更新日:
人材・組織多くのスタッフをアルバイトやパートタイムで補う飲食店やサービス業は、人事労務管理に割り当てる時間も多く、人事労務管理の効率化がコア業務に注力する時間の確保に大きな影響を与えます。
今回は厳格化が進む労務管理と、業務の自動化・効率化が可能な労務管理システムについて解説します。
目次
数ある業種の中でも、人材管理・労務管理の負荷が高いことで知られる業種が飲食店・サービス業です。その理由は下記が挙げられます。
飲食店の場合、法定手続きなどの定型業務に加え、
などの管理業務も煩雑になりがちであり、アルバイトや契約社員などの雇用形態で働く人が多く、学生の占める割合が高くなります。その結果「管理職が店舗運営に集中できない」という悩みを抱えている経営者も多いことでも知られています。
本部に労務管理システムを導入し、定型業務を集約させることで、現場の管理職や人事労務担当者は店舗運営や戦略人事に集中でき、売り上げに直結する業務に注力できます。
限られた時間の中ですべての業務に従事するよりも、店長など管理職にしかできない業務や対人コミュニケーションに集中することが、結果的に人材の定着率向上、および育成によるサービス向上につながります。
また法定手続きに変更があった場合、何が変わったかを理解し、運営の変更作業を行わなくてはならないため、業務量も必然的に増えてしまいます。手続きの遅れがあると罰則を科されてしまうこともあります。
多くの労務管理システムは法改正にも自動対応し、煩雑な作業も即座に処理できるようになります。
日本全体が深刻な人手不足に陥っており、少子高齢化の影響でアルバイトを担う学生の母数も減っています。パートやアルバイトを学生や主婦に依存している飲食店の場合は、採用難が深刻です。
帝国データバンクが発表した『人手不足に対する企業の動向調査(2017年1月)』において、「飲食店」の 8 割超が、非正社員が「不足」していると回答しています。
【出典】人手不足に対する企業の動向調査(2017年1月) – 帝国データバンク
その場しのぎに人員補充を行った結果、早期退職や育成不足による心理的負担、無断欠勤など多くの失敗を経験している店舗も多く、ミスマッチや育成不足による離職を防ぐためにも、戦略的な採用活動が必要です。
現場で働く店長や副店長など管理職は、スタッフ不足の場合、代わりに出勤することもあれば、店長として従業員のシフトを組んだり、面接をしたり、各種手続きを行ったりと多くの業務に追われています。
人事労務管理が疎かになると、管理職自身がストレスを抱えてしまい、退職や労働時間超過などの法令違反になるリスクが高くなります。
店長業務の一つにスタッフの労務管理が含まれますが、管理職自身も経営側がきちんと労務管理しなければなりません。
経営者も、店長など現場管理職を含む従業員全員の労務管理がきちんと行われているか、法令違反はないかを適宜確認する必要があります。
主に「労働基準法の内容をしっかり理解しているか」、「法令違反させない仕組みになっているか」を確認しましょう。従業員にも労務管理の周知を徹底し、会社全体で法令違反をさせない職場の雰囲気を作っていくことが大切です。
労働基準法に関する確認項目をご紹介します。ぜひ確認してみてください。
飲食店で気をつけたい労働基準法の確認項目は、以下となります。
労働基準法第9条において、以下のように定められています。
第9条 この法律で「労働者」とは,職業の種類を問わず,事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で,賃金を支払われる者をいう。
職業の種類を問わず、事業・事務所など※で使用される者で、賃金を支払われる者には労働基準法が適用されます。
営利、非営利にかかわらず、業として継続的に行われているものを言う。
労働基準法第60条において、18歳未満の労働者(以下、年少者)を1日8時間、週40時間を超えて働かせることが禁じられています。また、午後10時から翌日午前5時までの時間帯に働かせることもできません。
加えて年少者には原則、時間外労働や休日勤務、フレックスタイム制や変形労働時間制などを適用することはできません。ただし、15歳以上満18歳未満の者については、満18歳に達するまでの間は、1週間について48時間、1日について8時間を超えない範囲内においてという条件であれば、労働への参加が可能です。
詳しくは関連記事をご参照ください。
労働基準法第32条には、労働時間については「休憩時間を除き1週間40時間、1日8時間を超えて労働させてはならない」と定められています。ただし、変形労働時間制という働き方も可能であり、
