この記事の結論
- 内定には一般的に使われる内定と労働契約における内定がある
- 内定取り消しは労働契約の解除にあたることから合理的な理由が必要
- 内定辞退は無期雇用と有期雇用で条件が異なる
この記事の結論
内定制度は、採用のミスマッチに伴う離職を防止するために設けられている制度です。内定制度がない企業もあるものの、リスク対策の観点からなるべく取り入れた方がよいでしょう。
また、内定の取り消しは法律で厳しく制限されているため、自由におこなえるものではありません。
本記事では、内定の意味や採用との違い、取り消しの要件や内定辞退を防ぐ対策などについて詳しく解説します。
目次
内定には、”一般的に使われる”内定と、”労働契約における”内定があります。
企業が求職者に対して、採用する意向を通知することです。労働契約を結ぶ前に給与や勤務条件などを再確認し、入社するかどうかを決定するための期間を与えることで、ミスマッチによる早期の離職を防止することを目的としています。
求職者は、採用が確定した時点で就職活動や転職活動を中止し、入社を即座に決める場合があります。しかし、一時の気持ちで入社を決めてしまうと入社後にミスマッチが発覚し、早期に離職してしまうことになりかねません。そうなれば企業としても採用活動費が余計にかかるため、内定制度を導入しています。
一方、労働契約における内定は、企業が求職者に採用したい旨を通知し求職者がそれに応じることです。
内定と似た言葉として、採用や内々定との違いについて詳しく見ていきましょう。
一般的に使われる「採用」という言葉は、内定(一般的に使われる内定)を出した求職者から入社の意向が企業へ伝えられ、労働契約を締結することを指します。労働契約における「内定」と「採用」の違いは、労働契約を締結した状態かどうかです。
定義 | |
---|---|
採用 | 求職者が選考に通過しただけの状態。求職者は、その会社に入社する意思を示していないうえに、労働契約を結んでいません。 |
内定 | 企業が求職者に対して採用する意向を伝えた後、企業と求職者の合意によって労働契約が結ばれている状態。 |
採用は労働契約が成立する前のため、法的拘束力はありません。一方、内定は労働契約が成立しているため法的拘束力が生じ、採用の取り消しが通常はできなくなります。
内々定とは、内定を出す予定である旨を求職者に伝えることです。口頭やメールで伝えることが一般的です。
内々定は、内定を出す予定を伝えているもののため、内定は出ていません。そのため労働契約は成立しておらず、法的拘束力も生じないことから、結果として内定を出さないことも可能です。
ただし、内々定は求職者にとっては内定と同義と捉えるため、正当な理由なく取り消すと企業のイメージが損なわれる可能性があります。
内定後は、次の流れで対応します。
内定後の手続きの流れ
それぞれの方法や手続きについて詳しく見ていきましょう。
内定通知書とは、内定した旨を求職者に伝える書面のことです。内定通知書に対して求職者が承諾すると、労働契約が成立します。
内定通知書の送付は法律で定められていることではありません。しかし、内定を出したかどうかでトラブルになる可能性があるため、内定通知書の送付は必須でしょう。また、内定通知書に承諾するかどうかを決めるためには労働条件を知る必要があるため、労働条件通知書も同封します。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
内定通知書には、次の項目を記載しましょう。
記載事項 | 記載内容 |
---|---|
内定の旨 | 内定した旨を記載する |
内定承諾書の返送依頼 | 内定承諾書の記入と返送のお願い |
内定取り消しについて | 内定取り消しの可能性がゼロではない旨を記載する |
内定の旨 | 内定を承諾した場合の入社予定日 |
内定承諾書の返送依頼 | 配属先や業務内容、就業場所、給与や手当、労働時間など |
内定取り消しについて | 内定通知書について質問があるときの問い合わせ先 |
内定通知書の決まったフォーマットがない場合は、こちらの無料テンプレートをご活用ください。
