年末調整をしなかった場合のデメリット
- 税金の過払いが発生する
- 控除の申告ができない
- 延滞税が発生する
- 従業員が自分で確定申告する必要がある
- 資産を差し押さえられる場合も
- 罰則が科せられる
年末調整とは、年に一度所得税額を再計算し、過不足なく納付するための手続きです。基本的にすべての従業員に実施することが義務づけられていますが、なかにはしなくていい人もいます。
では、もし年末調整の対象者が年末調整をおこなかった場合はどうなるのでしょうか?この記事では、年末調整をしないとどうなるのか、その考えられるデメリットと年末調整を忘れてしまった場合の対処法などについて解説します。
目次
年末調整は、基本的にすべての従業員におこなう必要があります。仮に年末調整の対象者が実施しなかった場合、以下6つのデメリットが発生する恐れがあります。
年末調整をしなかった場合のデメリット
年末調整は、毎月源泉徴収で差し引いた所得税を再計算し、過不足を精算する制度です。そのため年末調整をしなかった場合は、所得税が過払いになっていたとしても従業員は還付を受けられません。
基本的に、正確な所得税額よりも源泉徴収額の方が多くなることがほとんどです。そのため還付を受けられないと従業員の負担が増加し、モチベーションの低下を招く可能性が高いです。
年末調整は正確な所得税額を計算するために、所得だけでなく各種控除の申告もおこないます。年末調整時に受けられる主な控除は、以下のとおりです。
年末調整時に受けられる主な控除
しかし年末調整をしなかった場合は、これらの控除を受けられません。そのため従業員の所得額が多く算出されてしまい、支払わなくてはならない所得税額も高くなります。
所得税や源泉徴収税で不足額が生じていたにもかかわらず年末調整をしなかった場合、期限までに不足額を納付できず延滞税がかかってしまいます。
延滞税が発生すれば企業の経営に大きな悪影響を与えるため、年末調整は必ずおこないましょう。
年末調整をしないと、従業員が自分で税額の過不足を精算し確定申告しなければなりません。確定申告は従業員にとって大きな手間であり、申告時期になると通常業務に支障が出る可能性もあります。
従業員の確定申告が常態化すれば、企業に不満をもつ従業員も増え退職者が増加してしまうでしょう。企業の生産性や人材定着の観点からも、年末調整は必ずおこないましょう。
年末調整をせず正しい納税額を収められない場合、資産を差し押さえられる可能性もあります。納税額に不足分がある場合は税務署から催促状が届き、指示された金額を支払わなければなりません。
その後、税務署からの電話や書面での指示に従わなければ、強制的に資産を差し押さえられるケースも考えられます。税務署から催促がきた際には、速やかに対応しましょう。
年末調整は基本的にすべての従業員に対しておこなう必要があり、所得税法で義務が課せられています。
また、不適切な処理が発覚したことで社会的信用や従業員からの信頼を大きく失いかねません。業績の大幅な悪化や倒産につながる恐れもあります。
会社は給与や賞与を支払う際に、従業員が確定申告する手間を省くために源泉徴収※をおこなう義務があります。ただし、源泉徴収で差し引く額はあくまでも概算です。
源泉徴収とは給与などの支払者(会社)が、給与を支払うときに所得税などを天引きして、納税者本人に代わって国などに納付するしくみのこと。
再計算後に正確な所得税額が源泉徴収額よりも少なければ差額を従業員に還付し、反対に多ければ不足分を従業員から徴収します。一部のケースを除き、従業員に対して年末調整をおこなうことは会社の責務です。
年末調整と確定申告はどちらも所得税を確定させる手続きですが、対象者に大きな違いがあります。
概要 | 対象者 | |
---|---|---|
年末調整 | 従業員の代わりに企業が 所得税の過不足精算をおこなう手続き |
給与支払いを受ける人々 |
確定申告 | 1年間の所得を計算し、 所得税を申告・納税する手続き |
給与支払いを受けていない個人 |
年末調整は、従業員の代わりに企業が所得税の過不足精算をおこなう手続きで、サラリーマンなど給与支払いを受ける人々が対象です。
一方、確定申告は1年間の所得を自ら計算して所得税を申告・納税する手続きで、個人事業主や年金受給者など給与支払いを受けていない個人が対象となります。
ただし、給与支払いを受けている人でも、副業をおこなうなど複数の収入源がある場合や医療費控除を申告する場合は、確定申告が必要です。
年末調整を実施する際は、まず11月頃に従業員に必要となる書類を提出してもらいましょう。なかでも「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は必ず必要であり、提出されていなければ年末調整を実施できません。
書類を回収した後は、記載事項をもとに従業員一人ひとりの税額を計算します。次に計算した税額と源泉徴収税額を照らし合わせ、過不足を清算します。
最後に源泉徴収票や法定調書を作成し、翌年1月31日までに税務署や市区町村に提出すれば完了です。
▼年末調整に必要な資料をまとめてダウンロードしたい方は以下より
給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書をダウンロードする>>
基本的に年末調整は、すべての従業員が対象となります。具体的には以下の条件に当てはまっている従業員が年末調整の対象です。
年末調整が必要となるケース
