この記事でわかること
- 育児休業給付金がもらえる条件(2人目・延長の場合も)
- 育児休業給付金がいくらもらえるのか分かる計算方法
- 育児休業給付金の申請方法
- 2022年4月からの「新育児・介護休業法」の改正ポイント
育児休業中には、育児休業給付金が受け取れます。対象となる従業員が育児休業給付金の受給を希望した場合、企業は必ず対応しなければなりません。しかし、そもそもどのような方が受給対象となるのでしょうか?
今回は、育児休業給付金がもらえる条件・申請方法のほか、育休・出産に関する複数の制度の紹介、さらに2022年4月から段階的に施行された「育児・介護休業法」の改正点を解説します。
2人目の子供を出産した場合、育児休業給付金はいくらもらえるのか、育児休業給付金の延長申請ができる条件など、具体的な例も確認していきましょう。
この記事でわかること
大学卒業後、鉄鋼関連の企業に総合職として就職し、その後医療機関人事労務部門に転職。 約13年間人事労務部門で従業員約800名、新規採用者1,000名、退職者600名の労務、社会保険の相談対応にあたる。 社労士資格取得後にみのだ社会保険労務士事務所を開設し、独立。
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目次
育児休業給付金とは、出産と子育てにより発生する育児休業期間中に対象者へ支給される手当です。
育児休業中は就業が難しく、本来の給与が入ってきません。そのような状態でも生活に困らないよう、受給条件に当てはまる場合は一定の給付金をもらえます。
育児休業給付金の支給日は、出産から4〜5カ月後が目安となります。育児休業給付金は申請後の審査に2週間前後かかり、支給が決定されれば1週間ほどで口座に振り込まれる流れです。
ただし、育休は産後8週間後から始まるうえ2カ月分をまとめて支給する仕組みのため、出産から入金までにおおよそ4〜5カ月かかります。
育児休業開始直後にもらえるわけではなく、しばらくは貯蓄や夫婦どちらか一方の収入などで生活費をまかなわなければいけないため、注意が必要です。
育児休業給付金がもらえるのか・もらえないのかについては、以下4つの条件を確認しましょう。
雇用保険に 加入しているか |
自営業や個人事業主(フリーランス)は雇用保険に 加入できないため、育児休業給付金が受け取れない。 |
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1歳未満の 子供がいるか |
育児休業給付金は1歳未満の子供がいる場合に申請が可能。 また、育児休業の期間同様、一定の条件で延長も可能。 |
育児休業取得以前の 2年間で、規定の期間を 勤務しているか |
過去2年間に、1カ月に11日以上働いた月※が12カ月以上あること。 この期間を満たせば、正社員や契約従業員・パートタイム などの雇用形態を問わず、育児休業給付金の受給対象となる。 ない場合は、1カ月の合計勤務時間が80時間以上の月 |
育児休業期間中の 就業日数や金額について |
育児休業期間中、1カ月に10日以下しか働いていないこと。 もしくは、1カ月の合計勤務時間が80時間以下であること。 勤務している場合は、支払われた賃金が休業前の8割以下であること。 |
育児休業給付金は、育児休暇中の男性も取得が可能です。最近では、パパ・ママ育休プラスが施行され、夫婦が同時に育児休暇を取りやすくなりました。
夫婦が同時に育児休暇を取得していても、条件を満たせば夫婦ともに育児休業給付金の受け取りが可能です。
原則、養育している子供が1歳となった日の前日※までである育児休業給付金ですが、一律給付金を停止した場合に困る家庭もあります。そのため一定の条件を満たせば、延長が可能です。
具体的には1歳の誕生日の前々日。民法の規定上、誕生日の前日をもって満年齢に達したとみなされるため。
育児休業給付金延長の条件
育児休業中に就業した場合、育児休業中の就業日数が10日以下もしくは就業時間が80時間以下であれば、給付金は支給されます。
また、育児休業期間中に就業した際の賃金が、再度育児休業を取得した際の育児休業給付金の支給額算定に影響を与え、減額となる可能性があります。育児休業中に就業する場合は、上記の就業日数・時間に注意しましょう。
育児休業給付金として受け取れる金額は、下記の計算式で算出されます。
直近6カ月 | 労働者の育児休業開始時賃金日額×支給日数(原則30日)×67% |
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6カ月経過後 | 労働者の育児休業開始時賃金日額×支給日数(原則30日)×50% |