雇用契約とは、労働者が会社から与えられた業務を遂行し、その対価として会社が報酬を支払うことを約束する契約です。雇用契約書は「信書」に該当し、以下のいずれかのサービスで送る必要があります。
入社するにあたり、さまざまな手続きをおこなう必要があります。手続きに必要な以下の資料や情報の提供を依頼しましょう。
求職者が入社した時点で、社会保険や雇用保険、労災保険などの加入手続きを進めます。
所得税や住民税など、税金関連の手続きもおこなう必要があります。源泉徴収簿の作成や「特別徴収にかかる給与所得者異動届出書」を役所へ提出するなど必要な手続きは多いため、なるべく早く進めましょう。
社会保険は、雇用から5日以内に年金事務所または事務センターに健康保険・厚生年金被保険者資格取得届を提出する必要があります。
雇用保険は、雇用した月の翌月10日を期限として、ハローワークへ雇用保険被保険者資格取得届を提出します。
労災保険は、管轄の労働基準監督署へ保険関係成立届と概算保険料申告書を提出し、労働保険番号が振り出されたら、保険料を納付します。
内定した時点で労働契約が成立しているため、会社側が一方的に内定を取り消すことはできません。合理的な理由を除き、内定の取り消しは違法かつ無効と判断される可能性があるため、条件について確認しておくことが大切です。
ただし、内定取り消しの条件は法律で定められていません。過去の判例を参考にするとしても、全く同じ条件の判例は2つとして存在しないため、内定取り消しにおける訴訟のリスクは解消できないことに注意が必要です。
以下のようなケースの場合、内定の取り消しが違法とならない可能性があります。
しかし次のような場合は、会社側が内定取り消しをすることは違法・無効と判断される可能性があります。
上記はいずれも内定を取り消す合理的な理由には当てはまらないと考えられます。
内定は、求職者が辞退するケースもあります。内定通知書を送った時点で労働契約は成立しておらず、求職者が承諾した場合に成立します。労働契約が成立した後に辞退する場合の対応は、無期雇用(正社員)か有期雇用(契約社員や嘱託社員など)で異なります。
無期雇用の場合は、2週間前に通知することで、労働契約の解除(内定辞退)が可能です。一方、有期雇用(契約社員など)の場合は、内定辞退がやむを得ない状態にあることが条件です。
有期雇用の場合、やむを得ない状態にあるとは言えず、内定辞退の条件を満たさないケースが多々見られます。しかし、入社前であることから条件を満たしていなくても内定辞退を認めることが一般的です。
内定辞退は企業の採用活動に大きな影響を与えるため、内定辞退が起きてしまう理由について確認しておくことが大切です。
内定辞退が起きる理由
このような理由からの内定取り消しを防ぐために、次のように対策しましょう。
内定辞退は、どのような理由であっても企業に迷惑がかかることです。やむを得ない事情を除き、内定辞退をおこなうような人物は、結果的に採用しなくてよかったとも捉えられます。
また、十分に面接対策している求職者は、企業のマイナスのイメージについても調査済みのため、そのような理由で辞退した人物は情報収集が不十分だったといえるでしょう。書類選考や面接で慎重に審査し、十分に対策してきたか、良識のある人物かどうかを見極めることが大切です。
内定辞退を完全に防ぐことは困難です。内定辞退を想定せずに採用活動をおこなうと、必要な人材を確保できない事態になりかねません。人事担当者は内定辞退が起きる可能性を踏まえて、採用活動をおこなうことが大切です。
内定辞退を恐れて過剰に人材を採用すると、人件費を圧迫することになりかねません。企業は、自由に労働者を解雇できないため、多めに採用しつつもなるべく内定辞退が起きないよう対策することが重要です。
内定を求職者が承諾した時点で労働契約が締結され、法的拘束力が発生します。内定取り消しは違法・無効になるかどうかは、理由によって異なります。
一方で、内定辞退は認められやすい性質があるため、企業としては十分な対策が必要です。今回、解説した内容を参考に、内定の手続きや内定取り消し、内定辞退について適切に対応しましょう。
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