上記の条件に該当する従業員に対しては、一部のケースを除いて雇用形態や勤続年数にかかわらず年末調整を実施する義務があります。そのため正社員のみならず、アルバイトやパートタイム社員なども年末調整の対象です。
会社の義務である年末調整ですが、一部不要となるケースもあります。具体的には以下の条件に当てはまる従業員は、年末調整の対象外です。
年末調整をしなくていい人
年間の給与額が2,000万円以上の場合は、年末調整の対象外となります。この場合、従業員が確定申告をおこないます。一方で、年間の給与額が103万円以下の場合はそもそも所得税が課税されないため、確定申告を実施する必要もありません。
ただし源泉徴収をしていた場合は、年間の給与額が103万円以下でも還付するために年末調整を実施する必要があります。
会社が年末調整をおこなうためには、従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらう必要があります。そのため、書類を提出していない従業員は年末調整の対象外となります。
仕事のかけもちや副業などで、2か所以上から給与を受け取っている場合でも、年末調整はどこか一つの勤務先のみで実施します。そのため、ほかの勤務先で年末調整を受けることを選んだ従業員に対しては、年末調整を実施する必要がありません。
年末調整と副業については、以下の記事で詳しく解説しています。
年末調整はあくまでも「給与を支払っている方」が対象となります。業務委託契約を結んでいる方の場合は給与ではなく報酬を支払うことになるため、年末調整の対象外です。
ここからは、年末調整の対象者が万が一何らかの事情で年末調整ができなかった場合の対処法を解説します。年末調整をしていないまま放置していると、会社としてより大きなダメージを受けることになるため、迅速に対応しましょう。
会社が年末調整をできなかった場合は、従業員が確定申告をおこなう必要があります。確定申告の期限は、翌年2月16日から3月15日までです。会社は速やかに確定申告時に必要な源泉徴収票を発行し、なるべく従業員の負担を軽減できるようにサポートしましょう。
年末調整をしないで確定申告する場合は、以下のやり方で進めます。
基本的な流れ | やること |
---|---|
1.源泉徴収票を 会社から受け取る |
会社から源泉徴収票を受け取り、給与額や源泉徴収額などの記載情報をもとに確定申告書を作成する。基本的には12月にその年の源泉徴収票が企業から発行され手元に届く。 |
2.控除に必要な 書類を用意する |
確定申告で所得控除に必要な以下の金額を示した証明書を用意する。 ・生命保険料 ・ふるさと納税額 ・医療費 ・住宅ローン など |
3.確定申告書 の作成 |
源泉徴収票や控除証明書の情報をもとに、確定申告書を作成する。作成方法は直接手書きで記載するか、税務署の公式サイトよりオンラインで作成する。 |
4.確定申告書 の提出 |
源作成した確定申告書を管轄の税務署に提出する。提出方法は以下3つのパターンがある。 ・郵送 ・直接持参 ・オンライン |
確定申告書を提出した後は、最終的な納税額が決定されます。すでに納付済みの源泉徴収額より納税額が少なければ差額分が還付されます。
還付申告制度とは正確な所得税額よりも多くの税金を納めている場合、申告することで還付を受けられる制度です。
還付申告制度は確定申告と同様に従業員個人がおこなう必要があるため、年末調整ができなかった場合は制度を周知しておきましょう。
もし従業員で会社に年末調整で必要な申告書を提出し忘れていたときは、年末調整のやり直しを会社に相談しましょう。
ただし、年末調整書類を会社が税務署に提出してしまっている場合、手続きのやり直しは難しいです。すでに会社が年末調整作業を終えてしまっている場合は、従業員自身で確定申告しなければなりません。
年末調整を簡単に終わらせる方法として、以下2つが挙げられます。
一つ目は「年末調整システム」を利用することです。近年は年末調整に特化したシステムを多くの会社がリリースしており、システムを導入することで年末調整に必要な以下の作業を一元管理・効率化できます。
年末調整を紙ベースでやりとりすると、申告書の配付・回収作業などに手間がかかります。
下記の記事でおすすめの年末調整システムを紹介しているため、気になる方はチェックしてください。
二つ目は「年末調整作業を外注する」ことです。従業員が作成した申告書の回収や控除証明書の内容を確認するなど、年末調整に必要な作業を代行してくれるサービスが存在します。
こうした年末調整作業の代行サービスを利用すれば、経理や総務の作業負担を大きく軽減できます。また、年末調整に関して専門的な知識をもち合わせているため、納税額の計算ミスなどの心配がない点もメリットです。
代行サービスを利用することで、自社でほとんど手間をかけずに簡単に年末調整を終えられるでしょう。ただし、自社で年末調整をおこない効率化させたい場合は、先述の年末調整システムの導入がおすすめです。
年末調整をしなかった場合に発生するデメリットや対処法について解説しました。
年末調整は会社の義務であり、実施しなかった場合は脱税とみなされて罰則を受ける可能性があります。また会社としての信頼を失い、業績に大きな影響を与える恐れもあります。
担当者は年末調整の計算方法や年末調整の書き方を確認し、年末調整の提出期限内に必ず忘れずに実施しましょう。
万が一年末調整ができなかったとしてもそのまま放置せず、迅速に対処してダメージを最小限に抑えることが大切です。
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