育児休業開始時賃金日額とは、休業開始時賃金月額証明書にある金額の休業開始前の6カ月の賃金を日割りにした金額です。
たとえば、休業開始前の6カ月で合計180万円(1カ月30万円)の賃金を得ていた場合、育児休業給付金の支給額は以下のとおりです。
休業開始前の就業日数は1カ月30日で計算
計算式 | 支給額 | |
直近6カ月の 育児休業給付金支給額 |
1万円×30日×0.67 | 20万1,000円 |
---|---|---|
6カ月経過後の 育児休業給付金支給額 |
1万円×30日×0.50 | 15万円 |
育児休業給付金は非課税です。所得税はかからず(翌年の住民税算定額にも含まれません)、育児休業中の社会保険料は労使ともに免除されます。給与所得がなければ、雇用保険料も発生しません。
2人目の場合であっても、雇用保険に加入していれば、育児休業給付金の申請は可能です。
1人目の育児休業から復帰した後は、産休・育休前より時短勤務(定時よりも早く帰宅すること)を希望する方が多く、給与額が総支給額より減少する傾向にあります。
時短勤務のまま2人目を出産した場合、1人目の育児休業取得時よりも休業開始時賃金月額証明書の金額が減ります。その理由は、フルタイム勤務から時短勤務へと変更した場合、支払われる給与が減少するからです。
そのため連続して育児休業を取得し、フルタイム勤務時の労働時間での給付額を受け取る従業員も多くいます。人事・労務担当者は育児休業から復帰した従業員を迎える場合、このような育児休業の取得ケースがあることも念頭においておきましょう。
ここからは、育児休業給付金を申請する際に必要な書類と申請の流れについて解説します。育児休業給付金の申請をおこなうタイミングなどは注意が必要なため、よく確認しておきましょう。
育児休業給付金の申請は、対象の従業員に申請書類を記載してもらい、企業が従業員の代わりに申請します。育児休業給付金の申請に必要な書類と手続きの流れは、以下のとおりです。
育児休業給付金に必要な申請書類
育児休業給付受給資格確認票・育児休業給付金支給申請書はハローワークから取得します。
なお、育児休業給付金は原則2カ月ごとに支給申請をおこなう必要があります。2回目以降も育児休業給付金を申請する場合は、育児休業給付受給資格確認票以外の初回提出時と同様の必要書類を用意してハローワークで申請してください。
2020年4月より、特定の法人においては雇用保険の育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書と育児休業給付金支給申請書は、電子申請義務化の対象となりました。
育児休業給付金以外にも、育児休業を補助する制度は存在します。休業制度や給付金制度をうまく活用して、育児休業に役立てましょう。
「産後パパ育休(出生時育児休業)」とは、2022年10月より新設された父親のための産後休業制度です。これまで「パパ休暇」という、妻が出産後8週間の期間内に夫が育児休業を取得した場合、再度育児休業を取得できる特例制度がありました。
なおこの制度は、子供が1歳(最長2歳)になるまで取得できる育児休業制度とは別に取得できます。
出生時育児休業給付金とは、出生時育児休業中に支給される給付金のことです。以下の支給要件を満たす場合に申請が可能となります。
上記の要件を満たすと、以下の計算方法によって算出された金額を受給できます。
労働者の出生育児休業開始時賃金日額×休業期間の日数(28日が上限)×67%
出生育児休業開始時賃金日額とは、育児休業給付金同様、休業開始時賃金月額証明書にある金額の休業開始前の6カ月の賃金を日割りにした金額です。
ただし、出生育児休業開始時賃金日額は15,190円の上限額が定められており、出生時育児休業給付金の支給上限額は28万4,964円(=15,190円×28日×67%)となります。
パパ・ママ育休プラス制度とは、対象の子供の年齢が1歳2カ月になるまで、育児休業が延長できる制度です。
同時に育休を取得、もしくは交代で取得ができるため、夫婦で同じ職場に勤めている従業員にとって最適な制度です。パパ・ママ育休プラス制度は、以下の条件を満たすことで申請が可能です。
時短勤務制度とは、3歳未満の子供をもつ労働者が1日の労働時間を短縮する制度です。
対象となる従業員から時短勤務の請求があった場合、事業主は時短勤務、もしくは時短勤務に代わる措置の実施が義務づけられています。
子の看護休暇とは、育児や介護をおこなう労働者が、育児・介護休業法に定められている子供の病気やけがなど、看護が必要なときに利用できる休暇です。