という4つの種類があります。それぞれ条件はありますが、検討の余地がありそうであれば検討してみてください。
労働基準法第34条では「使用者は労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合には1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなくてはならない」とされています。そのため、8時間通して労働に参加させることは法令違反です。
また「労働」とは一般的に使用者の指揮監督下にある状態を指します。必ずしも精神的、肉体的に活動させることではありません。
「休憩時間」は労働者の時間利用に自由が保証されていなければならないため、使用者の指揮監督下にある時間は「休憩時間」と認められません。出席を義務づけている研修は「手待時間」とされ、労働時間に含まれます。
労働基準法の確認が済んだ後は、法令を遵守できる制度、仕組みを見直しましょう。
繁忙期と閑散期に差があり、労働時間を一律にすることが難しい場合「変形労働時間制」を導入するよう就業規則を変更しましょう。変形労働時間制は繁忙期の残業を削減することや人員過剰によるコスト負担も解決することができ、従業員の負荷を低減できるため、経営者・従業員双方にメリットがあります。
また、シフト管理の徹底も重要です。どの時間帯に、何人シフトに入れるかだけでなく、個々の従業員の能力や特性も考えるようにしましょう。そのためには、従業員ごとにどういう業務なら可能か、普段から面談を通じてコミュニケーションを取り、スキルや適性を見極める必要があります。
時間帯や職種によって企業が求める仕事レベルや、適性が変わってくるため、従業員の能力と適性を基準にした人員配置も必要最低限の人員体制の構築につながり、労務管理もしやすくなります。
社会保険関連の加入義務の確認も必要です。
一時的なアルバイト雇用であったとしても、労働者を一人以上雇ったら原則として事業主は労災保険に加入しなくてはなりません。
またどのような雇用形態であっても、31日以上の雇用見込みで、1週間あたりの労働時間が20時間を超える従業員は、雇用保険に加入させる義務が発生します。
正社員はもちろん、アルバイト・パートタイムであっても、療養給付や休業補償は適用されます。休業補償とは、業務中の事故、または病気により働けなくなった人に対して労災保険から支払われる補償をいいます。
平成29年1月1日から雇用保険の適用範囲が拡大されました。65歳以上の従業員は「高年齢被保険者」として、雇用保険への加入が必要となります。
短期雇用特例被保険者・日雇労働被保険者を除く被保険者のうち、4月1日時点で満64歳以上になる従業員がいる場合は、免除対象高年齢労働者となります。
在留資格を持っている留学生であっても、地方入国管理局で取得することのできる「資格外活動許可」を持っていなければ働くことはできません。ただし、資格外活動許可を取っていたとしても、さまざまな条件や制限がつきますので注意が必要です。
守るべき法令が多く、すべてを理解して正しく手続きを行うには、多くの時間を要します。人事労務管理の定型業務は自動化・効率化し、コア業務に割り当てる時間を生み出す方法を考えましょう。
管理職や店長の業務範囲は広く、小規模のお店の場合は店長が
などすべてを行うこともあります。煩雑な法令や手続きをすべて理解して労務管理を行う必要があり、現場管理職の業務過多になってしまうため、労務管理、法定手続きは労務管理システムを活用し、効率化しましょう。
労務管理システムは勤怠管理や給与計算、採用管理、それぞれ強みやできることが異なります。さまざまな労務管理システムを比較して検討するとよいでしょう。
最近では、インターネットの普及によりクラウド型の労務管理システムが増えてきています。クラウド型労務管理システムには以下のメリットがあります。
多くのクラウド型労務管理システムは、企業規模によって金額が変動します。店舗数や従業員数などを考慮して選びましょう。
労務管理システムの導入後は、打刻や各種労務関連の申請方法を従業員へ周知する必要があります。従業員の待機部屋に説明冊子を置いたり、管理職・一般従業員向けの社内研修を行ったりするなど、従業員全員が労務管理システムに移行できるよう体制を整えましょう。
労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
詳しいプロフィールはこちら