禁止を命じることです。企業は、出勤停止期間中に賃金を支給する義務がありません。また、有給休暇の取得も認められません。
出勤停止となる違反行為には、無断欠勤やハラスメント行為などが挙げられます。違反行為に応じて、就業規則に出勤停止期間の長さを定める必要があります。出勤停止を含む懲戒処分は、裁判所で無効と判断されることもあるため、公平性があり適切な出勤停止処分を決めることが大切です。
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