小学校就学前までの子供がいれば、事業主に申し出ることで、看護休暇の取得申請が可能です。1名であれば年5日、2名以上であれば10日まで取得できます。
また、改正前は半日単位での取得、1日の所定労働時間が4時間以下の労働者は取得できませんでしたが、2021年の改正後はすべての労働者が取得できるようになりました。
2021年6月に育児・介護休業法が改正され、男性もより積極的に育児休業を取得できるような育休法が新たに追加されるなど、いくつかの変更点が追加されました。
新育児・介護休業法は、2022年4月より段階的に施行されています。企業側は改正ポイントをしっかりと把握し、適切に対応できるようにしておきましょう。
2022年4月1日より、以下の項目が施行されます。
労働者が、育児休業や産後パパ育休の申請がしやすくなるように、事業主は以下のいずれかの措置を講じ、職場環境の整備に努める必要があります。
また下記の措置に関し、できる限り複数の措置を講じることが望ましいとされています。
事業主は、本人または配偶者の妊娠・出産などを申し出た労働者に対し、育児休業制度などに関する事項の周知と、休業取得の意向確認について、個別に対応する必要があります。
なお、育児休業取得を控えさせるような、個別周知と意向確認は認められません。
周知事項
個別周知および意向確認は、以下のいずれかの方法によりおこないます。
個別周知・意向確認方法
面談はオンライン面談も可能であり、FAXや電子メールなどは、労働者が希望した場合のみ対応します。
2021年6月の改正前までは、有期雇用労働者に対する育休および介護休業取得要件は「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」でしたが、新しい改正法より、本要件が撤廃されました。
有期雇用労働者に対する育休取得要件は「1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかでない」のみとなり、無期雇用労働者と同様の取り扱いになります。
2022年10月1日より、以下の項目が施行されます。
新たな改正法により、男性従業員の育休取得を促進するため、通称「男性版育休」ともいわれる「産後パパ育休(出生時育児休業)」が新設されました。
そのためより一層、男性も育児休業が取得しやすくなることが期待されます。
休業対象期間 | 子の出生後8週間以内 |
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取得可能日数 | 4週間まで |
申請期限 | 原則休業の2週間前まで 雇用環境の整備など、今回の改正で義義務づけられている内容以上の 取り組みの実施について、労使協定で定められている場合は、 1カ月前までとすることが可能 |
分割取得 | 分割して2回取得可能 初回にまとめて申し出ることが必要 |
休業中の就業 | 労使協定を締結している場合に限り、 労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能 |
育児休業中の就業について、具体的な手続きの流れは以下の場合が想定されます。
育児休業中の就業における
具体的な手続きの流れ
今回の改正により「パパ休暇」制度は廃止され、代わりに「産後パパ育休(出生時育児休業)が新設されます。
なお「パパ・ママ育休プラス」については、従来どおり継続されます。
2023年4月1日より、以下の項目が施行されます。
常時雇用する従業員が1,000名を超える事業主は、育児休業などの取得状況を年に一度公表することが義務づけられました。
自社のWebサイトほか、厚生労働省が運営するWebサイト「両立支援のひろば」での公表も推奨されています。
職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業などに関するハラスメント対策やセクシャルハラスメント対策は、事業主の義務です。
男女雇用機会均等法では、女性労働者の妊娠・出産など厚生労働省令で定める事由を理由とする解雇そのほか不利益取り扱いを禁止しています。
また、育児・介護休業法でも育児休業などの申出・取得を理由とする解雇、そのほか不利益な取り扱いを禁止しています。
育児休業に関して、上司・同僚を含む従業員すべてにマタニティハラスメントを防ぐための研修を実施し、健全な労働環境を構築することが大切です。
従業員が育児休業給付金を請求した場合、企業は速やかに育児休業給付金の申請を進めなければなりません。
近年、育児休業関連の法律は頻繁に改正されています。法令違反にならないよう、常に新しい情報を確認し、適切な対応を取りましょう。